間違っているのは世界のほう〈page.1〉
世界が腐ってるとか救われないとか。だれだそんな戯言や厨二台詞言っている奴。とか今までは貶していたけれど。
くりすのあれからその認識が変わった。
二月前半は世の中がバレンタインデー一色に染まり、モテナイ男はこの日を憎み、恋ゴコロのある女子はこの日に総てを賭ける。僕がこの一年で親密にしていた女子など、小野宮先輩かくりす、めぐるちゃんくらいしかいないはずで、その三人が僕に好意を抱いていることはほぼ皆無であるから、今年のチョコレートは絶望視である。そんなことを思いながらどよんと部室に入ると小野宮先輩は事情も知らずただ持っていた漫画からか「絶望したぁ!」と叫んだ。「普通って言うなぁ!」と返した。
今日の日付は二月十三日。明日はバレンタインデーだ。このシーズンを待ってましたとばかりにチョコレートを食べまくる小野宮先輩は何のために学校に来ているのかよくわからない。まぁ、逆に僕や君亜先輩はお菓子を買わなくて済むのだけれど。これで普通にCDが買える。
くりすはというと、今日は早く帰るのだそうだ。一応ここは文芸部室なのだから、普通に本を読んでいく場所として使っているが、月曜日に来ないのは珍しい。いつも月水金は来ているのに。
まさかあのくりすがチョコレートを作る?有り得ない。
小野宮先輩のほうがそういうことが似合っているんじゃないかな、なんて。
そして先輩の座っていた椅子ががらりと音を立てて。
「私、用事あるから帰るね!」
「あーい」
僕と君亜先輩が残されてしまった。
「ねぇ、先輩」
「何だい後輩」
「明日は何の日ですか」
「Π引く一ヶ月」
「現実逃避しないで」
「普通に考えればバレンタインデー」
「もらえますか?」
「どうだろうね?賭けてもいいよ、どっちが多いか」
「そうしますか、掛け金は勝者に五百円ってことで」
さて、当日の朝となった。下駄箱にはひとつも無しかと思ったが、手紙がひとつ。
「昼休みに部室で待ってます」
可憐な文字でそう綴られていた。
昼休みになって部室に出向いて見ると、そこにはくりすの姿があった。
「何?」
くりすが振り返ってこちらを向くと、眼鏡をはずした姿だった。
もどかしいと言いたげになっていたが、深呼吸をしてからくりすは思いと唇に熱いものを僕のもとに贈った。
「好き」
これが悲劇の序章となることも知らずに。