FIRSTCASE 工事現場殺人事件
「さーて、なにしようか?」
そう言ったのはこのサークルの部室の中に一人でいた斎藤君亜という少年だった。
サークルθ(仮名)のメンバーの一人だ。今のところ、他にも二人いるのだが……生憎別の用があるとかでいない。
簡単にいえば、彼は暇を持て余しているのだった。
もちろん彼には一人で遊ぶ趣味など無いし、ここで一人いるのは苦痛以外の何でもないのだ。
「つうかー、どうして先輩をおいていくのかなぁ、羽海野はさぁー。まあ、小野宮先輩も先輩で後輩を置いていくんだけどさぁ」
ぼやきにぼやきを重ねる……それが惨めだとはすぐ気付くが、それでも暇な時間がつぶせるのならいいのだ。
しかし、そんな事をいつまでも言っている暇が無くなるのはあるメールのおかげだった。
内容は
『君亜くん、面白い事件あるけどやるかい?
場所は二丁目の工事現場で、内容は殺人事件なんだけど』
知り合いからだった。
そして、君亜はそれを見た瞬間に、部室を飛び出して現場へと向かった。
◇
そこには警察がいた。まあ、当然なことだろう。現場では警察が動きまわっていた。
たぶん、その中に俺の目的の人物がいるはずだ。
「君亜くん、来たんだね」
「あっ!後藤さん!連絡どもっす、で現場は?」
「うん、こっちだよ……ホントは内緒なんだけどね」
「あははは」
実を言えば、俺こと君亜も含めθの仲間は全員ある程度警察との仲がいいのだった。
俺は先輩の父親……後藤さんのことだが、警察だったために俺は少し無理を言って入れてもらった。
で、なんか事件の証拠を偶然にだが見つける事ができた。
それが功を奏して、今こんなことができるのだった。まあ、俺は手柄はいらないし、ただ楽しめればいいってだけだし、警察も警察で事件を解決を無償でやってくれるのは嬉しいのだろう。
ただ、通り魔とかの武器とか暴力団とかが絡む捜査は駄目だけどね。
―――とか説明しているうちについてしまった。誰に説明してのかは知らんけどね。
「ここだよ」
「……ここって、プレハブ?」
「そうだよ。さらに言えば、このプレハブが完全に、隙間一つない状態で、被害者は殺されていたんだ」
「………」
この時が一番辛い。現場をみるのが、恐い。死んでいる人を見るのは、恐い。前は一回で吐いてしまった。
けど、今は……
「ブルーシートをどかしてください」
「わかったよ、君亜くん」
ブルーシートがはがされる。そこで横たわっていたのは四十代の中肉中背の男の人だった。
首には痛々しいほどにくっきりと縄の跡が残っている。
「害者の名前は、目黒宏。職業は大工。死亡推定時間は今より十一時間以上前の、今日の午前二時から三時の間だと思われる」
「それで、死因は絞殺による窒息死……恨みを持つ人は?」
「この職場に何人かいたけど、その全員に確かな、とは言いにくいけどアリバイがある」
「つまり、警察は自殺だと?」
「その線が強いかな」
「う~ん」
死体に違和感は無い。金も抜き取られていないっぽいし、金目狙いじゃない。でも、なんか引っかかるんだよな。なんでかな?
そう思い、立ち上がり周りを見る。窓は閉まっているし、ドアのかぎも閉まっていたし……通気口、は人が通れなさそうだしな。
でも、でもな、何か引っかかるんだよなぁ。
まあ、後でもいいか。
「じゃあ、その人たちの話聞かせてくれませんか?」
「うん、いいよ。まずは、岩城拓海二十六歳。ここの大工見習いで良く目黒さんに怒られていたらしい。その他にも色々、噂の域を出ないが、あったらしい。犯行時間には、自宅にいたらしい。その前に家の近くのコンビニいたらしいが、犯行時間前だった。それに自宅からここまでは二十分程度。つぎは、片梨一三十五歳。その日の仕事が終わったら、家に帰ったらしい。その人は帰る途中にスーパーに寄ったぐらいかな?あと、証人は妻だな。最後に小金輝樹二十八歳。目黒さんにいつも罵詈雑言を浴びせられている人だな。昨日は寝ていたらしいよ。でも、犯行時刻のちょっと前に家から離れたコンビに行ったらしい。ついでに、全員レシートを持っているから買い物の時間も言うね。
・岩城、今日AM零時半
・片梨、昨日PM十時
・小金、今日AM二時半
以上だよ」
「………」
わ、わからん……。これが他殺だというのなら何か決定的な事をつきとめなきゃな。
俺の口からは自然にため息が出ていた。そしてそのまま、壁にもたれかかる。
パチッ。
音はなるが蛍光灯は光らない。
(……光らない?)
俺が疑問に思っていると後藤さんが説明してくれた。
「ああ、ここには電機は通ってないみたいだね。って言いたいんだけど、なんか切れてたよ。それに害者の体に水がかかってことも異常だったし、本当に謎だらけだよ」
「水?」
「うん、水」
「………」
しばらくの黙考。もし、もしもだ……俺の仮説が正しければ、だが、これは他殺なのかもしれない。
なら、確かめてやろう!俺の頭の中の違和感を!
「もっかい、もう一回だけ、現場見せてください!」
「う、うん、いいけど」
俺の剣幕に押される後藤さん。警察なんだから、しっかりしてくれよ。
現場のドアを開く。ここで違和感に気付いた。ならと、ここでじっくり見る。
すると……
(んっ?家具の、間が開いているような……)
それは、少しだけの違和感。けれども、十分な違和感だ。
俺はすぐに家具に近寄り、間を見る。
そこには、何かを引き摺ったような跡が……それも間が空いた家具すべてに……。
「読めたぜ。後は、少しの証拠だけだな」
俺はすぐさま後藤さんのところへ戻り、ある人の事を少し、詳しく聞いた。
それで、もうわかった。犯人はあの人だ。
さて、ネタばらしだぜ。犯人さんよぉ。
◇
次の日
俺は後藤さんを使って容疑者三人を呼んだ。
「皆さん、今日集まってもらったのは他でもなく、目黒宏さんの事件についてです」
「犯人がわかったのかよっ!?」
「興味深いじゃねぇか!」
「ふんっ、どーでもいいよ。そんなこと、僕は無実だしね」
上から、俺、岩城、片梨、小金の順だ。
「ええ、そうです。俺はまどろこっしいことは嫌いなんですが……一つ確認があります」
「なんだよ?」
「ええ、少し、昨日の買い物レシートを見せて頂きませんかね?」
「いいぞ」
「それでなにがわかるんだ?」
「ふんっ、いいよ」
それぞれがそれぞれの反応で、レシートを渡してくれた。
レシートの内容は……
岩城
・ロックアイス×2
・ウィスキー×1
・カップ酒×1
片梨
・ロープ×1
・ヘルメット×1
・ドッグフード×1
小金
・ロックアイス×1
・コーラ×1
だった。
時間は前に後藤さんに聞いた通りだった。
「ありがとうございます」
「で、犯人は誰だよ?」
「ええ、それは、
――――岩城拓海さんです」
「「なっ!!」」
「な、なんでだよっ!あそこは、完璧な密室だったんだろ!?」
「ええ。でも、簡単ですよ。それを破ることなんて、貴方にはね」
「なんでだよっ!」
「まずは貴方と他の人たちの違いを話しましょう。まずはあなたが持っているものについてです」
「それがっ……!」
「あなたにはクレーン車の免許があります。それが何を意味するかは……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!まさか、クレーン車でプレハブを上げたとか言うなよ!」
俺の言葉につっかかってきたのは片梨だった。
それに対し俺は平然と「ええ」といった。
「そんなの無理だぞ!絶対!」
「いいえ、可能です、現に俺たちは昨日、ある方法でプレハブを浮かせました」
「……どうやって」
「まずはこのプレハブの手抜き具合から話すべきですね。あのプレハブは床の基盤を地面に置き、それに上から周りの壁と天井をのせただけの手抜きな物です」
「それは……」
「犯人、いえ、岩城さんはそれを逆手に取ったんです。そして、ある計画を実行に移した。その計画とはプレハブの壁の部分にフックをかけ、プレハブを持ち上げるという大胆にして奇抜な計画をね!幸いにここはビルの工事現場だから、壁叩く手外からは見えづらいですしね」
「しょ、証拠は!物的証拠がねぇじゃねぇかッ!」
「それもあります。まあ、それもあなたが警察をバカにしてたおかげで助かりましたけどね」
俺は昨日、岩城の買った氷。それも岩城の指紋つきの氷の袋を取り出した。
「これは貴方が昨日買った物です。少し離れた公園に捨ててありましたが、ラッキーですね」
「ま、まてよ!それなら、俺より、小金の方も疑うべきじゃねぇかよっ!」
「まあ、そうですね。いくら免許は無いと言っても、現場の人間。知っているかもしれませんね」
「そ、そう「でも!」……っ!」
「それだと、目黒さんが水でぬれたのに説明がつかないんだよっ!」
もう、ここまで言えばわかるだろうが言ってやろう。
「アンタはこのロックアイスで、目黒さんの体を包み、殺した時間をずらしたんだよっ!自分に罪がかかんないようにな!」
「………っ!」
「さて、反論を聞くぞ。岩城拓海」
「無い、です……」
「岩城っ!難で殺したんだぁ!」
「アイツは、アイツは!俺の、俺の、設計図を横流ししてたんだよっ!」
「なにっ!?」
「アイツは俺の設計した建物の設計図をコピーしては他の奴に売ってたんだよっ!」
「………」
「問い詰めてやったよ!なんでだっ!って、そしたらあいつ……
『素人がこんなの書けるはず無いだろ?お前の横流しの罪を俺がかぶってんだから感謝しろよな』
ぬかしやがったんだ!俺は、俺は、本気だったのに……本気で頑張ったのに!アイツみたいな悪魔に俺の夢を……踏みにじられたんだよっ!」
「……いい訳は終わりか?」
「なんだとっ!」
「いい訳だろ?じゃあ、なんで誰にも相談しなかった?警察に言わなかった?お前がどっかで信じてもらえないって思ったからだろ?
んな、甘っちょろい考えだからだろ?」
「それは、相談してもっ!」
「少なくとも、そこの二人は絶対に乗ってくれるとは思うがな……まあ、刑務所出てから頑張れよ。岩崎拓海さん」
俺は振り返らずに歩き始める。背中に岩城拓海の鳴き声を聞きながら……。
この小説は斎藤君亜の作品です。
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