水の精霊の馬鹿
「あれだ、敵とか造ればいいんじゃねえか?」
「それは、そっちが欲しいだけだろうに。…言うとは思ってたけど」
鈍器が、まるで羽の様に軽々と振り上げられ、そして躊躇いなく振り下ろされる。
鍛冶場で響くような、ある種のリズムをもってその音は続く。
異なる点があるとすれば、ハンマーではなく槌が、鉄ではなく氷に振り下ろされている事だろう。
「結構悪くないアイデアだと思うけどな。お互いに切磋琢磨しあう事は素晴らしいじゃねえか」
「…それって、普通にライバルでいいんじゃないの?」
一定の音に、彼女の高らかな笑い声が加わる。そして、
「敵なら寝首をかく、つう楽しみ方もあるじゃねえか」
「仮にも精霊の言う事か」
斜め45度のチョップをかます。あいたー、って、嘘をつけコイツ…。
「まあ、さっきのは置いといて、丁度良かったかな。試したい事があってな」
「置いとく、じゃなくて、そこは『冗談はさておき』だろうに」
「まあまあ、堅い事は言いなさんなや。力になれるかもしれないんだからよ」
「あんまり、聞きたくないな。これ以上面倒が増えるだけな気がする」
「待てよ、一石二鳥もしくはそれ以上の結果が出るかもしれない話だ」
「ふーん」
「…」
「…」
「なんて冷たいの、あたし悲しいわ…。あなたにつれなくされると、涙が出ちゃう」
「御免、気持ち悪い。鳥肌が立った。さあ、さっさと話して下さい…」
「そうそう、茶々ばっかり入れずに素直に聞きな…と、その前に一つ」
「ん?」
「巨人と、ゴーレムならどっちが強いと思う?」
「…」
「あいたー、いやいやお前の話に関係あるんだってば」
「…言ってみろ、聞くだけ聞いてやる。」
「あいつの敵件、俺の敵を造ろうかと思うんだがどうせなら強敵がいい。フロストジャイアントかアイスゴーレムでも造った後、残りの奴らにも協力させて四元の力で”自我”を入れようと思う。
そうすれば、敵でもあり、新たな精霊の誕生にもなるじゃねえか。モヤシの説得はお前に任せるが、あのチビは、きっと仲間が増えれば喜ぶぜ。な、いいアイデアだろ?」
「… … …そうだね、アイデアは悪くない」
「だろ?そうと決まれば善は急げだ、モヤシ騙くらかして、どっちか造るか!」
「… … …どうせなら、両方造ろうか。その方がおもしろいだろうし」
「お、なんだよ、珍しく乗り気じゃねえか。てっきり又チョップ飛んでくるかと思ったぜ。なら、あいつん所にでも行ってくるからなー」
言うと同時に姿が消える。精霊に距離は意味を為さない。
…危険な賭けだが、見返りは大きい。ほんの少しだけ、布石を敷くのも悪くはないか…。
その後紆余曲折経て、フロストジャイアントとアイスゴーレムは”自我”持つ物として造られたが、”自我”を造る際に水の精霊は、基盤を自身の力で作成した事もあり、自我製造過程での協力を失念。そもそも、彼女から一旦離れきってしまった力はもはや別の力の為、彼女が当初思い描いていた結果とは…大幅にズレが生じていた。
結果:とってもお淑やかなフロストジャイアント(見た目は山岳民・愛称フロス)
引っ込み思案なアイスゴーレム(見た目は雪女・愛称アイス)
上記の美人姉妹が生まれたそうな…。二人は仲好く暮らしたとかなんとか…。
敵?…えーとなんの話だったけな…?
P,S あれ、こんなはずでは…とか、言いながらその後も氷を槌で殴り続ける馬鹿が居たとか、 …居ない事に、出来ないかな…。 ああ、もう…。
…予想通り失敗して、よかった。これで、当分はまだ、凌げるだろう…。
フロスは所謂、ゲームで言うメインヒロイン的なイメージ。
アイスは、主人公の妹もしくは幼馴染的なイメージ。
気分屋は、一般クラスメート。馬鹿は、フラグ立たないイロモノ。
眼鏡は、浪人生。 チビは、モブ。 そんなイメージ。
全体的に、残念な精霊達…。
上記二人はこれからも、ドンドン活躍する…予定。