闇の精霊の歓迎
「これとこれなら、どっちがいいと思う?」
「… … …」
「スタンダードなのに、よく見ると細部にまでこだわったこの黒の刺繍。それも徐々に色の濃紺をずらしていく事で出る艶やかな見た目。かたや、こちらは古いイメージに囚われない斬新なフォルム。色合いもさっきと違って見目麗しく、かつ下品にならないように配置には苦労した。…どっちがいいかな?」
「…どっちでもい」「どっちがいいかな?」「どっちで…」「どっちの方が映えるかな?」
うぜー!どっちでもいいんじゃー!どっちだって素人目からすれば『凄い』の
一言じゃー!
だけど、ここまで言われるとSっ気が疼く。ここはもちろん…!
「両方、嫌だ」
「そんな事もあろうかとこれ」
…なん…だと…、第三の衣装もあるのかい…。
何だかもう一つの衣装について熱く語り始めたから、これ以降は聞き流す。
彼の生き甲斐は裁縫だ。アイデアが頭をよぎるとそれを如何に形にするかで
一杯になる。
…でも、そう言えば他の奴らも人の話を聞かない奴の方が多いな…。
ま、まあ置いといて。
闇の精霊たる彼は、悪魔の様な外見をしている。角は生えているし
羽は生えているし…。
ある意味一番『らしい』精霊とも言える。…性格以外は。
うん、とっても良い奴なんだよ。
…ちょっーと凝り症で、お節介が過ぎて、涙もろくて、…うっとおしくて…。
ここに来て思ったのは、家庭的な男の精霊(モグラは声でオスだと思うが除外)と
活発的な女の精霊しか居ないんだな―…と。
ちなみにいつぞやの暇人の悪ふざけで召喚された勇者が、当初倒すラスボス役を任され嬉々としてそれらしいドロドロギラギラした『ザ・魔王』的な服も縫ったのに、早送りエンドの都合上出演すら無かった為、今も尚こいつの箪笥の中にはかさ張る魔王服が鎮座している。
いやー、冗談のつもりで皆で一度着回してみたら、縫った本人が一番似合わないっていうね…。誰が一番さまになったかは推して知るべし。
ぶっちゃけると、童顔で結婚詐欺にホイホイ引っかかりそうな甘ちゃんなのである。
良い奴ではあるんだよ、…ただ、性格の不一致で疲れるんだよ…。
「…で、どれがいいかな」
「…ちなみに何時着る用の衣装なの?普段は一枚布巻きつけてるだけのくせに…」
「決まってるじゃないか、黒猫さんの歓迎の為さ。きっと黒猫さんも君と同じで僕らを見て吃驚するだろうしね。どうせなら最初に出来るだけインパクトを与えて、それから徐々にここに慣れてもらおうかと。」
「…うん、違う意味で色々吃驚だろうよ…」
「君もその為に、あんな賭けに出たんだろう?でも、残念だったね。賭けは負けてるよ」
「…!」
「だから、盛大に歓迎しようじゃないか。滅多にないお祭りにしよう!」
「… … …」
あーでもない、こーでもないと言いながら、何時の間にか他の精霊用に色違いの衣装を縫っている。
とっても頭が痛いな、これは…。
「料理は君が用意するんだからね、『今は』君が一番得意なんだから」
うう、頭痛いよー…。こんなコンボが来るなんて…。
「で、君の着る衣装はこれだからね」
「… … …いやだー! 絶対に、いやじゃー!!! こんなの着るか―!!!」
あ、頭が痛いよう…(涙)
黒猫に、どんな姿で映るのやら…。黒猫が、どんな姿で映るのやら…。
モグラはニート。声は籠ってて聞き取りずらい。仕事はお尻を叩かれないとしない。
童顔は、古いタイプのRPG勇者。但しイケメンでは無い。眼鏡とキャラは多少被るが、 あっちは言わば僧侶に近い。