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第18話 探求と兆し

 一日のノルマである魔物狩りを終え、誠一はいつものように焚き火の前でステータス画面を広げた。


 三年前の今頃は、数字が増えるだけで一喜一憂していたものだが、今の誠一にとってのステータスは、生き残るための「経営資源」のリストに近い。


 現在の所有スキル:

 - 剣術(Lv.5) / 見切り  (Lv.4)

 - 遠視(Lv.3) / 視界拡張 (Lv.3)

 - 斬撃(Lv.4) / 鎧通し  (Lv.5)

 - 健脚(Lv.3) / 瞬足   (Lv.4)


 それぞれのレベルは順調に育っている。特に派生スキルの方は、意識して多用しているせいか成長が早い。


「……さて、そろそろ次を試してみるか」

 

 誠一は、かつて「才能限界」に達していた基本スキルから順に、再び『劣化交換』を仕掛けることにした。

 まずは剣術レベル5。

 劣化を念じると、頭の中に新たな技術の断片が流れ込んでくる。


 入れ替わりで取得されたのは、『瞑想』という聞き慣れないスキルだった。


 【スキル:瞑想】

 効果:戦闘外で使用。精神統一を行い、意識の純度を高める。


 同時に、スキルの「差分」として80ポイントのスキルポイントが付与された。


「戦闘用じゃないのか。……まあ、お釣りがこれだけ来るなら悪くない取引だな」

 

 誠一は若干の肩透かしを感じつつも、100ポイントを消費して再び『剣術』を再取得した。これで剣術は三度目のレベル1スタートとなる。この「回す」感覚が、誠一の中に新たなリズムを作っていた。


 次は遠視レベル3。

 交換されたのは『魔力視』。

 周囲の魔力の流れや、罠、魔法陣を視覚化する異能だ。


 レベルが低かったためか、ポイントの還元(お釣り)はゼロだった。


「罠が見えるようになるのは、この先、深層に行くなら必須か……。腐ることはなさそうだな」


 続けて斬撃レベル4にも手をかざしたが、こちらは空振りに終わった。

 ステータス画面には何の反応もない。


(……スキルの価値が足りないのか? 斬撃系は今より数レベル積み増してからじゃないと交換のテーブルにすら乗せてもらえないってことだな)


 最後に健脚レベル3を変化させる。

 得られたのは『体力増強』。

 HPが底上げされ、生存率を直接高めるパッシブスキルだ。


 ステータスを確認すると、【最大HP:34(+10)】と補正値が加算されていた。


「これだ……。この系統なら、あるいは」


 誠一は一つの仮説を立てた。


 身体能力の「劣化」から『体力増強』が生まれたのなら、さらにそれを突き詰めれば、今の自分にもっとも欠けている「精神の器」――すなわち、MPを増強する手段に辿り着くのではないか。


 確証はない。

 だが、この迷宮で唯一信頼できるのは、自らの手を動かして得た「経験則」だけだった。



 ***


 それからの三カ月間、誠一は狂ったようにレベル上げに没頭した。


 朝、目が覚めると同時に洞窟を回り、魔物を掃討する。 

 拠点に戻れば劣化交換で得た冷水のシャワーで筋肉の火照りを鎮め、焼いた肉と野菜を腹に詰め込む。


 そして、泥のように眠る。


 そんなストイックなルーチンの合間に、彼は新スキル『瞑想』を試す時間を設けていた。


 焚き火の前に胡坐をかき、背筋を伸ばして静かに瞼を閉じる。

 吸う息と吐く息の音だけが、不気味なほど静まり返った拠点に響く。


(……何かが、変わるのか?)


 最初は、ただ目を閉じているだけの時間が苦痛だった。


 今日の戦いの反省。

 スキルポイントの残高。

 あの時逃げ出したボスの、威圧的な赤黒いオーラ。


 雑念が次から次へと浮かんでは消え、心をかき乱す。


「……俺には、座禅なんて高尚すぎたか」


 だが、毎日続けるうちに変化が訪れた。


 ある時を境に、身体の奥底――心臓の鼓動とは別の場所で、微かな熱が揺らめいているのを感じ取れるようになったのだ。

 それが『魔力視』で見た魔力の流れなのか、単なる自己暗示なのかは分からない。


 しかし、瞑想を終えた後は、これまで重く感じていた迷宮の空気が、驚くほど澄んで感じられた。


「なんだか、成長できている気がするぞ」

 

 数値や即効性だけを追い求めていた会社員時代の自分なら、こんな「無駄」な時間は真っ先に切り捨てていただろう。


 だが今、誠一は立ち止まることの大切さを知っている。


 スキルの本質は、表示されるレベルだけではない。それを使う「自分という器」を整えることもまた、進化の一端なのだと思えるようになっていた。



 ***


「……まあ、それでもステータス画面は嘘をつかないか……」


 瞑想を終え、数分後に画面をチェックした誠一は、現実に引き戻されたように苦笑した。

 スキルレベルは上がっているものの、MPや攻撃力といった実数に変化はない。


「特に何の効果もないんだな。これ――」


 だが、着実な進展もあった。

 常時発動型である『体力増強』が、日々の死闘を経てレベル5に到達したのだ。


「よし。……頼むぞ、当たってくれ」


 誠一は祈るような心地で、自身の身体を対象に『劣化交換』を起動した。

 

 身体を包み込む淡い光。

 書き換わるシステムログ。

 

 【体力増強:Lv.5】が消滅し、新たに刻まれたのは――

 【精神力増強:Lv.1】。


 スキルの説明欄には、誠一が渇望していた一文が並んでいた。

 ――「所持者のMPを10増加させる」。


 誠一は肺の中の空気をすべて吐き出すように、深く、長く安堵の息を漏らした。


「……やっぱり、あったか。これが欲しかったんだ」


 MPの低さは、複数のスキルを併用する今の誠一にとって、最大のボトルネックだった。


 どんなに強力な兵器があっても、ガソリンがなければ戦えない。

 この『精神力増強』を育て、さらに劣化交換を繰り返していけば、いずれ魔法使いにも引けを取らない魔力を手に入れられるかもしれない。


「これで、もう一歩踏み込める」


 誠一は焚き火に薪を一本くべた。

 スキルの再構築は、果てしなく時間がかかる作業だ。だが、その一歩一歩が確実に、あの絶望的な「主」との距離を縮めている。


 次はどのスキルを育て、どの深淵を覗くか。

 誠一の瞳には、かつての疲弊した中年男の影はなく、未知の領域を切り拓く開拓者の光が宿っていた。

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― 新着の感想 ―
メモとっておかないとスキルがたぶっったりしそう(小並感)
よし!
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