【第24話:逃げた背中に、痛みと後悔】
朝刊を配る小さな背中に、誰も知らない責任が乗っていた。
小猿の成長と、優しさが導いた出来事の先に、予期せぬ悲劇が待っていた第24話です。
新聞配達の仕事をはじめてから、小猿の一日はさらに忙しくなっていた。
朝は暗いうちに起きて、新聞屋のおじさんに挨拶をし、配達のルートを覚える。
朝刊を配り終えると、家に一度戻って学校へ。放課後は道場で柔道。
夜は、ホルモン屋で夕飯を分けてもらい、帰宅する。
そんな生活にも少しずつ慣れてきたある日の夜。
道場からの帰り道。いつも通り、ホルモン屋へ向かおうとした時だった。
——「おい、小猿」
薄暗い路地に、見覚えのある顔が揃っていた。
あの、大柄な男の子と、その取り巻きたち——5人。
「最近、生意気なんだよ」
そう言って一人が声をかけると、すぐに4人がかりで小猿を羽交い締めにした。
相手は同学年でも、体格差は歴然。
小猿は動けず、そのまま細い裏路地へと引きずり込まれた。
そして、大柄な男の子が拳を振るう。
──ドンッ!
腹に、頬に、何度も打ちつけられる拳。
しかし、小猿は声を上げなかった。
涙を堪え、視線を逸らさず、真っ直ぐに相手の目を見続けた。
殴る手が止まらない。
小猿の我慢が、逆に相手の怒りを煽ってしまう。
だがその時──
「……もう、その辺にしといた方がよくない?」
取り巻きのひとりが、恐怖からか声を漏らした。
そして羽交い締めが緩んだ一瞬、小猿の体が静かに動いた。
“受け身を知らない人間を倒すなら——どうすれば怪我をさせずに済むか。”
その判断が、遅すぎた。
相手を傷つけぬよう体をひねり、斬新を取って倒したつもりだった。
しかし——そこは柔道場ではない。アスファルトだった。
ひとりが肘を地面に突き、甲高い悲鳴が上がった。
「う、うでが……っ!」
他の子たちも倒れ、状況は一気に混乱する。
小猿は、その場から逃げた。
無我夢中で、影のように暗がりに溶け、走った。
その夜、小猿はホルモン屋へは行かなかった。
理由はひとつ。
腹に、頬に残る赤い痕を見られたくなかったから。
あの優しい場所に、心配という苦しみを持ち込みたくなかった。
だが、その沈黙がすべてを変えてしまう。
翌日。
あの5人組は、それぞれの親にこう話したのだ。
「小猿に、柔道の技で急に倒された」
「助けようとして殴っただけ」
「そしたら逃げられた」
そして、骨折した子の親が学校に連絡を入れた。
誰も、真実を知らぬまま。
小猿の正義と優しさは、ひとつの嘘によって、ねじ曲げられていく。
——あの時、あそこに行っていたら。
——あの夜、誰かに話していたら。
ただ、小猿はまだ知らない。
この出来事が、これから先の人生に大きな影を落とすことを。
「優しさが仇になることもある」
そんな理不尽な現実に、小猿は初めて触れました。
正しさが報われるとは限らない世界で、それでも前を向く姿が胸を打ちます。
次回、第25話ではこの事件がどう広がり、誰が小猿の味方となるのかが描かれます。




