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#《新たな技、静かな変化》

先輩たちが去った道場に、また一つの季節が巡る。

寂しさを胸に、小猿は新たな学年、新たな技と向き合っていく。

そして、家庭にも――わずかながら変化が訪れていた。


四年生になった。


もう道場に、あの先輩たちの姿はない。

寂しくないといえば嘘になる。

けれど、小猿は前を向いていた。


「下ばっか見ててもしょうがないしな」


新しい学年、新しい稽古。

そして今日から、小猿は“内股”を教わることになった。


内股――

ダイナミックで、華のある技。

相手の股の間に足を差し入れ、体を浮かせるように跳ね飛ばして投げる。


「これは豪快な技だぞ」と道場の誰かが言っていたのを思い出す。


けれど、豪快な技は簡単じゃない。

体さばき、崩し、継ぎ足、そして刈る脚。

すべてが噛み合わなければ、技にはならない。


小猿は、前に習った技――体落とし、大腰、大外刈りと同じように、

この内股も、ひたすら千本の打ち込みに励んだ。


トントン、トントン。

畳に響く足音が、道場にリズムを刻む。

高速の打ち込みを繰り返し、姿勢を確認し、呼吸を整え、また一歩前へ。


だけどまだ、小猿は投げ込みの稽古は許されていなかった。

体は2年生ほどの大きさしかない。

無理をすれば、内臓や骨に大きな負担がかかる。


植木道場では、そういうことを絶対にさせない。


「急がんでええ。じっくり育てたほうが、強いし、折れん」


先生の声が、脳裏に残る。


基礎練習も、寝技の稽古も、すべてが“いまの自分のため”になると信じていた。


そして――

家にも、少しだけ変化があった。


父の体調が、わずかに回復したようだ。

何より驚いたのは、お酒とタバコをきっぱりやめていたこと。


「ほんまに……やめたんや……?」


一時は壊れてしまったのではないかと思っていた父親が、

少しだけ外に出ているという話も耳にした。


それでも、まだ怖い。

昔の記憶――怒鳴り声、便の割れる音――が、小猿を近づけさせない。


それでも、罵倒がないだけで幸せだった。


給食費は、まだ払えていないらしい。

朝と夜の食事も、変わらずない。

けれど、それでも――心の中に、静かに“何か”が芽生えていた。


学校では相変わらず、できるだけ人と関わらないようにしていた。


でも、それもいつか、変わるのかもしれない。


そんな小さな兆しが、風のように吹き抜けていった。


内股という“華”を学ぶ中で、基礎の大切さを再確認する回でした。

植木道場の「焦らず、丁寧に育てる」指導方針が、小猿の生き方そのものと重なっていきます。

そして家庭の変化もまた、物語に静かな余白を与えてくれますね。


次回は学校での“ある出来事”がきっかけで、物語が一歩動き始めます。お楽しみに!

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