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#《あの日見た背中、夢の中に》

大会が終わり、いつもの稽古場へ――。

ただ、あの日の記憶は色褪せない。

先輩たちの“技”よりも、“在り方”が、小猿の心に刻まれていた。

静かな季節のうつろいの中、道場に新たな風が吹き始めます。

あの日の熱が、嘘だったかのように、日常が戻ってきた。

畳の匂い、打ち込みの音、道着の擦れる音――

すべてが変わらぬ日々の中にある。


だけど、小猿の心だけは、あの日から確かに変わっていた。


「……すげぇな、やっぱり……」


休憩中の水を飲みながら、あの時の景色を思い出す。

背負い投げ、大外刈り、受け身、礼。

けれど、小猿の中で最も鮮明なのは、勝利の瞬間でも、技の迫力でもない。

先輩たちの、静かに立ち去る後ろ姿だった。


勝っても奢らず、負けても挫けず、

道場の名が残らなくとも、精神が残っていく――


それが植木道場の“柔道”なんだと、小猿は強く思った。


だから、練習にも自然と気持ちが入った。

技の打ち込み――特に、体落とし、大腰、大外刈り。

まだまだ小さな身体では、投げるのも大変だけど、毎日千本を目標に取り組んだ。


寝技も欠かさない。

基本の“エビ”も、ただ形をなぞるのではなく、意味を考えながら、丁寧に、確かに、動かす。


 *


そんなある日。


道場の隅で、3人の先輩たちが集まっているのを見かけた。

コウキ先輩、ケイゴ先輩、大地先輩――

あの大会で名を残し、全てを勝ち取った3人だ。


「卒業かぁ……」


思わず、ぽつりと呟いた小猿に、先生がふと語った。


「そうだな。あいつらは中学ではそれぞれ別の道へ進むらしいぞ」


コウキ先輩はバスケ部、ケイゴ先輩はサッカー部、そして大地先輩は野球部。


柔道部には進まないと聞いて、少し驚いた。

でも、先生はこうも言った。


「体をつくるために、柔道を選んだってことだ。今のあいつらなら、どこに行っても通用するだろうな」


余談だが、ヨーロッパのある国のサッカー選手たちは、柔道の基本動作を体幹トレーニングに取り入れているという。

道場で身につけた“柔よく剛を制す”の精神と動きが、別の競技にも活きるのだ。


そして卒業式の日、3人は柔道着ではなく、それぞれの進む道へ向けた笑顔で道場を後にした。


もう、この道場に彼らが顔を出すことはなかった。


けれど、それは決して「嫌になった」わけではない。


あの大会後の“不思議な静けさ”――

あれと同じ、“現象”だった。


まるで、存在そのものが、記憶からすっと薄れていくような……


小猿は、その意味をまだ知らない。

でも、いつか分かる日が来る。


だから今は、目の前の稽古に向き合うだけ。


背中で語ってくれた先輩たちのように。


そして――

四年生となる小猿の、新しい舞台が始まる。


「見えなくなっても、残るものがある」

先輩たちの背中から学び、夢を繋ぐ小猿の物語が、少しずつ次の章へと移ります。


精力善用、自他共栄。

今を生きる彼らの姿が、読んでくださるあなたの心にも響いていれば嬉しいです。


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