第16話:堂々の礼、真剣勝負のその先に(六年生・軽量級)
植木道場が誇る六年生、コウキとケイゴ――
互いに認め合い、高め合ってきた二人が、いよいよ同門対決を果たす。
この試合の裏にあった、それぞれの戦い、そして“精力善用・自他共栄”の真髄が、今ここに描かれる。
五年生の個人戦が終わり、熱気冷めやらぬまま、
次に始まったのは六年生の軽量級の試合だった。
この階級には、植木道場からふたりが出場していた。
藤堂 航希と矢萩 慶吾。
トーナメント表の両端にエントリーされたふたりは、もし勝ち進めば、決勝で同門対決となる。
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◉ 藤堂 航希の闘い
1回戦:岩田 隼(心勇館)
礼をしっかりと交わし、「はじめ」の合図と同時に動いた。
鋭い踏み込みから、“いちにさん”のリズムで背負い投げ。
そのまま綺麗に一本。
ざんしんも深く、相手へのダメージを最小限に抑える。
会場に爽やかな風が通り抜けるようだった。
2回戦:佐野 虎徹(風龍会)
虎徹の警戒心は強く、飛び込むことを避けてくる。
それでもコウキは焦らず、しっかり組み合い、体勢を崩す。
左脇をしっかりと抱えた大腰が、静かに、しかし確実に決まり一本。
落ち着いた礼に、風龍会のコーチも静かに頷いていた。
3回戦:新海 朋(青雲塾)
相手はスピードと変化を武器にするタイプ。
コウキは正面からしっかりと受け止める。
一本は取れなかったが、技あり二つで合わせ技で勝ち。
彼の柔道には、着実な“積み重ね”があった。
準決勝:羽山 翔(武修塾)
逃げ腰の羽山を、正攻法でしっかりと捉える。
一瞬の隙を見逃さず、重心を引き込みながらの大内刈り。
「パシン」と畳に響いた音に、会場が息を飲む。
まさに理想的な一本――
これでコウキは決勝進出を決めた。
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◉ 矢萩 慶吾の闘い
1回戦:古賀 亮太(道心塾)
古賀の体格に臆することなく、きっちり組んでからの内股が光る。
決めに行くのではなく、“自然に入る”ような投げだった。
正統派の柔道に、道心塾の監督も納得の表情を浮かべる。
2回戦:南 悠(暁心館)
トリッキーな動きを得意とする相手に、慶吾は一切ブレなかった。
どんな動きにも惑わされず、相手の中心を捉え、
正面からの大外刈りが綺麗に決まる。
体格に差はあったが、技の精度で勝負を制した。
3回戦:久保 大志(正道塾)
昨年度準優勝の強敵。
だが慶吾は、その“自信過剰”の一歩を見逃さない。
一瞬の重心のズレを狙い、出足払いで綺麗に崩す。
慶吾の左手は、投げた直後に相手の肩を支えていた。
受け身を取れるよう、相手の安全を守る“ざんしん”が完璧だった。
準決勝:今井 航(白鳳館)
昨年の優勝者。試合前の礼も美しく、互いに気持ちの入った一戦となった。
時間いっぱいまで続いた攻防。
終了直前、相手の隙に肩車が炸裂。
音もなく背中が畳につく瞬間、観客の誰もが見惚れていた。
これで慶吾も決勝進出を決めた。
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【決勝戦:同門対決】
そして、迎えた決勝戦。
道場の仲間も観客も、二人の姿を見守っていた。
植木先生が両者を呼び寄せる。
そして会場に響くような声で言った――
「精力善用・自他共栄。
この言葉は、試合の勝ち負けのためだけにあるんじゃない。
一人ひとりが、相手を尊重し、共に高め合ってきた証だ」
言葉を受けたふたりは、静かにうなずき、
深く、深く、礼をして畳の中央へと向かう。
「はじめ!」
両者とも、一歩も引かない組み合いから、
技の応酬が繰り広げられる。
背負い、内股、出足、体落とし……
それぞれの得意技が交差し、受け合い、崩し合う。
時間はどんどん経過し、
やがてゴールデンスコア(延長戦)へ――
それでも勝負はつかず、
10分、12分、そして15分が経過しようとしていた。
そのときだった。
コウキが静かに歩み寄り、
“いちにさん”の呼吸で前に出る。
まるで相手の心を読んだかのようなタイミングで、
美しい背負い投げが決まった――
「一本!」
会場からは大きな拍手。
コウキもケイゴも、すぐに立ち上がり、
汗だくの顔で、静かに、深く礼をした。
そして、会場の誰もが、
その姿に胸を打たれていた。
試合に勝った者も、負けた者も、
そこには確かな尊敬と友情があった。
植木道場の柔道は、ただ勝つことが目的ではない。
相手を大切にし、自分を磨き、堂々と畳を降りる――
そんな二人の姿勢が、観客の心に深く刻まれていった。
次回は六年生・重量級。
午前中に戦った“全国王者”との再戦が待っている――




