第4話 ライブ
すっかり夜の帳が降りた、北の歓楽街、すすきの。
無数のネオンサインが輝く、歓楽とエロと、飲みの街。ここは北海道でも有数の「眠らない街」だ。
そのすすきのの一角にある、地下の小さなライブハウス。
そこに彼女は僕を連れて行った。
そして、
「見て思い出しなさい」
と言うや否や楽屋へと消えた。
ライブハウスの演奏プログラムを見る限り、どうやらその日のメインに「彼女」が立つらしい。
その証拠に、「SAYAKA」と書かれてあったからだ。
そして、
「みんな、久しぶり!」
ステージに上がった彼女は、先程と変わり、派手な黒のジャケットを羽織り、丈の短いショートパンツを履いていた。綺麗な白い足が露わになっていた。
観客の大半が若い男なのが、彼女の注目度を示していたが、一応、「彼氏」という立場上、僕としては面白くはない。
そんな中、ギターを持ち、彼女は弾き始めた。そして歌い始めたのだ。
一応、バンドは組んでいるのか、バックにはベースとドラムを担当する男たちがいた。
曲は、ロック調の物で、パンクまでは行かないまでもハードロックテイストが強い、ノリのいいアップテンポの曲だった。
確かにいい曲で、客席の観客も盛り上がっていた。
いたのだが。
(いい曲だけど、思い出せない)
僕には、やはり何も響かないのだった。
すべての演奏が終わり、ライブハウスから撤収する段階になって、楽屋から出てきた彼女と目が合った。
「どうだった?」
すっかり着替え終わっている彼女。ギターケースを肩に担いでいた。どうやらギターケースを先に預けていたらしい。
「いい歌だったよ」
「そうじゃなくて、思い出した?」
「いや」
「そう……」
溜め息混じりの彼女の表情を見ていると、僕は悲しくなってくる。
「明日、帰るんだよね?」
「ああ」
明日の午後の便だったが、僕は東京に戻る予定だった。
「じゃあ、また連絡するから。今度、また札幌に戻ってきて」
彼女は、「札幌に来て」ではなく「戻って来て」と言っていた。実はここがポイントだったが、当然、僕は何も気づかず。
ただ、僕は彼女の見送りを受けて、新千歳空港から東京の羽田空港へと戻った。
結局、記憶は戻らないままだったが、その後の仕事には支障がなかったので、とりあえず出社して働くことにした。
心にはモヤモヤした物があり、尚且つ仕事の手順は覚えていたが、同僚の顔も忘れていたから、また一から自己紹介をして、僕は働き始めた。
そして、2週間が経った。