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13 視線の先


 親父に話を聞いて、俺ははっきりと思い出した。

 

「もしかして、俺のせいで……?」


 俺が、シャイニングマンの決め台詞を言わなければ……。

 事情を知らなかったとはいえ、後悔の念が押し寄せる。

 

「不審者のことも相俟(あいま)っていると思うが、その可能性はある……」

「俺……香西に謝りたい……」

「それはダメだ。逆にヒロ君を意識しているということになる」

「そうね……。それに、あのことは本人もトラウマになっているみたいで、思い出すだけでも発作が出るそうよ」

「手紙でもダメなのか?」

「ヒロ君が直接読むのは、医者として止めなければならない。どうしてもというのであれば、 あの時ヒロ君と一緒にいた女の子がいただろう。その子から間接的に伝えてもらうしかない。しかし、それも内容による」


 あの時一緒にいた女の子って、ツインテールの……。

 もしかして、落合さんか!?

 思い返せば、なんとなく面影がある。

 

「ありがとう。親父、母さん。 俺、やってみるよ」


 俺は、自室に戻って制服のまま手紙を書き始めた。

 着替える時間も惜しいほど、すぐ書かずにはいられなかった。

 香西の性別を意識しないように……だけどちゃんと謝罪の気持ちを込めて書こう。

 それは意外にも難しく、できているかどうかわからない。

 どうせ今日は学校を休んでしまったんだ、じっくり時間をかけて考えるとしよう。

 

 


 

 翌日は朝早く学校へ行った。

 書いた手紙をポケットに忍ばせて、落合さんが来るのを待っていたのだ。

 

「おっはよー」

 

 落合さんは、今日も元気だ。

 その斜め後ろで、香西も控えめに「おはよう」と言っている。

 十年前の姿と重なり、心臓が跳ね上がった。

 昨日、両親から話を聞いたせいで、妙に意識してしまう。

 視界に入れないようにしたが、落合さんがこちらへ向かってきた。

 な、なんだろう?

 

「あー、鳴沢くん。昨日、神楽さんが探してたよ。連絡も未読スルーだって。なんか、新聞部の記事の締切が迫ってるとかなんとか言ってたよ」

「そ、そうか……忘れてた、ありがとう……」


 落合さんはそれだけ言うと、自分の席へ戻って行った。

 しまった……新聞部のことをすっかり忘れていた。

 スマートフォンを確認すると、たしかに神楽さんからのメッセージが何通か入っていた。

 

 しかし、まさか向こうから話しかけてくるとは。

 傍に香西がいると、落合さんだけを呼び出すのは難しいな……。

 いや、まだチャンスはあるはずだ。根気よく行こう。


 やがてチャイムが鳴り、みんなが着席し出す。

 授業の内容は、俺にとっては復習のようなもので、先生が説明する言葉もほとんど上の空で聞いていた。

 俺の席から斜め左へと視線を移すと、香西の席はよく見える。

 香西が頬杖をつきながら黒板の方を見ると、その横顔も。

 今まで、香西の頭の中身ばかり気にしていたせいか、外見をよく見ていなかったことに気づく。

 そりゃあ、新聞部として一部の女子に聞いた時は「カッコいい」の言葉を、少しばかり聞いたことがある。

 だが、その時は同性として「ふぅん、そういうものか」くらいにしか思っていなかった。

 しかし、今見てみると……たしかに中性的な顔立ちだ。

 身長も他の男子より少し低めだった気がする。

 体つき……は、いや、ダメだろう。

 なにを考えているんだ俺は、と頭を振った。


 それよりも、手紙のことだ。

 俺は、手紙を渡すべく一日中落合さんの動向を窺うことにした。

 

 休み時間。

 落合さんは廊下で他の女子生徒と楽しくおしゃべりをしている。

 

「……でさー!」

「えーっ、そうなのー?」

 

 香西本人はいないが、他の人に香西のことを知られるわけにもいかないので、呼び出し辛い。

 やはり、落合さん一人の時を狙わないと……。

 

 昼休みは、学食にいた。

 香西と瀬戸兄妹と一緒だ。

 

「いーなー! あたしも今度行きたーい!」

「おう、みんなで行こうぜー!」

 

 喧騒の中、会話は弾んでいるようだ。

 当然、この状態で落合さんだけを誘い出すなど、不審がられるだけだ。

  

 放課後は、期末テストに向けて図書室で勉強していた。

 

「晶先生! ここ、ここがわかんない!」

「えーと、どれどれ?」

 

 ここでも、香西と瀬戸が一緒だ。

 俺は、そっと図書室を出た。


「落合さん、基本的にいつも誰かと一緒だな!!」


 呼び出しの難易度が高すぎる。

 手紙だから、靴箱に入れるという手もあるが、これは絶対に直接渡したい。

 ……これは、一筋縄ではいかなそうだ。

 

「あーっ! 見つけたわよ、鳴沢くん!」

 

 運悪く、神楽さんと鉢合わせしてしまった。


「しまった! また忘れてた!」

「わ、忘れてたぁ!?  困るわよ、締切今週なのに! 今回で最後なんだから、いい記事にしましょ!」

「いい記事か……」


 手紙を渡すまで、 気持ちが落ち着きそうになかった。

 ……そうだ! 神楽さんに協力してもらえば……!


「神楽さん! 折り入って頼みがある!」

「な、なにかな……?」

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