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妖怪シリーズ

ターボばばあは歩行者に入りますか?

作者: 名録史郎

 天狗は呼び出された場所に行ってみると、車が大破していた。


「長久比、お前はなにをしているんだ?」


 天狗は、車の前で、呆然としている黒髪の女性に声をかけます。


「娘だって、もうすぐ高校生だろう」


 天狗が声をかけた女の名は長久比、ろくろ首の女です。

 今は首を延ばしていない。

 首をのばさなければ、ほとんど人間。

 しかも、そうとうの美人です。


「だ、だってぇ」


 ろくろ首は、ほとんど涙目で自分の車を見ています。


「それにまず交通事故なら、俺の前に警察だろう。なんで俺に最初に連絡してくるんだ」

「いざってときのために、天狗様の連絡先、一番上にしてあるんですよ」

「そこは旦那を一番上にしとけ」


 呆れながら天狗は車を見ました。


「ずいぶん派手にやらかしたな。で、事故は自損か」

「違います」


 天狗は首をかしげます。

 これだけ壊れているのに、周りに他の車はありません。


「相手はどこ行った? 当て逃げか?」


 確かにそれなら、天狗を呼びたくなるのもわかります。

 ろくろ首は、顔を横にふると、野次馬のようにいた老婆を指さしました。


「そこのおばあちゃんです」


 どうみても無傷のばあさんがそこにいました。


「あーばあさん妖怪だな」


 天狗がそういうと、

「そうじゃ」

 おばあさんは頷きました。


「怪我してないみたいだし、よかったじゃないか」

「それだと私が10対0で悪いみたいになっちゃうじゃないですか」

「そうじゃないか」

「そうじゃ、そこの車が急に飛び出してきてぶつかったんじゃ!」

「違います。急に飛び出してきたのはそっちです!車買い換えたばかりなんですよ。どうしてくれるんですか」


 今にもつかみかかりそうな勢いの老婆と美女。

 天狗は二人を引き離す。


「わかった、わかったから、お互いの言い分聞けばいいんだろ」

「お願いします」

「よしじゃあ、長久比からはなせ」

「私は、車を運転していて、おばあさんとぶつかりました」

「よし、お前が悪い」


 天狗はにべもありません。


「最後まで話聞いてください! でも、私は時速40km相手のおばあさんは倍はスピード出てました!」

「倍? 80kmぐらいってことか?」

「そうです」


 天狗はばあさんに向き直ります。

 おばあさんはそっぽを向きました。

 天狗はおばあさんをじっと見ていて手を叩きました。


「ああ、お前ターボばばあか。思い出したぞ。高速道路暴走してたばばあだな。走るなと、前注意したばっかりだろう。なんでこんな一般道暴走してるんだよ」

「高速道路を走らせてくれんからではないか」

「当たり前だ!何考えてんだ。あそこは車両専用道路なんだよ。交通ルールは守れ」

「天狗様だって、守ってないではないか」

「守ってるだろうが!」

「空飛んでるではないか、ずるいじゃろ」

「ズルくないわ! 俺の町の空を自分で飛んでもいいだろう。俺だってよその町行くときは、車使うだろうが。ばばあなんだから、おとなしく車で移動しろ」

「天狗様の方がじじいのくせになにいっとるんじゃ」

「なんだと」


 天狗はカンカンです。


「ワシは、すべてを置き去りにする速度で青春を謳歌してやるんじゃ」

「九十のばばあが、なに二十代の暴走族みたいなこといってるんだ。車で高速道路走ればいいだろう」

「免許なんざ、もう返納したわ」

「ならもう走るなといってるだろ」

「いやじゃ。いやじゃ。なんで走れるのに走ったら怒られるんじゃ」

「小学生だって、走れるからって、廊下走ったら怒られるんだよ」

「そうですよ。だからおばあさんがわるいです」


 これ幸いとろくろ首はおばあさんを責めます。

 天狗はごほんと咳払い。


「よし、もういい、言い分は聞いた。責任は5対5だ」

「なんで、こっちはぶつけられたのに」

「なんでじゃ、こっちは歩行者なのに」


 二人して天狗に不平を言います。 


「うっさいわ。お前ら、文句ばっかり。警察きたらそう話してやる。長久比も10対0じゃないだけいいだろう」

「うわーん。旦那に怒られる。どうしてくれるんですか天狗様」

「知らんがな。お前の家庭の事情なんか」

「なんでワシが半分払わないいかんのじゃ」

「ばばあ、お前が悪くないわけなかろうが」


 二人は不服で、地団駄します。


「天狗様が車なおしてくれれば、それでまるくおさまるのに」

「そうじゃ、そうじゃ」

「何言ってるんだ、お前ら! 車なんかさすがに俺でも直せるか!」

「せめて、外装だけでもいいんで、おねがいします。ね? ね?」


 ろくろ首は色仕掛け戦法に切り替えます。


「ああ? 外装? はあ。もう、わかったよ。外装だけだぞ。伸ばせばいいのか」


 天狗は、懐から団扇を取り出します。

 一振りすると、風の力でぐいっと引っ張るとへこんでいたフロントがもとに戻ります。


 ろくろ首はすかさず、ボンネットをあけて、

「えーと、この辺見てもらっていいですか」

 天狗に中を確認させます。


「どれどれ?」


 天狗は、風の力で、緩んだねじを締めあげ、外れた管をつなぎとめます。

 工具いらずの万能妖怪です。


「ここはどうですか?」

「ここは確かこんな感じにすれば」


 空間把握能力抜群の天狗は、自分の車の構造を思い出しながら、直していきます。


「よし、これでいいだろう」


 天狗はバンとボンネットを閉じました。

 ろくろ首は、車に乗り込み、エンジンをかけてみます。

 ブルルルルといい音がしました。

 多少塗装がはがれたところがありましたが、あっさり、車が直ってしまいました。

 

「天狗様、とりあえず、動くようになったので、次は塗装も直せるようになっといてください」

「おう。わかった……」


 天狗は、そう返事をしてハッとします。


「じゃないんだよ。なに全部させようとしてるんだよ。直せるようになったじゃないか」

「さすが天狗様です」

「お前ほめればいいと思ってるだろう」

「今度うちのお酒持っていくんで」

「酒で全部うやむやにしようとしてるだろう?」

「いらないんですか?」

「それはいるが……とにかく今回だけだぞ」


 天狗は深く深くため息をつきました。


 車が直ったのをいいことに、こっそり逃げようとしているばあさんを天狗は捕まえました。


「なにお前は逃げようとしてるんだ?」

「いいじゃろうが、もう車は直ったんだから」

「とにかく、ばあさんは、今後車両扱いな!」

「ということは、高速道路を走っていいということじゃな」


 ばあさんは超ポジティブに解釈します。

 天狗は怒髪天です。


「ダメに決まってるだろ! 高速は町の住人じゃない、よそ者も通るだろうが。ばばあは小型バイク扱いだ! 高速は乗ったら罰金だ」

「虐待じゃぁ」

「何が虐待だ。普通の人間にぶつかったらどうするんだ。標識の速度出せるだけありがたく思え」

「ぐぬぬ」


 不満たらたらでしたが、おばあさんもどうにか納得しました。


 ターボばばあは小型バイク同等という扱いになったのでした。


◇ ◇ ◇


 二人がいなくなった後で、ようやくパトカーに乗った警察官がやってきました。


「あのう、天狗様、このあたりで事故があったと聞いたのですが」

「あー妖怪と妖怪がぶつかったって処理しててくれる?」

「了解です。サインもらってもいいですか」


 天狗は警察官から、書類を受け取り、二人のかわりに代筆します。

 慣れたものです。

 慣れているということは、それだけトラブルが起こるたびに、呼び出されているということ。


「ありがとうございます。大丈夫ですか? 天狗様」


 警察官は、ぐったりしている天狗を心配して声をかけます。


「今日もつかれた……」


 今日も今日とて

 気苦労絶えない天狗様なのでした。


 天狗様のおかげで、

 妖怪の町は、今日も平和です。

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