殺し屋
「質問」
電車内、恐怖に怯える乗客が私を見ていて、私は前に立つ犯罪者を見ている。
「今、私は怒っているでしょうか。悲しみに包まれているでしょうか」
「ああん?! 何言ってんだこのメスガキ! ぶっ放すぞ!」
私の質問に一切答えない黒マスクの武装した男は、恫喝と共にガチャリと両手銃を向ける。
まるで獣を前にしたハンターのよう。私は狩りの相手に相応しい獣へと進化するべく、
付けていた眼鏡をスムーズに取り外す。
「そうか。ならメスガキはやめだ」
俺は誰の目にも止まらないスピードで黒マスクの背後へと跳躍。
懐から一丁の黒い自動式拳銃を取り出す。
そこから二発の発砲音が車内で鳴る。
その音に気付いてから黒マスクは地べたに伏せる。
彼の背中は絵具の赤色に染められ、黒いパレットに親指サイズの穴が二つ開く。
磁石のように張り付き、ピクピクと床で虫のごとく手足を震わせる黒マスク。
鏡があれば確認できただろう俺の表情は、おそらく死んでいる。
生まれたときから、人の命をゴミのようにしか扱ってこなかった社会不適合者だ。ゴミのような目をして当然だと思い、這いつくばったゴミを何とも思わずに見下ろす。
「答えろ。俺は怒っているのか。それとも、悲しんでいるのか」
先ほど"私"が言った発言を再度繰り返す。
銃を構えながら発する言葉はなんだか、映画で見る人質を取った犯罪者のようだとさえ思えた。
ピクピクと動く血の池に嵌ったゴミは、憐れむような表情で笑いながら言う。
「どっちでもねぇ。イかれてやがるぜ、お前」
「そうか。お前も、そう言うのか」
俺は構えた銃の引き金に力を込めて、銃弾と共にこの言葉を黒マスクに叩き付けることにした。
「じゃあ死ね」
二度の発砲音は、たちまち車内に阿鼻叫喚をもたらした。
黒マスクがこの世の人間ではなくなったと確認を取ると、すぐさま前方の車両へと歩き出す。
乗客の波に飛び込んでいくと、波はひとりでに俺を避けていく。
こんな俺とバカンスはエンジョイできそうにないとばかりに避けていく波の音はやけに空しくコツコツと、ひと夏の思い出も許さないほど俺を遠ざけていく。
そうして乗客全員が車内後方に下がり、俺は通路のドアへと手を掛ける。
あぁでも、死体に打ち込む時の感覚は以外に悪くなかった。
強いものが弱いものに淘汰されるのは当然のこと。
俺は誰かに教わった昔の教訓を思い出しながら、次の車両に移る。
俺は殺し屋。
ある女のためにすべてを捧げると誓った、ただのしがない人殺しだ。
初めて作品を投降しました。
あまりうまくないですけど、読んでくれたら嬉しいです。