記憶
僕は倉庫にあったシャベルを持ち。
土砂を退かした。
幸運な事に。土砂は、
小さな僕にも退かせる様なものばかりだった。
悲しんでいても仕方がない。
もし。
僕の考えが正しければ。
これを退かせば、
また。会えるかもしれないのだから。
毎日毎日。
泥だらけで帰り。
可能な限り、退かして。
掘って、を繰り返した。
地盤が悪かったのか。
度々何日か前の様な状態に戻っている事があったが。
それでもめげずに、僕は作業を続けた。
また。
彼と一緒に。
"遊びたかったから"
そうして。
ようやく小さな穴を掘れた。
子供がやった事だ。
今思えば、そんなに大きくは無かったのだろう。
でもその時には。
充実感と達成感に満ち。
穴は大きく感じた。
手は豆が出来て。
血も出ていた。
次の日には、沢山の雨が降り。
僕はその雨に願った。
『どうか。彼と、、
会えます様に。』
そして。どうなったか、、
残念ながらと言うか。
結論から言うと。
結局僕は、彼と会う事は出来なかった。
僕を不憫に思った親が。
仕事を変え。
タイミング悪く。
引っ越す事になった。
親と言う生き物は。
実にタイミングの悪い生き物だ。
帰りたい時には迎えには来ず。
もっと遊びたい時に限って、早く迎えに来る。
そうゆうものだ。
そうして。悲しかった記憶も。
時と一緒に忘れてしまう。
あれから。祖母が亡くなって。
その分。歳を取った俺は久しぶりに。
お彼岸に墓参りをした。
勿論。祖母が好きだった御萩を持って。
、、相変わらず変わらない。
何も無い退屈な田舎。
今では、誰も住んでいないのだろう。
「懐かしいな、、」
手入れのされていない墓があり。
何だか不憫に思って。
あまり良くは無いんだろうけども。
掃除してやった。
きっと。
墓参りしてくれる人すらも。
亡くなってしまったのだろう、、
そっと。線香だけ供える。
帰ろうとした時。
頼まれていた事を思い出し。
祖母の家へと向かった。
今は誰も住んでいないが。
たまに親戚が掃除に訪れる。
それを俺が今回、頼まれたのだった。
急いで帰る必要も無い。
電気もガスも水道も。
そのまま通っていた。
「今晩は、どうするかな。。」
今住んでいる場所からここまでは、
まあまあ距離があった。
ビジネスホテルにでも泊まろうかと悩み。
帰りに何処かで風呂に入ろうかとも考えていた。
だから着替えは車の中にあった。
祖母の家には布団もあったから。
まだ日が出てるうちに干す事にした。
親に連絡を入れ。確認は取った。
過去の記憶に浸りたくなり。
俺は、泊まる事にした。
祖母は、暖かい布団を。
当たり前の様に用意してくれたが。
その有り難さを。
今頃になって気付く。
「重、、」
掃除をして。
少し横になる。
「あぁ、、
懐かしいな。」
ふと、棚の横に何かが落ちているのに気付き。
俺は、隙間に手を伸ばした。
「んんん、、
っと、、。」
埃の被ったそれを払う。
「何だ??」
どうやら、紙のようだった。
俺は、それを開いた。
折り畳まれた紙には。
男の子が2人。仲良く楽しそうに。
水溜まりみたいな場所の近くに居る。
親戚の子供が描いたのだろうか??
俺は、また横になる。
「、、??
あれっ。」
俺は、起き上がり。
歩き出していた。
気付けば、山に着き。
手には、あの絵を持っていた。
頭より身体が先に動く事は無いと思っていたが。
正に。今が、その状態だった。
山は、誰かが手入れをしていたらしく。
通れなそうな所もあったが、車の通った跡もあった。
どうやら今でも使われているらしい。
「何で、、俺。。」
何か大切な。
思い出さなくちゃいけないナニカ。
悲し様な、楽しかった様な、、
モヤモヤとした。
手が届きそうで、届かない場所に。
後もう少しで分かりそうな答えに。
「あっ、、。」
俺は、手を伸ばせた。
導かれた様にして草木を掻き分けた所に。
そこはあった。
男の子「よっ。
元気??」
彼の面影が。その場所にはあった。
小さい時に。
よく遊んでくれた男の子。
昔の残像が。
そこに。あったのだ、、
この絵の場所は。
確かにここだった。。
「どうして忘れちまったんだ、、」
その記憶は。
とても大切なモノだった。
大切に大切にしまっていたハズだったのに。
引っ越しと。
祖母の死。
いろいろな経験と時間と。
月日に流され。
記憶は。
何処かに押し込まれてしまっていた。
「あのさあ、、」
俺は、話した。
そこは凄く綺麗だった嘗ての面影等無く。
小さな荒れ果てた水溜まりみたいな場所で、
雑草が生い茂り、荒れ果てていた。
放置されてしまった。
知らない場所へと、変わってしまった。
気が触れてしまったか??
いや、、抑えていたナニカが。
溢れ出して来たのだ。
「今は、学校の先生やっててさあ?
ってか。久しぶり。??
何て、
声掛けりゃ良いのか、、」
ガサガサ、、
音のする方を見る。
猫だった。。
にゃあ。
「はあ、、」
深く溜め息をする。
俺が学校の先生になったのは、、
学校の先生になれたのは。
、、きっかけをくれたのは。
彼だった。
俺は、美術の教科を持っていた。
学校は、思っていたよりもめんどくさいし。
何よりも人間関係がダルい。
休日出勤なんてのはザラだった。
でも。
彼に褒めて貰えた絵を。
子供達に教えてあげる事が出来る。
単純に。
絵が好きだったから。
金が良かったから。
それもあったが。
大切なモノを思い出せた。
「君のおかげだよ、、」
日が落ちてきて。
小さな池に背を向けた時。
チャンポン、、
何も無い水溜まりの中心に波紋が広がった。
「また。来るよ?」
こうして。
彼岸に合わせる様にして。
年に2回は池に向かう。
彼とは逢えないけれど。
何だか一緒に居られる気がして。
周りをある程度綺麗にして。
俺は、そこで絵を描く。
こっちでそのまま暮らすのも。
悪くないかもしれない。。
そう、思ったりもしていた。
彼の名前は、分からないけれど。
水辺に居たから。
スイちゃん。
とでも命名しておこうか。。
祖母の家に飾ってある絵は。
俺が新しく描いた、スイと俺と池。
その絵のスイは。
何だか喜んでいる様な気がした。