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緑池の少年  作者: 紀希
2/2

記憶



僕は倉庫にあったシャベルを持ち。


土砂を退かした。



幸運な事に。土砂は、


小さな僕にも退かせる様なものばかりだった。



悲しんでいても仕方がない。



もし。


僕の考えが正しければ。


これを退かせば、


また。会えるかもしれないのだから。



毎日毎日。


泥だらけで帰り。


可能な限り、退かして。


掘って、を繰り返した。



地盤が悪かったのか。


度々何日か前の様な状態に戻っている事があったが。


それでもめげずに、僕は作業を続けた。



また。


彼と一緒に。



"遊びたかったから"



そうして。


ようやく小さな穴を掘れた。



子供がやった事だ。


今思えば、そんなに大きくは無かったのだろう。



でもその時には。


充実感と達成感に満ち。


穴は大きく感じた。



手は豆が出来て。


血も出ていた。



次の日には、沢山の雨が降り。


僕はその雨に願った。



『どうか。彼と、、


会えます様に。』



そして。どうなったか、、



残念ながらと言うか。


結論から言うと。



結局僕は、彼と会う事は出来なかった。



僕を不憫に思った親が。


仕事を変え。


タイミング悪く。


引っ越す事になった。



親と言う生き物は。


実にタイミングの悪い生き物だ。



帰りたい時には迎えには来ず。


もっと遊びたい時に限って、早く迎えに来る。



そうゆうものだ。



そうして。悲しかった記憶も。


時と一緒に忘れてしまう。



あれから。祖母が亡くなって。


その分。歳を取った俺は久しぶりに。


お彼岸に墓参りをした。


勿論。祖母が好きだった御萩を持って。



、、相変わらず変わらない。


何も無い退屈な田舎。



今では、誰も住んでいないのだろう。


「懐かしいな、、」



手入れのされていない墓があり。


何だか不憫に思って。


あまり良くは無いんだろうけども。


掃除してやった。



きっと。


墓参りしてくれる人すらも。


亡くなってしまったのだろう、、



そっと。線香だけ供える。



帰ろうとした時。


頼まれていた事を思い出し。


祖母の家へと向かった。



今は誰も住んでいないが。


たまに親戚が掃除に訪れる。


それを俺が今回、頼まれたのだった。



急いで帰る必要も無い。


電気もガスも水道も。


そのまま通っていた。


「今晩は、どうするかな。。」



今住んでいる場所からここまでは、


まあまあ距離があった。


ビジネスホテルにでも泊まろうかと悩み。


帰りに何処かで風呂に入ろうかとも考えていた。


だから着替えは車の中にあった。



祖母の家には布団もあったから。


まだ日が出てるうちに干す事にした。



親に連絡を入れ。確認は取った。


過去の記憶に浸りたくなり。


俺は、泊まる事にした。



祖母は、暖かい布団を。


当たり前の様に用意してくれたが。


その有り難さを。


今頃になって気付く。



「重、、」



掃除をして。


少し横になる。



「あぁ、、


懐かしいな。」



ふと、棚の横に何かが落ちているのに気付き。


俺は、隙間に手を伸ばした。


「んんん、、


っと、、。」



埃の被ったそれを払う。


「何だ??」


どうやら、紙のようだった。


俺は、それを開いた。



折り畳まれた紙には。


男の子が2人。仲良く楽しそうに。


水溜まりみたいな場所の近くに居る。



親戚の子供が描いたのだろうか??


俺は、また横になる。



「、、??



あれっ。」


俺は、起き上がり。


歩き出していた。



気付けば、山に着き。


手には、あの絵を持っていた。



頭より身体が先に動く事は無いと思っていたが。


正に。今が、その状態だった。



山は、誰かが手入れをしていたらしく。


通れなそうな所もあったが、車の通った跡もあった。



どうやら今でも使われているらしい。


「何で、、俺。。」



何か大切な。


思い出さなくちゃいけないナニカ。



悲し様な、楽しかった様な、、



モヤモヤとした。


手が届きそうで、届かない場所に。


後もう少しで分かりそうな答えに。



「あっ、、。」


俺は、手を伸ばせた。



導かれた様にして草木を掻き分けた所に。


そこはあった。



男の子「よっ。



元気??」


彼の面影が。その場所にはあった。



小さい時に。


よく遊んでくれた男の子。



昔の残像が。 


そこに。あったのだ、、



この絵の場所は。


確かにここだった。。



「どうして忘れちまったんだ、、」



その記憶は。


とても大切なモノだった。



大切に大切にしまっていたハズだったのに。



引っ越しと。


祖母の死。



いろいろな経験と時間と。


月日に流され。



記憶は。


何処かに押し込まれてしまっていた。



「あのさあ、、」


俺は、話した。



そこは凄く綺麗だった嘗ての面影等無く。


小さな荒れ果てた水溜まりみたいな場所で、


雑草が生い茂り、荒れ果てていた。



放置されてしまった。


知らない場所へと、変わってしまった。



気が触れてしまったか??



いや、、抑えていたナニカが。


溢れ出して来たのだ。



「今は、学校の先生やっててさあ?



ってか。久しぶり。??


何て、


声掛けりゃ良いのか、、」



ガサガサ、、



音のする方を見る。



猫だった。。



にゃあ。



「はあ、、」


深く溜め息をする。



俺が学校の先生になったのは、、


学校の先生になれたのは。


、、きっかけをくれたのは。



彼だった。



俺は、美術の教科を持っていた。


学校は、思っていたよりもめんどくさいし。


何よりも人間関係がダルい。


休日出勤なんてのはザラだった。



でも。


彼に褒めて貰えた絵を。


子供達に教えてあげる事が出来る。



単純に。


絵が好きだったから。


金が良かったから。



それもあったが。



大切なモノを思い出せた。



「君のおかげだよ、、」



日が落ちてきて。


小さな池に背を向けた時。



チャンポン、、



何も無い水溜まりの中心に波紋が広がった。



「また。来るよ?」



こうして。


彼岸に合わせる様にして。


年に2回は池に向かう。



彼とは逢えないけれど。


何だか一緒に居られる気がして。



周りをある程度綺麗にして。


俺は、そこで絵を描く。



こっちでそのまま暮らすのも。


悪くないかもしれない。。



そう、思ったりもしていた。



彼の名前は、分からないけれど。


水辺に居たから。



スイちゃん。



とでも命名しておこうか。。



祖母の家に飾ってある絵は。


俺が新しく描いた、スイと俺と池。



その絵のスイは。


何だか喜んでいる様な気がした。






















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― 新着の感想 ―
[良い点] 何だか切ないけど美しい話だなって読ませていただきました。 面白かったです。
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