男の子
何がある訳でもないド田舎。
仕事が忙しい両親は、
よく僕を祖母の家へと預けた。
同学年の友達もいなければ、
近所に歳の近い子供達もいない。
例え、そのような子供達がいたとしても。
コミュ障だった僕には、
自分から話し掛ける事すら無理だったのだろう。
祖母は畑をしたり。
近所の人と世間話をしたりして。
僕と遊んでくれる訳でもなかったし。
今の時代の様に、
テレビゲームがあった訳でもなかった。
とにかく。時間だけが無駄にあった。
近くには山があったが、
危ないから1人では行ってはいけないと、
口を酸っぱくして言われていた。
どうしてか。
行ってはいけないと言われてしまうと、
何故だか、行きたくなってしまうのが子供だ。
祖母「山には入っちゃあかんえ~?」
「は~い。」
なんて言って。
朝食を食べてから、こっそり山へと向かう生活が続いた。
最初は怖かった。
独特の雰囲気に、風で木々が揺れる音。
でもそれも。何回も行けば、慣れてくる。
山は広く。
ビビりだった僕は、そんなに上には行かなかった。
近い民家の人達に見付からない様にして、
うるちょろとしていたぐらいだった。
僕は見た事のない景色や風景を絵に残した。
そうやって時間を過ごしていた。
ある時。
いつもの様に山に入ったが。
大体の場所の絵を描いてしまっていた。
まだ12時すら回ってないだろう体感を信じ。
今日は少しだけ登ってみる事にした。
始めて行く場所に。久しぶりに興奮と緊張を覚え。
何だかワクワクしていた。
しばらく歩いていると、目の前に池があった。
綺麗な緑の池だった。
「わぁ、、
綺麗だなあ。」
水面は木々から入る光でキラキラとしていて。
水も綺麗で名前の知らない魚がいた。
僕は腰を掛け、夢中で絵を描いていた。
それぐらい。凄く綺麗だった、、
集中して絵を描いていると。
「何をやってるの??」
と、不意に声を掛けられた。
僕はビックリした。
怒られる、、
と思ったが、
次には。
「へえ。
絵。
上手だねえ??」
と、褒められた。
ゆっくりと振り向くと。
僕より少し大きい男の子が居た。
こっちに来て初めて会う歳の近い子供に。
僕は正直ビビっていたのかもしれない。
僕は紙とクレヨンを渡した。
男の子「んっ??
貸してくれるの??」
僕は首を縦に振った。
その子は僕の隣に座った。
僕はその子が描くのを見ていた。
男の子「あらら。
こりゃ、難しい、、
君。
すごいねえ??」
男の子の顔は近く。
とても、綺麗だった。
彼は僕を褒めてくれた。
それが。嬉しかった。
日が傾いてきたから。
僕は立ち上がって帰ろうとした。
男の子「ん??
、、もう帰るの??」
僕は頷く。
男の子「これは、?」
「、、持ってて。」
男の子「また来る??」
「、、うん。」
男の子「またね??」
僕は手を振った。
僕は嬉しかった。
ニコニコしながら家に帰った。
祖母「お帰り。
何か、良い事があったのかえ??」
「うん、、」
祖母「そうかいそうかい。
そりゃ良かったよぉ、、」
それから。
僕は毎日彼と一緒に居た。
男の子「よっ??」
池に行くと彼は居た。
「、、よっ?」
少しずつ。
僕は彼に心を開いていった。
男の子「上手いねえ??」
彼はいつも褒めてくれた。
嬉しかった。
彼は一緒に絵を描いた。
彼は上手く無かったが。
彼の絵を。僕は好きだった。
そんなある日。
いつもの様に帰ろうとすると。
男の子「明日は、来ちゃいけない。
と言うか。。
しばらく来ちゃいけない、、」
と言われた。
「どうして??」
僕は少し悲しくなった。
男の子「大丈夫。
また会えるから。。」
僕は彼と僕を描いた絵を切って、彼に渡した。
「また。会おうね??」
男の子「うん。」
彼は笑った。
次の日から記録的な豪雨が続いた。
祖母「雨が。
すげえな、こりゃあ。」
祖母は落ちてくる雨水にたらいを置いた。
ポツン、、
ポチャン、、
ガタッカタッ、、
家は揺れながら雨が屋根を叩く。
彼は大丈夫だろうか、、
その日から。
ずっと雨だった。
僕は彼に会いたくて会いたくて仕方がなかった。
家にこもる時間はとても退屈だったのだ。
ようやく雨がやみ。
僕は山へ走ったが。
目の前には、崩れた山があった。
いつも通っていた場所は全て閉ざされ。
まるで、"来るな"と言われている様だった。
何とかして彼と会いたかった僕は、必死に道を探した。
「何処か行ける場所は、、
何処かに、、」
一生懸命探したが、その時に大人に見付かってしまった。
大人「土砂であぶんねえから。
子供はちげーとこさ遊べ??」
僕は下を向きながら歩いた。
こんな事になるなら、、
もっと。話しておけば良かった。
もっと遊んでいれば、、
僕は涙が出てきた。
彼に会いたい、、
その気持ちだけが溢れ出た。
大人の目を避けて、ようやく辿り着いた時には。
土砂で池は埋もれてしまっていた。
「、、。」
僕は立ち尽くした。
彼はこの事を言っていたのだろうか。
人がいない田舎では。
埋もれてしまった池の土砂を浚う事はせず。
そのまま。
何も無かったかの様に放置した。
僕は悔しかった。
池が埋まってしまった事で。
彼が現れる事が出来ない事を。
僕は何処かで知っていた。
けれど、もし。
そう、気付いている事を話してしまったら。
彼に言ってしまったら。
もう、二度と会えない。
と、自分で分かっていた。
だからそう接してきたのだ。