09.聖女と遠征
聖女として人々の回復に務めていたマ-ル。
患者の数は減ってもいないが、増えてもいない状態だった。
それでも回復した人々はマ-ルに感謝し称えた。
治療を待つ者も、噂を聞き、マ-ルを崇めた。
そんな或る日。
「遠征、ですか…?」
「はい…」
マリエル邸に騎士がやって来てそう告げた。
「遠征先に″スノー・ドロップ″で機能不全に陥っている村があり、最優先に治療と配給物資をと陛下がお決めになったので、マ-ル譲にも御同行を依頼したく伺いました」
そう言って頭を下げる騎士。
「あ、頭を上げてください。私も御同行致しますので」
慌ててマ-ルが駆け寄る。
騎士は顔を上げ「申し訳ない」と呟いた。
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「大丈夫ですか?」
馬車に揺られるマ-ルに掛けられる声。
「はい、馬車ですので心配は要りません」
馬上の騎士へ返事をする。
悪路が続くので、決して馬車でも楽ではなかった。
が、馬で移動している人々がいるのに、泣き言は言えないとマ-ルはぐっと堪えた。
馬車で半日ほど移動した先に或る目的の村。
老若男女年齢問わず、病に倒れており、村自体が地図から消え去るのも時間の問題ではないかと思われるほど事態が深刻だった。
同行したレジ-が各家庭を周り、ドアに緊急性の高低をプレートで示していく。
実に見事な手際だった。
事前に教えられたとおり、マ-ルは緊急性が高い色を示す赤いプレートの家を訪問し、聖女の祈りを行った。
聖女の祈りという名称は、助けた人々がつけたもので、いつの間にか神殿内の神官達にも浸透していたという経緯がある。
最近のマ-ルは狭い部屋一室程度であれば、一気に治癒できるまでに技能をあげていた。
一家庭を一気に治癒できるのは、治癒側にもメリットがある。
折角治癒しても、家族に″スノー・ドロップ″の罹患者がいれば、再度感染してしまうからだ。
レジ-が初動の診察に駆り出されているため、ルイス・クラ-クがマ-ルに付いて治療の補助をしている。
治療が終わった後問診し、完治を確認する。
「全員完治してます。けれど、村自体の治療が終わるまでは外出しないでください。後程騎士団の方々が物資をお持ちしますので、しばらく辛抱ください」
「わかりました。ありがとうございます」
涙を流しながら、回復を喜ぶ人達。
マ-ルはにっこりと笑ってその光景を喜んだ。
三軒ほど治療を施したが、まだまだ終わる気配はない。
しばらくこの村に滞在することになる。
マ-ルは自分に用意された天幕で明日に備え就寝した。