08.聖女は知らぬ内に
「はぁ、素敵だった」
今日の出来事、皇太子ガイウスのことを考えていたマ-ル。
落ち込んだら気分転換に連れて行ってくれて、背中を貸して泣かせてくれて…と何度も何度も溜息を吐く。
(でも、ガイウス様には婚約者が…)
ぎゅっとクッションを抱き込む。
マ-ルは悶々としていた。
(ダメダメ、切り替えなきゃ。もう寝よう)
ベッドへ潜り込み、目を瞑った。
*******************
二日後。
「マ-ル様お待ちしておりました」
レジ-・スミスが出迎える。
「毎回お手数をお掛けします」
ぺこりとお辞儀をするマ-ル。
いつものようにレジ-はマ-ルを治癒室へと案内する。
「本日は″スノー・ドロップ″の患者様が3名です。順番にお部屋へ誘導しますので、治療をお願い致します」
「はい」
以前ガイウスを見かけた中庭に差し掛かる。
思わず今日はいないか、確かめてしまう。
(今日はいらっしゃらない…)
淡い期待をしていた分、がっかりしてしまう。
マ-ルは自分で自覚しないない内に、ガイウスに恋をしてしまっていた。
「これで治療は終わりです」
マ-ルが祈りを捧げ終わると同時に眩い光も消え、患者が嬉しそうに手足を動かしていた。
「ありがとうございます、聖女様」
心配そうにしていた親族も一安心した表情で、マ-ルにお礼を述べる。
「いえ、お礼を言われることなんか」
慌てて手を振り、首も振った。
マ-ルは未だにお礼を言われることに慣れていなかった。
レジ-が患者達を帰るよう促し、ようやく一息つく。
「ありがとうございました」
マ-ルが笑顔でお礼する。
「ふふ、お礼を言われることはしてませんよ」
良い匂いの紅茶をレジ-は差し出し、いつも通りの休憩時間にする。
「レジ-さんの紅茶はいつも美味しいですね」
一口すすり、お茶請けのクッキ-も頬張るマ-ル。
甘くてサクサクしているクッキ-に今日もメロメロになった。
「お疲れの時は甘い物が染みますね」
レジ-は笑いながら賛同する。
「女性は甘い物が大好きですもんね」
「はい!」
マ-ルは元気良く答えた。
「今日はこれで終わりですので、お茶が終わるまでのんびりしてましょう」
レジ-の提案にマ-ルは乗っかり、迎えが来るまでのんびりしていた。
久し振りにゆっくりした気がしたようなマ-ルだった。




