07.聖女と皇太子
「ここなら良いか」
ガイウスは引いていたマ-ルの手を離し、にかっと笑った。
「見てみろ!」
中庭の咲き誇る花々。
マ-ルはうっとりと花に見とれ笑顔になった。
「ようやく笑ったな」
「え?」
「先程は騎士団の者がすまなかった…。聖女殿の力が万能と思っている節があったようだ」
ガイウスの言葉に胸がチクリと痛む。
マ-ル自身も聖女と言われ、身体の欠損も治せるのではないかと思っていたからだ。
「私の言葉に他意はない」
「え?」
マ-ルはガイウスを見る。
「酷なことを言うが、欠損してしまった身体は元には戻らない。聖女の力についても未知数で何もわかっていない。それなのに、治せると勝手に期待し勝手に絶望するなど…貴女に失礼にも程がある」
ガイウスの言葉にマ-ルの目頭が熱くなっていく。
(わかってくれた…)
溢れそうな涙を必死に堪える。
「泣いても良いんだぞ?婚約者がいる身の上だから、胸は貸せないが…背中は貸してやろう」
「ふっ、うう…うわぁぁぁぁぁ」
マ-ルは人目も気にせず大声で泣いた。
貸して貰ったガイウスの背中に顔を埋めて。
(治せるなら治したかった、治したかったよ…悔しい…)
どれだけの時間が過ぎたか定かではないが、マ-ルも落ち着いたようだった。
「すみませんでした…」
泣きすぎで少し鼻声になってしまったマ-ル。
「はは、気にするな」
ガイウスはそれを気にも留めずに笑った。
高鳴るマ-ルの鼓動。
最初に見たときも同じように胸が高鳴ったのを思い出した。
(やだ…殿下には婚約者がいるのに…)
心臓の音を聞かれないように、マ-ルはぎゅっと胸元を押さえる。
(落ち着きなさい)
「戻ろうか」
「はい」
ガイウスに導かれ、マ-ルは負傷した騎士がいる部屋へ戻った。
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「戻ったぞ。セリカ、皆の状態はどうだ?」
「お帰りなさいませ、殿下」
セリカが一礼する。
「比較的軽症の方は数日中に戻れるでしょう。火傷の酷い方もいますが、跡は残るでしょうが痛みが引き患部が乾けば戻れます。ただ…」
ちらりと負傷した箇所が欠落している者に目を向けるセリカ。
同じようにガイウスもその者に目を向ける。
「欠損がある方は騎士には戻れません。陛下と殿下の許可を頂けるのでしたら、義手・義足等の補助具をお作りし、私のアトリエでお仕事を任せたいのですが…」
「任せる。父上には私から話を通そう」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるセリカ。
マ-ルには二人に強い絆を感じ、先程とは違う胸の痛みが生じるのを感じていた。