06.聖女への期待
マ-ル・マリエルは一日おきに神殿を訪れ、奇病の治療に勤しんでいた。
「ふぅ…」
「お疲れ様でした」
マ-ル付きの神官、レジ-・スミスが労いの言葉を掛ける。
差し出された温かいお茶を受け取り、一息つく。
「今日は後お一人の治療で終わりになります。頑張りましょう」
「はい」
ゆったりとした時間が過ぎる。
「マ-ル様はいらっしゃるか?」
荒々しくドアを開け、一人の神官が部屋へと駆け込む。
「何ですか、騒々しいですよ」
レジ-が同僚を嗜める。
「すまない。火急の用件があって…」
駆け込んだ神官、ルイス・クラ-クがちらりとマ-ルを見遣る。
それに気付いたレジ-は用件を話すよう促した。
「とある領内に出た盗賊との戦いで負傷した騎士がおり、マ-ル様の治療を希望しております。見ていただけないでしょうか?」
「わかりました、伺います」
「マ-ル様軽微な負傷者はこちらで引き受けますので、重篤者を優先してください」
「はい」
レジ-がマ-ルの負担を考え、治療方針を伝える。
マ-ルも異論は無く頷いた。
負傷した騎士がいる部屋へと入る。
血と何かが焼けた臭いが立ち込めていた。
「……………っ、ぐ」
マ-ルは立ち込める臭気に何度も嘔吐き、何とかしようとするものの何もできなかった。
「マ-ル様はご退室ください」
凛とした声が室内に響き渡る。
「せ、セリカ様!?」
騎士のひとりが声の主に気付き敬礼した。
「今は非常時です。挨拶は結構です」
セリカはテキパキと騎士達を確認し、臭い等気にすることなく治療を施す。
「私の力では、再生はできないのです。代わりに義手や義足を作ります。私の元で雇用することも約束します。騎士を辞さねばならないのはお辛いでしょうが、できる限りのことは致しますので、頑張りましょう」
身体に欠損がある者にはそう告げ励ますセリカ。
同世代の令嬢がそこまでする姿を見て、マ-ルも負けじと心を震わせる。
「私も治療します」
マ-ルも治療を開始する。
″手足よ戻れ″そう願いながら祈るが、それが叶うことはなかった。
半ば聖女ならばと期待する者もいたが落胆した。
「ご、ごめんなさい…」
落胆の空気に泣きそうになるマ-ル。
「泣くではない」
俯いたマ-ルに届く声。
ふと顔を上げればガイウスがそこには立っていた。
「聖女とて万能ではない。勝手に期待し落胆するなど失礼だぞ」
「はっ、はい。失礼致しました」
「セリカ、後は任せても良いか?」
「かしこまりました」
セリカが恭しく礼をし、その姿にガイウスは満足する。
「では任せた」
マ-ルの手を引き、ガイウスは部屋を後にした。