05.聖女の初仕事─後編─
「おぉ…」
少女の親族だろうか?
付き添いの男性から歓喜の声が漏れる。
彼に寄り添う女性は声にならない声で泣き続けた。
「お父さん、お母さん」
マ-ルが癒やした患者が2人に駆け寄る。
3人は抱き合い、回復を喜んだ。
「念の為に診察をさせていただきます。よろしいでしょうか?」
神官が未だ喜びを噛み締めている家族に声を掛ける。
「あ、すみません。喜びの余りつい…」
父親である男性が娘の抱擁を止め、神官に向き直る。
患者である娘も慌てて両親から離れた。
(羨ましい…)
目の前で仲睦まじい親子の絆を見せられ、マ-ルは俯いた。
誰もマ-ルの心情には気付けなかった。
「はい、大丈夫そうですね」
身体に巡る血を感知し、患部を特定する魔法を施していた神官が笑顔で伝えた。
「本当ですか?」
「えぇ、今まで機能低下状態だった肺が淀も無く活動してますから。もう苦しくなることもありませんし、療養後は働いたりすることもできますよ」
余程完治したのが嬉しいのか、神官は興奮気味に診断結果を話した。
相手の家族も感極まった顔で何度も何度もマ-ルにお礼を言い続けた。
「マ-ル様、治療ありがとうございました」
先程の家族と別れ、父と大神官が待つ部屋へと向かう途中、神官はマ-ルに頭を下げた。
「私達では完治させることはできず、進行を緩やかにしてあげるくらいですから」
悲しそうに笑うその顔にマ-ルは胸を痛める。
(ただ言われるままに祈っただけなのに)
「マ-ル様の魔法はどうでしたか?」
大神官の言葉と共に、父からは品定めをするような視線を向けられる。
「″スノ-・ドロップ″が完治しました」
「何と!」
立ち会った神官の言葉に大神官は驚き腰を浮かす。
「まさかあの″スノ-・ドロップ″が…」
死に至る奇病の完治。
大神官は涙を浮かべ、「マ-ル様、無理のない範囲で患者を助けてはくれませんか?」と問い掛けた。
ロドリゲスからは受けることが昰だと言いたげな視線が向けられる。
「はい、私でよろしければお手伝いさせてください」
ぺこりと頭を下げ、マ-ルはそう答えた。
ロドリゲスは満足げに頷き、大神官に「先程の件、よろしくお願い致します」と囁いた。
大神官も小さな声で「もちろんですとも」と和やかに返す。
マ-ルは気にしないようにし、帰路につくまで神官に連れられ、奇病の患者を見て回った。
聖女として求められた、マ-ルの初仕事は無事終了したのである。