04.聖女の初仕事─前編─
成人の儀のその後。
マ-ル・マリエルに封書が大量に届く以外に、生活の変化は特になかった。
変わらず返事をしたためては返送する日々。
(はぁ………こんなのばかりで嫌になります)
父親は返事を書くことで繋がりができることに期待し、母親は心配しつつも父親に逆らうことはせず、結局のところ何もしてはくれなかった。
結局のところ、変わったのはマ-ル以外だったのだ。
「お嬢様!至急旦那様の書斎へお越しくださいませ」
いつものように過ごしていると、慌てた様子のメイドが部屋へやってきた。
「騒々しいですよ」
「失礼致しました。しかし、書斎へお急ぎいただきたいことは事実です」
「わかりました、参ります」
「お父様、マ-ルです」
ノックと共に声を掛ける。
「入れ」
「失礼します」
書斎へ入ると、父 ロドリゲス・マリエルが待っていた。
「座りなさい」
応接セットに座るロドリゲスの正面に腰を落とす。
「何かご用でしょうか?」
「神殿の回復術士でも治せない病の方がいるらしい。そこで、お前の力を借りたいそうだ。行ってきなさい」
有無を言わさない言い方のロドリゲス。
マ-ルは自身のドレスを握り込み、「かしこまりました」とだけ答えた。
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来たる神殿へ赴く日。
何か言いたげな母に見送られ、父と共に馬車に揺られ向かう。
父娘の会話などなく、重々しい沈黙が神殿へ到着するまで続いた。
「よくぞ参られた、聖女マ-ル殿」
恭しく神官が出迎える。
「本日はよろしくお願い致します」
出迎えの神官と父親が会話をし中へと移動する中、マ-ルはその3歩後に続く。
(気が重い)
マ-ルは立ち止まり、ふと中庭に目を向ける。
一緒に成人の儀を迎えた、セリカ・クラレンスの姿があった。
隣にはガイウス・フォンティ-ヌ・ウェルフレア皇子の姿もある。
マ-ルの視線に気付いた神官が、″ガイウス皇子とセリカ譲は婚約していること″を教えてくれた。
(羨ましい)
チリッと胸が灼けるような感情が芽生える。
マ-ルは頭を振り邪念を払う。
そうしている内に患者のいる部屋へと到着した。
手をかざし治れと念じれば良いのです。
回復術士に促され、奇病とされる″スノ-・ドロップ″と呼ばれる病に侵された患者に向き直る。
身体の一部が真っ白に変色し、それが全身に廻る頃には内蔵の機能が止まるという恐ろしい病だった。
マ-ルは手をかざし、言われた通りに念じる。
眩い光がマ-ルと患者の周りに集まってきた。
「お疲れ様です」
神官の声にハッと我に返り、マ-ルは患者を見つめる。
「苦しく、ない…」
泣きそうな声で患者だった少女は自分の身体を動かし喜んだ。




