16. 聖女と不穏な事件の始まり─前編─
マールは聖女の仕事を再開した。
教会に赴き奇病、スノー・ドロップを治療する日々。
先日ガイウスから直接頼まれてから、より一層治療に力が入った。
いつもニコニコとしていて患者さんからの受けもすごく良かった。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
手を振りながら部屋を出て行く少女に、ひらひらと手を振り見送る。
ルイスはその様子を見ながら、マールが来た日に必ず出すお茶の用意をしていた。
「マール様、お茶の用意が出来ました」
「ありがとう」
ルイスにお礼を言い、出されたお茶を飲む。
「そういえば、明日はお休みしても良いですか?」
「?何か御予定でもおありですか?」
「はい、成人の儀で仲良くなったご令嬢とお茶会なんです」
にっこりと笑うマール。
「左様でしたか。いつも頑張っていただいてますからね、大丈夫だと思いますよ。私からも進言しておきますから」
「ありがとう、ルイス。では、そろそろ帰りますね」
「お疲れ様でした」
手を振り去って行くマールをルイスは扉が閉まるまで笑顔で見送った。
*******
「フランジェシカ様、お招きいただきありがとうございます」
マールはハウメル伯爵邸へ招かれていた。
他にも3人程、令嬢が招かれているようだった。
庭に用意された会場へと案内される。
花々が綺麗に咲き誇る庭はとても綺麗だった。
「まぁ、素敵!」
「本当に!」
円卓につきながら周りを見廻し、マールも他の令嬢と同じように魅入っていた。
焼き菓子と紅茶が円卓いっぱいに広げられる。
それらを口にしながら、ドレスやアクセサリーの話に花を咲かせた。
「皆様、楽しんで頂けていますか?」
突然男性の声がする。
そちらを見れば、ディラン・ハウメルが笑みを浮かべながらこちらに向かってきていた。
慌ててマールを含む招待された令嬢が挨拶をする。
「そんな!お礼など…」
笑みを浮かべながらディランは着席を促し、いつの間にか彼もお茶会に参加していた。
「ほぅ!それはそれは…」
ディランは気付いていないようだが、明らかにご令嬢達の口が重くなっている。
当然のことだろう、突然男性が現れたのだから。
「そ、そろそろお暇しませんか?」
誰かが口火を切る。
「そうですわね」
「フランジェシカ様、本日はありがとうございました」
会を締めようとするご令嬢たち。
しかし、ディランは…。
「ディナーも用意させました。それまでは良いではないですか」
等と言い出している。
それにも戸惑うご令嬢たち。
マールも当然困惑した。
「流石にそこまでは…」
「申し訳ありません。ディラン様」
「そう、ですか…」
明らかに落ち込むディランに胸を痛めるマール。
だが、他の令嬢に倣いハウメル伯爵家を後にするのだった。




