15. 聖女の恋が加速する日
初めて来た王城内をただひたすら走り抜けたマール。
途中で制止する声が聞こえたが、止まることなく突き進んだ。
開けた場所───中庭に辿り着き、芝生に座り込む。
「っ、ふぅぅ…逃げちゃった、逃げちゃったよぅ…ぅぅぅ…」
大きな声でわんわんと泣いた。
「私は、王城に…呼ばれるような、高貴な、貴族じゃないもん…わかんないよぉ…ぅぅぅ」
誰も居ないと思い大声で泣き喚く。
「はぁ、追い付いた…聖女は足が早いな…」
ガイウスがマールの横に倒れ込むように座った。
「私も鍛錬して、体力には自信があったんだが…ははは、ここまで追い付くことが出来なかった…」
マールはぐちゃぐちゃのままの顔を上げる。
額に汗をかきながら笑顔で話すガイウス。
その笑顔にマールの胸は高まる。
そして…はた、と気付く。
今の自分の顔は汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃだということに。
慌ててハンカチを取り出しそれらを拭う。
ガイウスに笑顔を見せた。
「やっと笑ったな。先のセリカの発言を許して欲しい」
セリカと聞いて胸がちくりと痛む。
「彼女は幼少期より私の婚約者と選ばれ、日々己を磨いている。己にはもちろんだが、他者にも少々厳しすぎて困る。悪気はないのだ、本当に聖女を心配して言ってしまったようだ」
眉尻を下げて話すガイウス。
セリカとの間に築かれた確かな絆が見て取れる。
「気にしてませんし、気にしないでください」
マールはにっこり笑って答えた。
「そうか、ありがとう」
(絶対違う。厳しいだけじゃ、無い。私がガイウス様と仲睦まじくしているのが気に入らないんだ…)
笑顔のまま拳を強く握る。
そして頭を振り気持ちを入れ替えた。
「そういえばガイウス様は何故騎士団の方々と共に鍛錬を?」
マールの質問にガイウスの笑みが濃くなる。
「自分で自国の民を助けたいからだ」
「素敵ですね」
「だが…」
そこで一旦区切った。
「スノー・ドロップには何の役にもたたなかった」
今度はガイウスが握り拳を強く握り締める。
爪が食い込み血が滲んできていた。
「ガイウス様!」
血相を変えてマールがガイウスの手を取り、癒やしの光を放つ。
みるみる内に手は回復し傷などなかったかのような───元の手に戻っていた。
「ダメです。御自身を傷付けては…」
ガイウスはその姿に「似ている」と呟いた。
「……………え?」
「いや、何でもない。手の治療ありがとう。そして、これからもスノー・ドロップの治療も頼む」
「はい」
マールはガイウスの視線から目を背けなかった。
「おっと、これは良くないな」
ガイウスから先に視線を外し、繋いでいた手も解く。
「私は婚約者がいる身。聖女は結婚適齢期の乙女。長い間視線を交わせては誤解が生じるな」
離れた手、逸らされた視線。
マールは淋しくなってしまう。
(もっと繋がりたい)
ガイウスの手を見ながらそう思ったのだった。




