14. 聖女と騎士団 ─後編─
マールは騎士団長に案内され演舞場を見学していた。
「っ!?団長?」
団長の出現にピリリと空気が引き締まる。
「気にするな、そのまま続けろ」
「はいっ!」
鍛錬用の木剣を握り直し素振りをする者、打ち込み稽古をする者、様々だった。
団長の後ろから演舞場を見廻すマール。
その視線はお目当てのガイウスを捉えていた。
(真剣なお姿が素敵)
ぽぅと見惚れていると、唐突にガイウスと視線が交わる。
「聖女か。こんなむさ苦しいところに何用だ?」
行っていた素振りを中断しガイウスは二人に近付いた。
「あ、その、お怪我をされた方々が気になりまして…」
「そうなのか。良い心がけだな」
にかっと笑うガイウス。
「そんな、ことは…」
マールは真っ赤になりながら否定した。
「失礼致します」
騎士が一人、団長に耳打ちをする。
「わかった。ガイウス殿下、席を外しても良いでしょうか?」
「聖女のことは任せておけ」
団長の言わんとしていることを理解し、すぐに快諾したガイウス。
「では、失礼致します」
団長は先程報告に来た騎士と共に詰め所へと戻っていった。
思わぬ棚ぼた的なラッキーでガイウスと二人きりになったマール。
そう思っているのはマールのみで、実際は鍛錬をする騎士達がたくさんいるのだが…恋する乙女には見えないし聞こえないようだ。
「先達ては慣れぬ遠征に尽力頂き感謝する」
「ふえ!?あ、いえ…そんな」
「我が民が救われ、国王も大変喜んでいる。……………ありがとう」
ふいに優しく礼を言われマールは真っ赤になる。
廻りの喧騒が消えマールには、マール自身の鼓動だけがやけに早く煩いくらいに鳴り響いていた。
「ガイウス殿下」
女性のガイウスを呼ぶ声で現実に引き戻される。
「セリカか、今日はどうした?」
「妃教育が終わりましたので、お約束をしておりました騎士団の団長様へ騎士を止めざるをえなかった方々のその後について定期報告に来ました」
「そうか、騎士の件は助かった」
「いえ…」
マールを置き去りにガイウスとセリカの会話が始まる。
ついていくことのできない会話に疎外感を覚えた。
(さっきまで良い雰囲気だったのに)
ムスッとあからさまに頬を膨らませる。
「あら?聖女様、ご機嫌よう」
「コンニチハ」
セリカがマールに気付き挨拶をした。
マールもぎこちないながらも挨拶を返す。
「聖女様はどういった御用件でこちらへ?」
「……………用はありません」
消え入るような声でマールはセリカの問いに答えた。
途端にセリカの纏う空気が変わる。
「はぁ、マリエル伯爵様はきちんと教育されてないようですわね」
ぽつりと呟いた。
「聖女様、登城の際は事前にお約束なさるか、王族の方々もしくは王城で働いている方からの呼び出しに応じて登城なさるかしかできません。気軽に遊びに来るような感覚で登城されましたら、先方にご迷惑をお掛けします。更には、マリエル伯爵様にも恥をかかせる行為です。以後お気を付けください」
「ぅ、ぁ…すみません」
セリカに捲し立てるように言われ、マールは瞳からポロポロと涙を流して謝る。
「セリカ!」
ガイウスが強い口調でセリカを止めた。
「止めろ、相手は聖女だぞ?」
「申し訳ありません。ですが、このままですと聖女様が恥ずかしい思いをなさるかと思いまして…」
セリカとガイウスの話の途中にマールはその場を飛び出す。
廻りにいた騎士の面々が声を掛けるが、それらを無視して走り去った。




