12.聖女は許さなければならないの? ―後編―
王都へ帰還後、マールは教会に呼び出されていた。
先日の遠征でのレジーとの一件の聴取の為に。
その為今日の治療はお休みだ。
「では、レジーが聖女様に手を上げたのは事実ということですね?」
「はい」
大神官の顔を真っ直ぐ見詰めるマール。
「私はただ、再度村に被害を及ぼす存在の治療を拒否しただけです。それが間違いなのでしょうか?」
「教会としては救いを求める者拒絶はできないので、処罰を受けますが…聖女様は教会所属の方ではありませんので、咎められることはありません」
「良かったです、間違っていなくて」
心底ほっとした安堵の表情を浮かべるマール。
その様子を見て大神官は溜息を吐いた。
先に同行していたルイスや騎士から、レジーの処遇についての嘆願があった。
マールも真意を知ればレジーの処罰を望まないはずだと。
でも、当のマール本人がそれを口にしなかった。
レジーの行動の真意が彼女に届いていなかったようだ。
かといってこちらからそれを説明して不興を買うのは問題だった。
大神官は重い口を開く。
「聖女様はレジーに対して何を望みますか?」
「重い刑罰を望みます!」
はっきりとそうマールは告げた。
大神官は顔を曇らせる。
「わかりました」
そう答えるしかなかった。
国王からは聖女マールを重宝し、何よりも尊重するようにと仰せつかった。
彼女もそれを知っているだろう。
国王に告げらればレジーの死罪は免れない。
大神官は頭を抱えた。
大神官と面会したマールはレジーと対面していた。
「私に平手打ちをしたから、貴方には重い刑罰をお願いしておいたわ」
にこにこといつも通り話すマール。
レジーは「そうですか」とだけ話した。
あの一件からマール付き神官になったルイスは、マールに見えないところで複雑な表情を見せていた。
「もうお仕えできないのは残念です。今までありがとうございました」
レジーが深く頭を下げた。
「さようなら。もう会うこともないでしょう」
その姿を見ることなくマールは部屋を後にした。
ルイスはレジーに視線を向けたが、レジーから「行け」という視線を返されマールの後を追った。
後日、マールのもとへ神官レジーの訃報が伝えられた。
誰もいない部屋で顔を覆い、レジーを思い浮かべるのだった。
初めての治療で戸惑った自分に優しくしてくれた人。
こっそりお茶会を開いて労ってくれた優しい人。
治療で疲れたときに疲労を軽減させてくれた人。
そして、私を裏切った人。
「レジー、貴方は何で私を叩いたの?」
マールはそっと涙を流した。




