11.聖女は許さなければならないの? ―中編―
乾いた音が響いた。
マールの頬が紅く染まる。
手を上げたまま村人も固まっていた。
「罰は後でいくらでも受けます。まずは治療を行ってください」
レジーはマールの頬を叩いた上でそう告げた。
涙を浮かべてマールは首を縦に振る。
そっと手に魔力を込め、家中に拡散させた。
聖女の祈りだった。
「これで治ったハズです。失礼します」
レジーに代わりルイスがマールの後に続く。
その姿を横目で見送り、レジーは治療の確認をする。
「いやぁ、小娘を躾けていただけて助かりましたよ。がはははは!」
先程のやり取りをそう解釈した村人。
レジーは村人に手を翳す。
「あ、あが…あぁ…」
突然苦しみ出す村人。
「聖女様を叩いたのは、貴方の為じゃありませんよ。貴方のような下種な方に触れてほしくなかったからです」
体中の水分が失われ干からびていく寸前の村人。
「あがぁ…」
「聖女の責務?そんなもの存在しませんよ。在るのは、奉仕の精神で今回はお付き合いいただいたという事実です。貴方は自身の義務を放棄し、多大な迷惑を掛けた。いない方が世のためになるのでは…?」
水分を奪っていた魔法を止め、戻していく。
「ひ、人殺し!」おい、騎士共見ただろう?捕まえろ!」
話せるようになった村人が周りに同行する騎士に大声で声を掛ける。
「人殺し?」
「それは貴方のことでは?」
控える騎士にそう言われ茫然とする。
「わ、わしが人殺しなんぞ!」
「未遂ですけどしましたよ。"スノー・ドロップ"をばら撒いたんですから」
「え?」
いつの間にか開いていたドア。
その先からこちらを見ている息子を含めた数人の見知った顔。
「た、助けてくれ…」
「何で?俺たちを殺そうとした癖に」
「そ、そんなことしてない」
「騎士の方々の指示を聞かず出歩いていた癖に」
「病気を巻き散らした癖に」
ドアの向こうの息子や友人の冷たい視線や言葉が刺さる。
「あぁ…うあぁぁぁぁぁ!」
レジーや護衛の騎士はその様子を冷めた様子で見て、さっさとその家を出てきた。
家の周りに集まった他の村人は今回の訪問に大変感謝しており頭を深く下げた。
不遜な態度の村人は細々と生きていくことになるだろう。
自業自得だ、今回の遠征の参加者は皆そう思っている。
これ以上こちらが手を貸す必要もない。
マールとレジーの関係は修復されぬままだったが、そのことに胸を痛める者がかなり居た。
それでもレジーにはどうすることもできず、マールの付き添いはルイスが担当している。
騎士も神官も毎日謝罪に来る彼を無視し当面の食料を村長へ託し王都へ帰還するのだった。




