10.聖女は許さなければならないの? ―前編―
遠征2日目。
マールは今日も″スノー・ドロップ″の罹患者で、重度の症状が出ている家々を周り治療を施していく。
けれど、少しでも早くとマールは治療に専念する。
力を使うことに慣れてきたとはいえ、中々の重労働だった。
そんな中―――――。
マールが治療し完治した村人が、約束を守らず外出するという事件が起きた。
配給担当の騎士の静止を振り切り、治療前の息子家族の家へ飛び込んでしまったのだ。
(家族を心配する気持ちはわからなくもないけど)
マールはその自分勝手な行動に怒りの感情を抱いた。
その後、3日間は順調に治療を続けることが出来た…が。
入村して6日目。
それは起こった。
以前治療し回復した村人が次々と再び"スノー・ドロップ"に罹ったというのだ。
(何で!?あと軽症な家が13軒って報告だったハズなのに…)
マールは茫然とした。
レジーに聞けば、3日前に勝手に出歩いた村人が発症したのだという。
更にその村人は知人の家を訪問し、病をばら撒いたというではないか。
マールが怒りで拳を握りしめる。
その手を開き治療しながら、「マール様心中お察しします。ですが、再度治療をお願い致します」と告げる。
レジーに連れられ、件の村人の家へ訪問する。
「おぉ、聖女様。また治療をお願いしますぞ、がはははは」
反省の色のない態度。
更に怒りがこみ上げる。
「反省されていますか?騎士の静止を振り切って病をばら撒いた…と報告を受けました。反省、なさってますか?」
一縷の望みを掛け、マールは村人に問うた。
「反省ですか?がはははは…してますとも。でも、親族や知人を心配する気持ちはわかってもらえるでしょう?」
「その所為で再び病にかかったことは、どうお考えですか?」
「聖女様がいらっしゃるんだから、すぐに治りますからねぇ。安心ですよ、がはははは」
反省の意が見て取れない。
マールは唇を結ぶ。
「治療は致しません」
村人にそう告げた。
「え?」
その場が凍る。
「せ、聖女様…?」
明らかに動揺する村人。
「貴方に反省の意があれば…と思っていました。けれど、貴方からは反省処か、また治療してもらえば良いという自分本位の考えが見て取れました。非常に残念です」
椅子から立ち上がり、その家から出ようとするマール。
「聖女様!治療を、聖女の責務を放棄するのですか!」
自分を非難するような声を荒げる村人を睨む。
「責務の放棄?先に全世帯の治療が完了するまで、外出禁止の義務を違反したのは貴方ではないですか?責務を果たせと言うのなら、貴方も義務を果たすべきでしょう?」
マールの口は止まらない。
「くっ!この…生意気な小娘が!!」
村人が手を上げる。
パァン…と乾いた音が響いた。




