01.聖女誕生ー前編ー
剣と魔法で統治された国、ペ-ル皇国の首都マカロ。
15歳で成人となるこの国では、成人の儀として属性魔法の確認式が行われることが習わしである。
それは昔起きていた大きな戦の名残であった。
その会場となる神殿で…。
「マ、マ-ル・マリエル伯爵令嬢は光属性です!」
マ-ル・マリエル。
マリエル伯爵家令嬢の鑑定結果が出ると共に、周囲ではざわめきが起こる。
先の大戦以来500余年、現れることのなかった属性だからだ。
「光ってことは、伝承の聖女様ってこと?」
「聖女が現れたということは、また戦争でも起きるのか?」
「光の者ということは、この時代は安泰ってことだろ?」
ざわめきの中には不安を感じる者、希望を抱く者、様々だった。
マ-ル自身も自分の鑑定結果が信じられず、早鐘を鳴らす心臓と共に祭壇から降りていく。
ざわざわ…一向に静まらない周囲。
「皆の者、静粛に!」
神官が声を張り上げその場を諌める。
途端に静まり返る神殿内。
″こほんっ″ともっともらしく咳払いし、「次の者は壇上へ」と成人の儀を再会させる。
再びスムーズに進んでいた成人の儀が、神官の声により止まってしまった。
「セリカ・クラレンス公爵令嬢は、全ての属性に適応しています」
「全属性ってバケモノかよ」
「羨ましいを通り越して気味が悪い」
周囲から聞こえてくるのは、貶む言葉ばかりだった。
当のセリカ・クラレンスは″気に留めることでもない″と言わんばかりに祭壇から降りていく。
表情からは感情というものは読み取れはしなかった。
「静粛に!静粛に!」
神官が騒ぐ者を鎮めようと声を荒げる。
しかし、先程とはうって変わり静まる様子は見受けられない。
頭を抱える神官が更に声を張り上げようとした瞬間…。
「次の者、前へ」
凜とした声が室内に響き渡る。
大神官が見かねて声を出したのだ。
それにふと我に返り、神官が「次の者!」と声を出す。
しかし一向にその者が現れない。
「あの、すみません。通してください」
マ-ルの耳にしっかり聞こえた声。
キョロキョロと辺りを見廻すと、雑談をする子息達に道を塞がれ、困っている少女がそこにいた。
何度も繰り返し声を掛けているようだが、雑談に夢中な彼らにその声は届いていないようだ。
神官も苛立ち始めたのが声でわかる。
マ-ルは深く溜息を吐くと、意を決して雑談中の子息達に声を掛けた。
「そこの皆様、後ろの方を通してくださいませんか?」
マ-ルの声はよく通った。
一瞬にしてしんっとする室内。
周囲の目を気にして、その子息達はそそくさを移動しマ-ルはほっと息を吐く。
「これで通れますね」
にこりと笑いマ-ルは少女に儀式を受けに行くよう促す。
少女も少女で、マ-ルに何度もお礼を言い、祭壇に上がっていた。