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③一番より特別・後編

〜シルヴィア視点〜


 ケイの気持ちを探る。


 あとどれだけ頑張れば、ケイが落ちてくれるのか。それをしっかり見極めよう。


 ミクちゃんから教えてもらった作戦を、今こそ使うときだ。


「ねっ、ケイ。ここ入ってみようよ」


 今までは中学生らしく、リーズナブルな店を選んで入っていたが、今度はブランド物を扱う店に入った。


 ブランド物とは言っても、中学生が貰えるお小遣いを必死で貯め込んだらどうにか手が届く値段だ。


 もちろん、いくらパパがボクに甘いからと言って、ここで好き放題強請るほど我儘になるつもりはない。そもそも今日はパパがいないし。


 普段パパが買ってくる服の値段は知らないが、それはそれで忘れよう。


 つまり、このお店に入ったのは冷やかし以外の何物でもないわけだが、目的はミクちゃんの作戦である。


「こういうの、可愛くない?」

「可愛いけど、ちょっと大人っぽすぎない?」


 ケイがやんわりと止める。この辺りの服の相場には気づいているようだ。


 ボクが手に取ったのも、それに準ずる値段をしている。


「ケイ、もしこれが欲しいって言ったらどうする?」


 買うつもりはないが、ここでカマをかけるのがミクちゃんの作戦だ。


 誰がどう見ても、ボクはおねだりをしている。本当に心苦しいけど、ここで反応を見ることが必要なのだ。


 これでもし、ケイが頷くのなら、脈有りというか、あとひと押しで落ちるくらいだという。


 真偽のほどはともかく、指標としては十分な役割を果たすだろう。無論、本当に買わせるつもりなんてない。


「うーん、また別の機会じゃだめかな?」


 若干緊張しながら待ったケイの返答は、困ったような苦笑と共に告げられた。


 手が届くか届かないかのギリギリのラインを攻めた。だから、こんな返答は当然だ。


 まして、今はまだ友達なのだ。友達としては一番でも、誕生日プレゼントにそこまで値の張るものを与えるほどの仲ではない。


 それに、今は持ち合わせがないだけかもしれない。電車賃だって馬鹿にならないのだから。


 そうわかっているけど、少し残念だと思ってしまった。


「ごめんね、シルヴィ。プレゼントしたい気持ちはあるんだけど」

「う、ううん。大丈夫。冗談だから」


 慌てて取り繕う。


 買って貰えないことではなくて、ケイにその意思がないことに残念がっている。そう言えれば良いのだが、それでは好意丸出しだ。


 ボクはケイと対等にお付き合いがしたい。ボクの好きを押し付けるばかりじゃだめなのだ。


 だからこそ、ケイを落とす。


 そのために、もう少し観察する必要がある。


 今の一幕でケイが渋ったことから、まだこの間の告白の結果は推測できない場面にある。


 ミクちゃんによれば、そのときの女の子は恋愛について口が固く、結果を聞き出せなかったという。


 だから、今日ボクが聞き出さなければならない。


 もしケイが付き合い始めたと言うなら、強硬手段に出る必要もあるだろう。具体的には、色仕掛け、とか。


「シルヴィ?」

「はぅ!?」


 想像しかけたところでケイに声をかけられて、変な叫びが出た。恥ずかしい。


「顔が赤いけど、大丈夫?」

「あ、えーっと」


 ちゃんとボクを見てくれている。と嬉しくなるのは一先ず置いておいて、丁度いい。腰を落ち着けて話を聞きたいと思っていたところだ。


「ちょっと歩き疲れたね」

「あぁ、うん。そうだね。どこかで休憩しようか」


 話術に自信なんてないけど、気取られないように必要な情報を聞き出そう。






〜慶太郎視点〜


 今日。正確にはさっき、ブランド物を扱う店に入ったときから、シルヴィの様子がおかしい。


 欲しいって言ったらどうする、なんて、気遣いのできるシルヴィが言うはずはない。


 俺に強請ってまで欲しい物なのだろうか。それにしたって、強請るなら初めにパパさんへ行くのが妥当なところだろう。


 情けない話、俺の懐事情はあまりよろしくない。


 どうにか工面すれば出せない額ではないが、それをすると翌年のシルヴィが物凄く気を使うだろう。恐らく、パパさんにも気を使わせることになる。


 正直、今までシルヴィから貰ったものを考えれば、そのくらいの無理は押し通すことも考えた。


 しかし、どうにも引っかかる。シルヴィの意思そのものではないような、そんな感じだ。


 まさか誰かに集られているなんてことはないだろうが、あまり様子が変なら、パパさんにも報告しなければならないだろう。


 真相を探るため、テイクアウトのドリンクを頼んで、ベンチで隣合って腰を落ち着けた。


「ふぅ」


 抹茶ラテを一口飲んだシルヴィがホッと息をつく。おかしなところはない。


 引き続きシルヴィの様子を見つつ、俺もアイスコーヒーを一口。


「ケイって、胸の大きい方が好き?」

「んっ!?」


 唐突すぎる問に噎せた。


 随分と答えづらい質問だが、それをしたシルヴィの方も少し気まずそうにしている。


「どうして急にそんなことを?」

「え? えーっと、男の子って、やっぱりそうなのかなって」


 そんな単純な好奇心が羞恥心を押し切ることはないと思う。


 失礼だが、シルヴィは少しその辺りの生育が遅い。


 今日はシルエットの大きい服を着ているから誰も何も思わないだろうが、普段気崩さない制服で女子グループにいるところを見ると、否が応でもわかってしまう。


 そこをシルヴィ自身が気にしているのか、他の子に何か言われたのかはわからない。


 とはいえ、恥を忍んで聞いてくれたのだ。答えは返すべきだろう。


「一般的な男子はそうかもね」

「そう、なの?」

「でも、それも高校生くらいまでだと思うよ。胸だけで人を好きになるなんて有り得ないしね」


 少し偉そうな喋り方で、皆が皆そうだと言い切ることなどできるはずもないが、間違ったことは言っていないと思う。


「け、ケイはどうなの?」


 ありきたりとも言える回答で難を逃れたつもりだったが、シルヴィが知りたいのは俺の意見らしい。


 男という括りの中の俺なのか、俺個人なのかはわからないが。


「僕は胸でどうこうなんて思わないよ」

「ほんとに?」

「本当だよ。人それぞれだと思うし。強いて言うなら、その強みを活かしてる人が魅力的なんじゃない?」


 だから悩まず、自分を活かせばいいと言外に告げたのだが、果たして伝わったのだろうか。


「そっか。なるほどね」


 納得して頷いているし、大丈夫だろう。


「じゃあ、物静かな子って好き?」


 と思えば、立て続けにそんな質問が来た。


「答える前に。シルヴィ、どういうつもり?」

「えっ?」

「ちょっと変だよ。何か悩みとかあるなら、言ってほしい」


 真面目に言うと、シルヴィは困ったように抹茶ラテを口に含んだ。


 そして、あからさまに表情を作って、いかにも何ともないという風に喋り始めた。


「実はね、これ全部心理テストで、ケイの性格とかがわかるんだよ」


 嘘をつくのが下手だ。明らかに視線を逸らしているし、声の抑揚がなさすぎる。


「シルヴィ、僕には言えないこと?」

「えっ、あーっと」

「僕はシルヴィのためなら、いくらでも力を貸すよ」


 心配のしすぎかもしれない。シルヴィは俺の手を離れてからも、ずっと上手くやってきた。


 ただ、こうあからさまに様子がおかしいと、勘ぐってしまうのも無理ないだろう。俺はシルヴィの親友でありたいと思っているのだから。


「も、もう。そんな顔されたら誤魔化せないよ」


 ぽっと頬を染め、照れ笑うシルヴィ。どうやら、俺の心配は杞憂だったようだ。


「この間、校舎裏でケイと会ったでしょ?」

「うん」

「告白っぽかったから、どうなったかなって、気になって」


 告白だとわかっていたのなら、話しかけてくるべきではなかったろうに。


 そんなことは、多分シルヴィだって分かっているだろうから、あまりしつこく言うものではないか。


「それで、ちょっと遠回しに確認してたんだよ」

「なるほどね」


 シルヴィだって年頃だ。野次馬は感心しないが、それなりに親しい俺の関係に興味を持つのも納得できる。


 もしかしたら、二人で出かけようと誘ったのも、最初からそれを確認したかったのかもしれない。


「それで、告白だったの?」

「うん、まあね」


 あの子とは去年、体育祭の係で一緒だった。


 俺は一昨年もその係で経験があったから、年下に色々世話を焼いていたというだけなのだが、それを好意的に思ってくれたらしい。


「オッケー、したの?」

「いいや。お互いよく知らない同士だし、僕は受験もあるからね」


 告白をしようという気概には脱帽だが、パパさんの教材と並行して受験勉強をしなければならない以上、あまり構っていられない。


「そっか」


 てっきりつまらなさそうにするかと思ったが、シルヴィは安心したというように背もたれに背中を預け、抹茶ラテを口に運ぶ。


 もし付き合っていたら浮気現場と言われても反論できないわけだから、安堵する気持ちもわからないではない。


「逆に、シルヴィは好きな人とかいるの?」


 思えば、これまで飽きるくらいに話をしてきたが、シルヴィと恋バナらしきものをした覚えはない。


 せっかくそういう流れになったのだからと、話を振ってみたのだが、シルヴィは驚いたような顔をして俺を見る。


「シルヴィ?」

「いや、あの。ケイがそういうのに興味あるって思わなかったから」

「僕だって興味くらいはあるよ」


 特にシルヴィのは。


 何せ、シルヴィは俺の大切な友達だ。その相手がどんな輩か確かめなければならない。


 パパさんもきっとそう言うだろう。もはやシルヴィのことに関して親バカ気味であることは否定しない。


「それで、好きな人いるの?」


 改めて問い直すと、シルヴィは口をぱくぱくとさせて、言うか言うまいか迷っているようだった。


 その反応から、いるらしいことはわかる。できれば誰かまで聞き出したいが、難しいだろう。


「そ、そう言うケイはどうなのっ?」


 予想通り、逃げるように話題転換をした。


「僕は半分くらいかな」

「なにそれ」


 我ながらよく分からない回答だが、いるともいないとも自信を持って言えないところだ。


 好きな人というならシルヴィだが、はたして恋人になりたいかと言うと、首を傾げざるを得ない。


 それに、こうして誘ってはくれたものの、今まで距離を置かれていたのだ。それが周りから誤解されないためだとすれば、脈ナシに近い。


「じゃあボクも半分ってことにする」


 ヤケっぽく言って、シルヴィは抹茶ラテの残りを呷る。と思ったが、既に飲みきっていたようだ。


「シルヴィ、僕の飲む?」


 あと一口くらいは残っているからと思って、ストロー付きのカップを差し出した。


 シルヴィは、それにたじろぐ。


 つい普通に差し出してしまったが、シルヴィには好きな人がいるのだった。俺なんかとは間接でもキスなんてしたくないだろう。


「い、いただきます」


 なんて思う間に、シルヴィは体を傾けて、俺の咥えていたストローに口をつけた。


「うっ」

「シルヴィ?」

「にがーい」


 シルヴィがべっと舌を出す。氷で薄まっているはずなのだが、ブラックはブラック。シルヴィの好みからは外れている。


「ケイ、よくこんなの飲めるね」


 軽く咳き込んだりしながら、そのままの体勢で見上げてくるシルヴィ。


「あの、シルヴィ。強みを活かせとは言ったけど」


 シルヴィの着ているパーカーは、ゆったりとした作りになっている。前屈みになったりすれば、若干の隙間ができるわけだ。


 そして、それを着るシルヴィ。言い方は悪いがぺったんこである。


 ドキリとする鎖骨のラインからサッと目をそらすと、シルヴィも気づいたようだった。


「ケイのえっち」


 シルヴィは頬を赤らめてバッと身を起こす。


 これで不興を買うのは理不尽だ。






〜シルヴィア視点〜


 途中色々とハプニングはあったけど、とりあえず知りたい情報はある程度揃った。


 ケイは現状フリー。まず一安心だ。


 それから、ケイの好感度について。


 好感度は、友達としては悪くない。悪くないどころか最高値と言えるだろう。


 しかし残念ながら、惚れているという感じではない。


 とはいえ、意図したものではないにせよ、色仕掛けが効いたのだから、一応異性としては見てもらえているのだろう。


 あとは、友達としての親愛パラメータを恋愛パラメータへと移植することができれば、ボクの望む形で、ボクと付き合ってくれるだろう。


 それが一番難しいと言えばそうだが、頑張るしかない。

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