異世界転生エージェントdude(デュード)です
「死亡動機は何ですか?」
「え?」
「死亡動機は何でしょうか?」
「俺が自殺した理由ですか?えーと、誰かの歯車になってまで生きる意味がわからなくて。」
「なるほど、職種変更をご希望ですね!」
「はあ?」
俺の担当者らしき人が資料を漁り出した。
「ちょっと待って下さい、ここって何ですか?死んだ人がいくハロワみたいなところですか?」
「あの、お客様。ウチをハローワールドと一緒にされては困ります…ウチは異世界転生エージェント、dudeです。」
「ハローワークじゃなくてハローワールドか。」
「はい、ちゃんとお客様の適正を考えた転生を紹介します。お客様のステータスは…」
・魔法耐性 ★
・パワハラ耐性 ★★★
・ベンゾ耐性 ★★★★★
「お、ベンゾ耐性がかなりありますね。」
「そうなんです。もうベンゾジアゼピン無しでは眠れなくて。」
「良いですね、応募のときはそこをアピールしていきましょう!」
「はあ?」
エージェントはまた資料を漁りだした。
「あ、この転生とかどうですか?」
なになに、剣と魔法の世界?
「ちょっといいかもしれない。」
「ポジションは奴隷で良かったですか?」
「いや駄目でしょ、現世より悪くなってる。」
「でも奴隷であればあなたの現世と近いですし、ご経験も活かせるかと…」
「それ以上は言わないでください。」
「え、でも人月単価は今より上がりますよ?」
「えっ人月とかあるんですか?嫌だなあ。しかも今まで奴隷よりも低い人月で働いてたなんて事実がもっと嫌だ。」
「まあこちらは外資系なので。」
「えっ外資系なんですかこの星。」
「はい。」
「うーん、でも嫌です。職種が気に食わない。」
「はあ、そうですか…わかりました。」
エージェントが次の資料を差し出す。
「ではこちらはどうですか?」
こっちも剣と魔法の世界か。まあいいかもしれない。
「ちょっと興味ある。」
「おお、良いですね。こちらだと花形のポジションですし、何回クビになってもやり直せるので安心ですね!」
「ちょっとまって。何回もクビになれる?どういうこと?まずクビって何?」
「死ですね。」
「何回も死ぬってこと?」
「まあそんなところですね。魔女が何回もやり直させてくれるそうです。」
「ちょっと待ってそれ知ってる。やめとくわ。」
「でもこちらの求人は花形職業の割に倍率低いですし、カルマのロンダリングに最適ですよ。」
「やっぱり倍率低いんじゃないか。ナシナシ」
「はあ…そうですか。わかりました。」
エージェントは残念そうに次の資料を差し出した。
「これなんかどうですか?今かなり人気で倍率高いですけど。」
ふむ。大正時代の日本のようなカルチャーです。家族愛や兄弟愛を感じられるアットホームな世界です。鬼もいます。
「へえ、ちょっと変わった世界ですね。」
「えっ大人気なのに知らないんですか?この機に是非応募してみては?」
「まあ、エージェントさんがそう言うなら…」
ん?ポジション欄に書いてある"十二鬼月として一生を過ごして貰います"ってなんだコレ。
まず十二鬼月って何だ。
鬼を12ヶ月間稼働させるということ?
それとも人を鬼のように12ヶ月間稼働させるってこと?
どちらにしても12ヶ月間の報酬で一生過ごせってことか?
ヤバすぎるでしょ!
「ごめんなさい、こちらもナシで。」
「えぇ?!これ以上良い転生ありませんよ?人気ですし。」
「いや、俺には無理なので…」
「はあ…そうですか。(あっこれ釣り求人なのに間違えて勧めちゃった。断ってくれて良かったあ)」
何故か今回はエージェントが残念そうじゃない。
そしてまた資料を差し出した。
「そうなるともうこういったタイプの転生しかありませんね。」
えーと、転生後に他の世界に召喚します。そしてそこに常駐してもらいます、か。
「なんかこういうの見たことあるぞ。嫌な感じするなあ。転生したと思ったらそこで暮らすんじゃなくてまた他の世界に売られるってことでしょ。人売り業ってこんなとこにもあるのな。」
「仕方ないですよ。お客様は魔法も使えないですし、正規の転生でロースキル案件って中々無いんですよ。」
「はあ…もう嫌だ、輪廻から逃れたい。」
「釈迦でも苦労しましたよ。」
★
結局俺は最後の常駐型を選んだ。
最初に派遣元の星に転生。営業さんに出会った。
この営業さんがやり手で、運良く次の派遣先の星が決まった。しかも勇者として召喚されることになった。
こんなこともあるんだな。
召喚前に俺のステータスをもう一度確認…
・魔法耐性 ★
・パワハラ耐性 ★★★
・ベンゾ耐性 ★★★★★
・電撃 ★★★★★★
なんだ?電撃?こんなの無かったぞ。
「あのー、営業さん。俺電撃なんか出来ないんですけど。」
「あーハイハイ、コレ持って。」
なにかを渡された。
「スタンガン?!」
「これでいけるでしょ。」
「いやこれステータス詐称でしょ。」
「君ねえ、君がロースキル案件嫌だって言うからちょっと盛っただけでしょ。元のステータスのままで召喚先見つかると思ってんの?甘いよ。もう引き返せないよ。君を売り込むの苦労したんだから。」
「いやいや、電撃タイプの魔法使いですっつってスタンガン持った凡人送り込むとかヤバいでしょ。人売るってレベルじゃねーぞ!」
営業は無視して召喚の準備を始めている。
「ねえちょっと待ってくださいよ。魔王にスタンガン持って突っ込むとか勇者でしょ!」
「そうだよ勇者だよ。」
そう言って俺は次の世界に飛ばされた。
電撃タイプの魔法使いとして召喚されました〜実はスタンガン持った凡人だけど