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アンファミリア  作者: 童子ん氏
7/12

いい湯

知らない人から電話かかってきて怖いので初投稿です。

 ソシャゲのお気に入り機能という物を知っているだろうか?


 いくつもあるソシャゲの中にはお気に入りのキャラを選択することで自分の副官・相棒・秘書のようにすることができ、それを設定するとゲームのホーム画面に選択したキャラが現れ、タッチをすることでキャラが反応してくれるというものがある。

 

 その中でタッチした部分によって反応が違ったりするものがある。


 その部位は胸などだ。


 そこをタッチをし、好感度などがあれば下がったり、好感度によっては反応が違ったりするものがある。


 男がやっていたゲームではキャラをタッチすることができ、初めの1回目はかなり緊張したがなんとなくどんな反応するのかな?などと考えながらタッチすることがあった。


 それもゲームならではだろう。実際に触ろうとは思わないのだから。


 だがしかし!ここでは男の行動全てが反映されていた。


 ならばタッチしたこともそのまま反映されていたとしてもおかしくはなかった。


♢♢♢


 「は〜〜〜〜〜〜終わった・・・完全にやったわ、もうゴミ箱に捨てられて焼却炉で燃やされて地獄の閻魔にお前は問答無用で微生物からやり直し!とか言われても文句言えないわ・・・」


 男は部屋の隅に体育座りしながら、完全に意気消沈していた。


 先ほどまで男は基地にいるものに対しパーフェクトなまでの土下座を行っていた。


 あまりの激しさで額が裂けて血がいまだに出ている。その血は顔を真っ赤に濡らし、さらには服を濡らし、知らぬものが見たら大怪我を負ったと思ってもおかしくないほどであった。


 「まぁ、いいではないですか」


 そういうのはミリアスである。


 彼女は濡らしたタオルを持っていくと男に渡す。


 「全て未遂で終わっていたのですから」


 そうなのである。彼女が言った通り男が行っていた胸への接触行為などは事前にグーパンで殴られるかあしらわれるなどされ、本当に触ったことにはなっていなかったのである。


 「いや、いいっすよ。もう。」


 男はそれでも立ち直ることができない。


 ほぼ全員の胸を触ろうとしていたのだから側から見ればただの変態野郎である。


 「もう彼女たちに合わせる顔がないっす」


 ハハッと乾いた笑い声を出しながら床を見てシミでも数えようとしたが床は真っ白な埃一つない綺麗なものであった。


 「いや、もうほんとこのゴミどっかに捨てた方がいいですよ、ほらこんなんいても皆さんの邪魔になるだけですって。早く軍本部に行ったほうがいいですよ。このセクハラ野郎をとっとと変えてくれって」


 その姿をみてミリアスはどうしたものかと考えるとあることを思いつく。


 「そうです指揮官様、こちらの写真をご覧くださいな」


 そう言うとミリアスは近くにある本棚からアルバムを一冊取り出す。


 「これなんですか?」


 「こちらは指揮官様がここにきてから、つまりこの基地が出来てから記録されている物です」


 そう言うと彼女はペラペラとページを捲る。


 そこにはこの基地の者たちの沢山の笑顔が写っていた。


 「なんかこんな大変なはずなのにみんな元気っすね」


 あのような戦いが行われていたのにもかかわらず皆元気そうにしていた。


 イベントごともやっていたようで海に行ったり山に行ったり、ハロウィンやクリスマスなどの時の写真もあった。


 「これは、指揮官様によるものなのですよ」


 そう言うとミリアスは写真一枚一枚を見て懐かしむように微笑む。


 「私たちは戦う兵器です。ですがそんな私たちに無理言っていろんなことをさせてくれたのは指揮官様です。本来こんなこと必要ないのですがね。指揮官様は多くのことを経験させてくださいました。そんな指揮官様を私たちが嫌いになることなどありませんよ。ここまで私達のことを思ってくださったのですから」


 彼女は笑っていた。それは男を安心させるような魔法があるかのように男を立ち直らせる。


 「フッ・・・」


 男は立ち上上がる。そして・・・


 「でもそれゲームをやってた俺がやったわけじゃないっすよ」


 そう言った。


 ミリアスはうっと言うと少し気まずそうにする。

 

 クリスマスなどの行事はゲームでのイベントのことだろう。


 それを男はただプレイしていただけでこちらでそれがどう動いたのかは知らない。


 ミリアスは複雑な表情をする。


 それに対して男は笑いかける。


 「あははは、すいません。冗談っすよ」


 男はそう言うとミリアスに対し頭を下げる。


 「すいません、私を元気づけようとしてくれたんすよね。ありがとうございます」


 そう言うと男はミリアスの顔を真っ直ぐみる。


 「そうですか、もう大丈夫そうですね」


 そう言うとミリアスはアルバムをしまう。


 「私はそろそろお風呂に入ってきますので。指揮官様、今日はお疲れ様でした。」


 「あ、ああ、お疲れ様です」


 そう言うとミリアスは部屋を出る。


 ドアが閉まり部屋は静かになる。


 「よし!俺も風呂入るか!」


 そう言うとミリアスが事前に用意してくれたタオルを持ち箪笥にしまってあった着替を持って風呂場に行った。


♢♢♢


 「ミリアスじゃないか」


 ミリアスは風呂場に着くと思わぬ人物と会う。


 「あら、扇さんではありませんか」


 「私もいますよ」


 扇の奥からもう一人の女性が顔を出す。扇より少し小さい背で短い髪の女性だった。


 「あら、両神さんまでこんな時間にどうしたのですか?」


 普段彼女達が入る時間はもっと前なのでこの時間に入るのは先ほどまで残っていた自分だけだとミリアスは思っていた。


 「いや、扇がねー」


 「お、おい、両!」


 両神はいたずらっぽい顔をするとそれを止めようとする扇。


 「指揮官に変にプレッシャー与えすぎちゃったかさっきまでかなり心配してたのよー」


 両神はそう言うとフフフと笑う。


 「い、言うな両。確かにいきなり荷が重い話ではあるがそういうこともあると言っておかねばならないのであって指揮官として最低限覚悟を持ってもらわねば・・・」


 扇は顔を赤くすると弁解をする。


 それを面白がりながら両神はミリアスに視線を移す。


 「はいはい、分かりましたよ。そういえばさっきまで指揮官のところに行っていたのでしょう?」


 「はいそうですが?」


 「指揮官大丈夫そう?」


 彼女は指揮官について聞く。


 何しろあそこまでの土下座をして、終わりには干からびたようになっていたため、気になっていた。


 「ええ、大丈夫ですよ、先ほどのことは」


 「と言うことは何かあるのね」


 「なんだ?どういうことだ?」


 二人はミリアスに近づく。


 「そうですね、こればかりは時間が必要ですね」


 ミリアスはそう言うと少し暗い顔をする。


 「あー、なるほどね。そうね、そればかりは私たちではどうしようもないわね」


 「こればかりは力になれそうにないな」


 二人は腕を組みながら目を瞑る。


 「仕方ありませんいきなりのことです。まだ心の整理なんて出来てないでしょう」


 「大丈夫かしら」


 「私たちの指揮官だ、大丈夫な筈だ」


 「そうですね、私たちは私たちの出来ることを考えましょう」

 

 そう言うと3人は指揮官室があるであろう方角を見つめた。


♢♢♢

 

 指揮官室の近くに男湯はあった。


 「おひょーでけー!」


 当然男は彼だけなので一人用なのだが、かなり大きい風呂だった。


 「〜♪〜〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら服を脱ぎ裸になる。タオルを肩に掛けステップを踏みながら風呂場に向かう。


 男は大の風呂好きであった。


 風呂場に入るとまずは体を洗い、そして全身を洗うと風呂に入る。


 一人で入るには十分すぎる広さの風呂の角になんとなく行きそこに座る。


 かなり熱めの風呂から上がる湯気を見ながら誰もいない時間を過ごす。


 「俺一人かー、そういやここまで長く一人でいるのはここに来てから初めてかもな」


 男はそんなことを考えながら肩まで浸かる。


 ここにきてから初めての一人でいる時間、誰も見ておらず、分厚いガラスの奥にある月だけが彼を見ていた。

 

 まんまるのお月様は優しい光を放ち、その丸さは目のようにも見える。


 そうして風呂に浸かり緊張を解く。いや、解いてしまった。


 ぽたぽたと男の顔から水滴が垂れ、風呂に小さな波紋を作る。


 男は今日あったことを振り返る。


 「あーあ、こんなことになっちゃってどうすりゃいんだよ」


 起きたらゲームのような世界、そこでの戦闘、自分がやってしまったであろうこと、次に思い浮かんだのは元いた世界のこと。


 「あーあ、こんなとこに来ちゃってさー、まだ読んでた漫画や小説、クリアしてないゲームもあったのになー」


 男は窓越しに光る月を見る。湯気のせいだろうか、少しぼやけて見えた。


 「あーあ、友達もみんないなくなっちまったなー、また1から友達作りかよ、無理があるなーこれ」


 「あーあ、松村、鈴木何してんのかなー。俺がいなくなったらどう思うだろう?悲しんでくれるのかな」


 男は元の世界にいた友達の事を思い出す。


 「あーあ、親にも何も言ってあげられなかったなー。孝行もできなかったし。恨んでたりしてなー」


 男は自分の父親母親のことを思い出す。とても優しく、自分も反抗期など一切なかった。


 「あーあ、母さんの飯が食いてえなー」


 夕食はこの基地の調理担当が作っていた。優しい味であったかく美味しい。


 そんなものだからつい母親の味を思い出す。


 夜空に出てる月は徐々に雲に覆われていく。


 「もう何もできなくなっちまったんだよなー」


 そして月が雲に全て隠れる。


 風呂場には電気がついており常に明るい。月という光源が無くなっただけでは特に問題がないであろう。


 だがそんな月の光が無くなってしまうのは妙に寂しく。男のことを見ているのは本当に誰もいなくなってしまった。


 「ああ」


 ぽたぽたと先ほどよりも多く水滴が垂れ落ちる。


 「あああああああああああああああああああああああ!」


 男は叫ぶと手で顔を覆う。


 風呂に落ちる水滴は一向に収まりそうにない。


 「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょぉぉぉぉぉぉ!」


 「俺は!俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 いろんなことがありすぎて感情が追いついて行けなかったが、緊張が解けたことで今まで止まっていた彼の心の想いが溢れ出る。


 「ぐぞぉぉぉぉぉ!何でこんな世界に来ちまったんだよぉぉぉぉぉぉ!」


 「帰りてぇ、帰りてぇよぉぉぉ!」


 「ああああああああああぁぁぁ・・・!」


 低く唸るような声が風呂場に木霊する。


 「寂しい、寂しいよぉ・・・」


 男の声は誰かに縋るかのように弱々しくなる。


 だが誰もいない。男のことを見ているものは誰もいないのであった。


 夜の空に男の虚しき声が響いていた。

こえ

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