壁にも障子にもドアにも耳あり
書いてたらなんか時間が過ぎてるので初投稿です。
「なるほどそんなことが・・・」
男が話したことに対しミリアスは手を顎に当てながら何か考えるように目を瞑る。
「あのー、信じていただけますでしょうか?」
男は恐る恐る反応を伺う。
「やっぱり無理っすよね、すいませんでした」
「いえ、そうではないのです」
ミリアスは何回か自分の中で頷くと、納得したのか目を開け男を真っ直ぐ見る。
「・・・」
男はいきなり見つめられてどうしていいかわからず目を泳がせる。
(それにしてもすげぇなやっぱり、なんかこうなんて言えばいいのかわからないんだけどこう、そのー、あのー・・・綺麗だ)
ミリアス長く白い髪に整った顔、服越しからでも分かるスタイルの良さなど、どこをとっても完璧と言っていいものだった。
(一体あの腕でどうやってあんな重いもの持てたんだろう)
男は初めに起こされた時に使われた銃のようなものを思い出す。
彼女の腕は細く綺麗で男にはとても力があるとは思えなかった。
「指揮官様?」
何も話さなくなった男を心配し、ミリアスは顔を近づける。
「え?ああ、すいませんなんでもないです」
男は咄嗟に顔を引く。
「ですが大体のことは分かりました」
ミリアスは一息つくと話を続ける。
「貴方は指揮官様であって指揮官様ではないと言うことですね?」
ミリアスは男に確認するように尋ねる。
「そうですね、自分はただの大学生ですしあなた方の事はゲームの中の存在と思ってましたからね」
男は腕を組んで考えるような仕草をする。
「なるほど。ですが貴方のゲームでの名前がこちらの世界の名前になっていると」
「そうですね、複雑な、大変複雑な気持ちなのですが」
男は少し泣きそうな顔をする。
「そうですか、先程見ていただいた我々の今の練度と装備、今の戦況ですが貴方様のやっていたゲームの内容と合っていますか?」
そう言われて男は先程ミリアスから渡された書類を渡す。
「そうですね、細かい部分までは覚えていませんが編成や練度、装備品などは大体合っていると思いますね」
ミリアスはそうですか、と言うと戻された書類をしまう。
「私の考えですが我々を指揮していたのはそちらの世界にいた貴方なのではないかと考えております」
「え、そうなんですか?」
「はい、私は指揮官の顔を見たことがなかったのです」
そう言われて男は首を傾げる。
「見たことが無い、ですか?」
男はそう聞き返すとミリアスは頷く。
「はい、今は貴方様の顔ははっきりと見えていますが貴方様を起こしに行く前までは指揮官様の顔を見ることができなかったのです」
「それは疑問に思わなかったのですか?」
男は質問をする。だがミリアスは首を横に振り否定する。
「思ったことなどありませんでした。今思うとなぜなのだか分かりませんが」
ミリアスはそう言うと胸に手を当てる。
「それと、私の心が貴方様は指揮官様だと言っているのです」
いきなりそう言われ男は困惑するが、はぁ・・・と相槌を打つ。
「それに今の貴方様を見ても初めて会ったような気はしないのです」
クスッと笑いながら言うミリアスの目は嘘を言っているようには見えなかった。
「正直どうなのかは分かりませんが貴方様は貴方様の世界からゲームを通じてこちらの世界の我々を指揮していたのだと考えています」
「そんなことが可能なんですか?自分がやってた時間とこっちの時間は合わないのでは?」
男は疑問を口にする。
彼はほぼログイン勢だったため長くやっていても5分程度であり彼の動きが反映されているのならこちらの世界での彼が指揮する時間も5分程度だと言うことになる。
「そのことなのですが貴方様のゲームの話を聞く限り一度の戦闘に1分もかかっていないとか」
男は頷く。男がやっていたラストラインでは出撃するとマップ上に敵部隊と味方部隊が現れ、敵部隊を倒しながらクリア条件を満たしていくというものだった。
「やはり。そうだとしたら貴方様がやっていたゲームでは準備や部隊の配置時間、戦闘時間まで貴方様が操作しない時間を削いでいた可能性がありますね」
男はどういうことか分からず首を傾げる。
「つまりは指揮官様には一出撃五分ほどの時間でも私たちにとってはその一出撃で数時間、もしくは数十時間かかっているという事です」
「なるほど・・・」
「あくまで私の推測ですが、指揮官様の話が本当ならそのような事もあるのかもしれません」
自分のあれだけの話でよくここまで考えられると男は思う。
「自分で言うのもなんですがよくもこうあり得ない話を信じられますね。頭おかしいとか思わないんですか?」
男はそう言いながら頬をかく。自分がもしこんな話を振られたら頭の心配をするか、精神科を進めているだろう。
「いえ、指揮官様の頭がおかしいのは前から知っていますが?」
「あれ?あれあれあれ?やっぱり俺やばい人だと思われてます?これ」
ミリアスは男の反応を見てクスクスと笑う。
「冗談です、指揮官様。指揮官様の話しは信じてますし、そうでなければここまで聞いていませんよ」
「そ、そうっすよね!あ、あはははははは!」
男は一瞬心配そうな顔をするがすぐ元に戻る。
ミリアスはそれにと続けると窓を見る。
「こんな世の中なら何が起こっても不思議ではありませんから」
「あー、そうっすね」
男も窓を見る。窓から見える外の景色に映るのは腰のあたりに羽のようなものをつけた者たちが空を自由に飛んで、地上では重い火器のようなものを持った者が高速で動いていた。中には何もなしで飛んでいる者もいる。これを見ると確かになんでもありそうな気がしてしまう。
「今はこの事は周りには言わない方がいいでしょう。このようなことを言われても周りが混乱するのは確実です」
ミリアスは再び男に向き直るとこれからのことを話し始める。
「そうですね、やはり指揮官が今までの指揮官では無なく指揮能力もないとは不信感につながりますからね」
今までの指揮官とは違う指揮官だが同じ指揮官だというのはややこしく、男は指揮なんてした事がないためそんなことを聞いてしまえば周りから信用される事は厳しいところだった。
「とりあえず今は指揮官様の問題の解決を急いだほうがいいですね。この事がバレたら捨てられるか殺されてしまうかもしれませんよ?」
「そうですね、素人が指揮とってますなんてあまりに酷いですからね。とにかくこの事はどうか内密にしてい・・・」
そう言おうとするとドアの方に人影が見えた。
「・・・これ聞かれてますかね」
「聞かれてますね」
男はドアに近づくと一気に開ける。
いきなり開いたドアにポニーテールの少女は驚くがすぐに走り去っていく。
「今の誰ですか?」
少女の走り去った方向を見ながら男はその逃げ足の速さに呆然とする。
「今のは広報を担当している凛城ですね」
それに対して冷静に答えるミリアス。
「広報ですか」
「はい、広報とこの基地で起きたことを新聞にしています。基地内の出来事は基本彼女に聞けば何があったか分かりますね」
それに対しても冷静に答えるミリアス。
「これまずいですか?」
「まずいですね」
「うおぉぉぉ!まってぇぇぇ!」
男は鬼気迫る表情で彼女が逃げた方向に走り出す。
「号外です!号外ですー!」
外では凛城がすでに出来た新聞を周りの者に配っていた。
「なんとぉぉぉぉぉぉ!もう出来てるのかよぉ!」
その新聞はどんどん手に取られて行く。もう彼の事は基地中に知れ渡ってしまったと言っていいだろう。
「あっ終わった」
男はこれからのことを思いながらそのまま倒れる。
それを追いついたミリアスは男が倒れ切る前に優しく抱き抱える。
男が倒れるのは本日2度目であった。
最近金プレのテーマパークが過ぎます。銀メッキの自分には厳しい世界です。