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◆第一章◆ 流浪の女(3)

「エレナ姉ちゃーん。こんにちは!」

 いつもと変わらぬ快活な声と共にドアが開く。

「ふふ、いらっしゃい。今日も元気ね。ケント」

 カウンター越しにそう答えながら、これまたいつもと同じように一人店番をしていたエレナが立ち上がる。

 やってきたのは、いつもと同じ時間。いつもと同じ顔ぶれの子供たちだ。

 エレナは後ろの本棚へと向きなおり、収められた背表紙の列に視線を巡らせる。

 その間にも背後では子供たちが足音を響かせ、カウンターの前を通り過ぎて隣に広がるラウンジへと入っていく。

 やがてエレナは一冊の本を抜き取ると、落ち着いた足取りでカウンターを後にする。

 …………

 ラウンジに入ると、一斉に子供たちの視線がエレナに集まった。

 小柄な身を包んでいるのは、白いブラウスに派手すぎない色味のコットンスカート。

 艶やかな栗色のロングヘアーに 穏やかに微笑みを浮かべた柔和な顔立ち。

 誰もが清楚で、清廉そうな印象を受けるであろう、慎ましやかで可愛らしい女性だ。

「お姉ちゃん、はやくはやくー」

 エレナを待ちわびた様子で、一人の少女が声をあげる。

「はいはい、慌てないでセリア。それじゃあみんな、座りましょ」

 …………

 丸テーブルの一つに椅子を持ち寄って、エレナと六人の子供たちが輪になって座る。

「あっ! ずるーいジョージ! 今日はあたしがお姉ちゃんの隣の番でしょ!」

「へへーん、のろまなセリアがわるいんだよー」

「ぼ……ぼくが代わろうか? セリア」

「……カイは、いつもセリアにやさしいよね、どうして?」

「ちょっと、だ……だめだよリオ、わかるでしょ……?」

「え? なになに? マリカ、何か知ってるの?」

「も……もう、ケントまで……」

「あー! わかった! カイはー!」

「ちっ、ちがうってば! やっ……やめてよジョージ!」

 ついさっきまで静寂に包まれていたラウンジが急に騒々しくなる。

「ほらほら、みんなケンカはしないって約束でしょ。静かにしないと……お話してあげないわよ?」

 エレナは少し悪戯顔になって子供たちの顔を見る。

 途端に静かになった。そんな様子にエレナはくすりと笑う。

「お姉ちゃん、今日はどんなお話?」

「今日はこの街の――オリーブの木のお話よ」

 そう言ってエレナはページを開く。

 …………


 それはそれは、遥か昔。

 まだ世界に九つの国があったころ。

 国同士はとても仲が良く、人々は平和に暮らしていました。


 そんなある日のこと。

 突然、天から魔女が現れたのです。

 魔女は人間を石に変えてしまう、とても強く恐ろしい力を持っていました。


 九つの国は協力して、魔女と戦いました。

 戦いは激しく、何年も続き、たくさんの人が犠牲となりました。

 それでも人々は諦めず、ついに魔女を倒すことに成功したのです。


 魔女はいなくなり、魔女の杖だけが残されました。

 世界中の学者は魔女の杖を研究して、たくさんの便利な道具を生み出しました。

 魔女との戦いは、大変なものでしたが、人々はさらに豊かで幸せな生活を手に入れたのです。

 人々は再び平和な世の中が続くのだと、信じました。


 ところが、魔女の杖の力を自分の為だけに使おうと思うものが現れました。

 いくつかの国の王や、権力者たちです。

 彼らは杖の力を使い、永遠に朽ちることのない身体と、強い力を手に入れました。


 やがて――強大な力を得た彼らは互いに争いを始めます。

 自分が世界で一番優れた、神に等しい存在になろうと思ったのです。

 彼らは自分の意のままに動く兵隊を造り、戦争を始めました。


 世界のあちこちで戦いが繰り返され、三回の大きな戦争が起こりました。

 わずかに残されていた人々は国を捨て、苦しい日々を過ごすしかありませんでした。

 そんなとき――救世主が現れたのです。


 …………

 朗読をするエレナが一息ついたその時。

 ――ばんっ!

 唐突に強い音が室内に響きわたる。

 びくり、と思わず身体を震わせてエレナが振り返ると、開いたドアの逆光の中に浮かぶ人影が目に入った。

「この街で一番の宿ってのは……ここかい?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] エレナさんは子供達に大人気ですね! 子供達への物語の読み聞かせというスタイルで、この世界の過去のことをもしかしたら読者への情報として書いてらっしゃるのかな?と興味深く読みました(*'ω'*…
[良い点] メインは西部劇。SF要素が混ざってもそこがぶれないのが素晴らしい!SFが混ざった西部劇好きの自分にとってドストライク。 戦争をおとぎ話の様に語るのも妙なギャップがあって滅茶苦茶お洒落。 […
2020/05/12 12:54 退会済み
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