幕間
「―――美咲さん! 現場の状況は?」
「おう、百瀬か。今は倉敷のヤツが検証してるところだ」
「流石、手が早いですわね。それで、蜜峰さんは本当に……?」
「ああ、間違いなく死んでる。現場……バスルームなんだが、酷いモンだったよ。辺り一面が血塗れ。蜜峰のヤツは壁に背中を預ける形でぐったりと倒れ込んでた。左手首からの流血、右手にナイフを持っていた事から、恐らくは自殺……だろうな」
「血塗れ……ですか?」
「ああ、少し不自然なくらいに周りの壁にも血が飛び散っていやがった。手首を切ったくらいじゃ、ああはならんだろう。目立った傷跡みたいなモンは他に見当たらなかったが―――」
「なるほど……倉敷さんの検証結果を待つしかありませんか。素人のわたくしが土足で踏み入るわけにもいかないでしょうし」
「だな。それで? 流石に警察沙汰ではあると思うんだが、いつになったら通報するつもりだ?」
「通報はしません。少なくとも事の真相が解るまでは」
「マジかよ。いくら百瀬の後ろ盾があるからって、ちょっとばかり強気過ぎんじゃねぇか?」
「もちろん、わたくし達の手に負えないとなれば公共の力を頼る事になるでしょう。しかし、ここは茨薔薇。百瀬財閥の管理する特別区域です。ここで起こった全ての事象による責任は当然ながら百瀬に被さります。わたくしがこの学院を任されている代理という立場である以上、出来る限りは内々で事を解決せねばなりません」
「んなこたぁ解ってんだよ。だが、リスクが高すぎる。解決できないリスクもそうだが、事が露見してしまったら終わりだぞ。隠蔽に対する処罰だけじゃない。下手すれば学院の解体、お前の地位の剥奪……アリカに取って変わられても良いってのか?」
「そうはなりません。わたくしは自分の力でここに立っています。あの子がわたくしを蹴落とす事など不可能でしょう」
「ったく、相変わらず自信満々だな。お前のそれはいったいどこから出てくるんだよ。……ま、お前が覚悟しているんならアタシがこれ以上何か言うまでもないが」
「ええ。貴女が味方でいてくれて、本当に有り難いと思っています」
「……ま、返しきれない借りがあるからな」
「そんなもの、そこまで気になさらなくとも良いですけれどね。わたくしとしても、貴女を必要以上に縛り付けるつもりはありませんし。それでも、こうして力を貸して頂けるのは助かりますけれど」
「ああ、安心しろ。借りを忘れる気はないが、根本的な部分でアタシはお前側の人間だよ。そこに変わりはない」
「それは安心ですわね。大丈夫です。この事件の裏側はほとんど把握出来ていますし、ここからはわたくし一人でも十分解決できるでしょう。それに……彼女が関わっている可能性が高い以上、紅条さんや渋谷さんだけはこれ以上関わらせるわけにはいきませんので」
「……ああ、それなんだがな」
「なにか問題が?」
「監視カメラの映像を早送りで確認したんだが。蜜峰が部屋に軟禁されてから、そこへ訪れたヤツが一人だけいるんだが―――」
「……それは?」
「―――渋谷香菜。もしこれが自殺ではなく他殺なのだとすると、ヤツが唯一の容疑者と言っていい」




