義賊、転生
(ここ、どこだっけ……俺……死んだのかな。
確かにナイフぶっ刺さったもんなぁ……)
俺は自分の生死の境がわからなかった。記憶が明白なのは、学校から帰ったら両親の殺害現場を目撃して、通報しようと受話器を取ろうとしたときに犯人が弟に歯を向けたから死ぬとかそっちのけでアイツに覆い被さったら問答無用で刺されたとこまで……その時自分が何を喋ったかもあやふやだ。多分ガミガミ言いながら馬鹿みたいに筆噛んだりしてた気がする……
ちゃんと逃れたかな、いや、多分ガソリン撒かれたから家ごと燃えちゃったか……
(いいや……考えるだけ無駄だし。全員死んだならこっちで団欒できるじゃん。)
絶望感と不甲斐なさから若干麻痺した思考を抱えていると、誰かの声がした。
「なーなー、起きろよ〜w」
乾いた笑い声は俺のことなんて微塵も心配してなさそうだった。
「ん゛……ぅ……」
痛む節々を堪えて、なんとか起き上がると「起きた〜!」と拍手と共に迎えられた。顔を上げるとツノを生やした3m級のギザ歯で筋肉の塊みたいなデカい男が覗き込んでいた。
「うわぁ……!ってか、俺は……助かったのか……?」
「ん?お前、単独意識じゃねぇの?」
「シングルソウル……?」
「んぁ〜、ぶらついてたらいい感じのボディか落っこちてきたと思ったらお前のか!……そんなら、お前今魂だけの存在だから動くとマジで死ぬぞw」
全然話が見えない上に衝撃発言されて俺の脳みそは完全に処理落ちした。
「あぁ、やっぱ俺……」
回復したら回復したで、俺は避けられない現実に落胆し直した。
「ん?……戻りてぇの?」
「……!」
いかにもできるってクチで言われたもんだから、俺は構わず飛びついた。
「できんのかよ!」
「あ〜っ……!ちょ、ちょっと待てって!だからぁ、単独意識は権限なしに動くと消えちゃうんだって!話聞けよ〜、ったくもう……!」
「できるだけ早く権限欲しいんだけど!」
男はせがむ俺に呆れたようにため息をつく…
「ん〜、そうだなぁ……条件呑んだら出してやるよ。」
「条件ってなんだ……どんなもんでも受けるから早くしてくれ!」
「オレの力と意識を譲るから、俺の代わりに役目を果たせ。実は俺んとこ、戦争真っ最中なんだけど……俺魔王なんだわ」
「魔王……⁈」
「ん。せーかくにいえば、ホストだな。たった今先代がお釈迦になった。で、たった今からオレが魔王。」
そんなことってあんのかよ……転生ものってラノベとかの話だろ……?本当らしいが……
「……俺が代わりに魔王になって、戦争を終わらせろって?」
「いんにゃ、そうじゃねー。……オレさぁ、対抗勢力とかがややこしくて疲れちゃったんだよね。そんでお前のところの人間に転生しようと思って!たぴおか?ってのも呑んでみたいしな……さっき見つけた。そんで替え玉でお前を選んだわけ……でもこっちの人間はラスボスが魔王軍だと思ってるらしいんだけど……最終的に人間同士の潰し合いになりそうだからお前に人間としてこの戦いを任せるってこと。……心配しなくても魔王の力があれば死ぬことないし、魔王って言うのは意識コピーできっから!」
全く意味がわからなかったし余計と思われるところもあったが『身体と一緒に力と記憶を与えるから戦争を終わらせろ』だと解釈した。……それでも意味わからんが……
「わかった……でも、それだとお前に利益なくない?」
「……たぴおかだけで満足だよ、血生臭い戦さ場に比べたら!」彼の眼は輝いていた。
「……できるかな……?」
「なんでもやるって言ってなかったか?」
「うぐっ……(嵌められた……!)」
「じゃ、能力渡したからあとは頼んだぜ!……ハルト!p.s、魔王にチカラ貰ったことは内緒な!」
「えっ、なんで俺のなm……」シュッ
「ぃよっし、転送成功!……そんなの記憶共有に決まってんだろ……さぁて、ただのイッパンジンになったから姿変えてたぴおか買おっと!」
……
「おい、大丈夫か!」
「ん……?」
あの魔王に抗議しようとしたら今度は砂漠に飛ばされた。……戦争が起きてる場所はここか……?
目線を向けると金髪のいかにも兵士の男が心配そうに見つめていた。
「うぉっ、なんだこれ!」
自分の体を見ると強そうな装備・紫のローブを纏い、筋肉質にもなっていた。……さながら魔導師って感じだ。
「少しばかり記憶を失ったか……無理もねぇ……すごい砂嵐だったからな。どっかで頭でも打ったんだろう。歴戦の魔導師でもこりゃ予測はできねぇよな……しかしお前のローブ、髄まで禍々しいな……魔族からぶん盗ったのか?」
確かにすごい怖そうな雰囲気出てるな……なんかチェーンとかジャラジャラしてるし。テキトーに話合わせとかないとな……
「ま……まぁな。前の装備は戦ってる間に燃えちまったし……ちょうどいいのがあって良かったぜ。」
「その感じだとお前放浪者だろ!……よく1人で魔族と戦ってたな……」
まぁそうなるよな……まさか貰ったなんて言えないし……
次の瞬間、俺は何かを感じた。判別はつかないが、この装備と同じような禍々しい何かが……
「待て、何か来る……」
「お前も感じるか?……アイツら最近親玉が死んで後継者も消えたくせにまだ勝てると思ってるからな……気が立ってるんだか、ほんと惚気も甚だしいぜ……」
程なくして、地面から魔物が出てきた。
「うげっ、マッスルゴブリンかよ……強ぇけど、お前は休んどけ!」
「……いや、俺だって伊達にやってない……行ける!」
矢継ぎ早に出た言葉だが不思議とそんな気がした。
「ヴァンセーヌ様不在の今、魔王城には虫けら1匹踏み入れさせぬ!貴様らにはここで朽ちてもらう!」
アイツ、ヴァンセーヌっていうのか……面倒なこと任せやがって!
「そんな御託並べていられるのも今のうちだぜ……?死ぬのはお前だ!」
「うぉっと、すげぇ覇気……ってかあれフォトンアーツか⁈……啖呵切っといて出る幕なさそうだな……」
フォトンアーツ……?気になったが今はそれどころじゃない。
「油売りには要はない!」
男にゴブリンが殴りかかろうとしたときに俺は無意識に間合いに入って拳を受け止めた。
「なッ⁈」
「マエイジャ……」
譫言のように呟いたその時、俺の周りに魔法陣が浮かび上がり、闇のマグマがゴブリンを呑み爆発した。
「なんの擦り傷も……ッ⁈」
吹き飛んだゴブリンは反撃を試みようと立ち上がるも、体にヒビが入った。
俺はそいつに歩み寄りひと蹴り入れてやる。
ゴブリンはガラスの如く割れた。
「今の……全部お前がやったのか……?あんなデカいゴブリンが砂に……」
男のその声を合図に俺は意識を取り戻した。いや、正確には意識はあるものの服に踊らされている感じだった。
「……言っただろ、伊達にやってないって。」
俺は驚きを隠すためにほくそ笑んでみた。
「すっっげぇ!怖ぇけど、凄いの方が勝ってる!シビれた、惚れた!オレ、余生アンタについてくよ!……ギルド無所属だろ?オレんとこに来てくれ!」
興奮する彼を宥め崖に腰掛けた。
「まぁ、所属があった方がいいしな……ハルトだ、よろしく頼む!」
すると、男は思い出したように「悪ぃ、オレの方もコーフンしちまって名乗んの忘れたわ……バルジャン・ヴェストだ!以後よろしく!」と頭を掻いた。
「ギルドまで道も遠いしさ、なんか話そーぜ!今までどこぶらついてたんだ?」
いきなり答えづらいのきたな……なんで誤魔化すか……
「実は俺は義賊なんでな……魔物を倒して奪った金を貧しい家庭に配ってる。だから行ってた場所なんて覚えてないよ。」
一番最もらしいこと言えたんじゃないか?俺、ナイス!
「へぇ義賊かぁ……聴けば聴くほどかっけぇ!」
「そうか?」
俺は笑った、あくまでニヒルに。
ギルドに着いた後、真っ先に俺の紹介がなされた。
バルジャンは饒舌家らしく俺を盛れるだけ盛り立てた。
その結果、俺は【強大な敵にも怯まず立ち向かう義賊魔導師】として歓迎された。
入寮式が終わった後、ヴァルジャンと同室にあんないされた。「今日は遅いから体を癒せ」とのこと。
「おやすみ、相棒!」
バルジャンに肩を叩かれ眠りにつこうとしたとき、ふと考えた。
(今の俺ってラノベでいうところの俺TUEE!なのでは……?)
『バーカ、普段はそんなチカラでねーっての!』
脳内でヴァンセーヌの声が響く。
『ヴァンセーヌ⁈』
『あの魔導着、持ち主の意思の強さに反応すんだよ。お前の死なせないっていう思いがあそこまで強いとはな……オレもビックリだぜ……さっきのボンボンが言ってたフォトンアーツってのは、お前にわかるように言えば魔導着のレベル解放スキルだな。それを最初に引き出したのは紛れもなくお前の力だよ。まぁ、名付けるなら、【RebelWing】だな。』
『ふーん……』
『まぁ、くれぐれも……死にまくるなよ?』
『わーってるよ……』
まだ、面倒なことに片足突っ込んだ感は否めないが……やるしかないか。そう決めて静かに目を閉じた。
立川春斗
身長171cm
体重65kg
Photon ArtsRebel Wings
イメージCV宮野真守
平凡な高校2年の生徒。ある日偶然にも両親の殺害現場に出くわしてしまい、自身も殺されてしまう。
魂が彷徨う場所【生命の辺】で魔王:ヴァンセーヌ・サタナエルに自身の力と引き換えに戦争を終わらせることを頼まれる。
性格は律儀で少し皮肉屋。現世でも根暗が祟って孤立していた。信頼した人間は命に変えても守り抜くという奉公人気質。
転生先【ランディア王国】では、流離の義賊を名乗りギルド【マハンディエゴ】に加入する。
クールを偽っているがツッコミも担う。
まだ魔導着に振り回され気味。
ヴァンセーヌ・サタナエル
身長350cm
体重500kg
イメージCV杉田智和
ハルトが生命の辺で出逢ったホスト魔王。とにかくデカい。
魔王らしからぬフランクな喋り方でチャラい。
元から人間に転生したかったらしく、身体を渡す代わりに、戦争の行く末をタピオカが飲みたいという安直な理由でをハルトに押し付けた 託した。
ハルトの意識に時々現れて助言する。現世ではヒューマンライフを満喫している……らしい?
バルジャン・ヴェスト
身長179cm
体重79kg
イメージCV福山潤
ランディア王国のギルドの一派、マハンディエゴの兵士で拳術担当。
陽気な饒舌家で喋れば数分は止まらない弟キャラ。
腕白で自信家な印象が目立つが、情報分析・判断、戦術は光るものがある。
元々、男女問わず惚れやすい性格でハルトにも戦いぶりを見ただけで余生を捧げるとまで言い出すなど色々斜め上でオーバーなことも言う。
以降はハルトを相棒と慕い後を離れず着いていくことになる。