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犬神様と猫又の「願い事屋」  作者: 青空ひまわり
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化け狸の願い事叶えます

いらっしゃいませ。

こちらは「願い事屋」でございます。

あなたの願い事はなんですか?


第一章 


「あの~ソラどいてよ~掃除できないじゃん」

「うるさい!ニャーは寝てるんだよ!」

「でも、今ソラは毛が抜ける時期なんだから~猫又なのに・・・」

「猫又だからって毛が抜けないわけないじゃないか!一応猫だし!もう知らない!ニャーは寝る!起こしたら・・・・」

「ハイハイ・・・起こしませんよ」

とまぁいつもこの喧嘩から1日は始まる。

ここは新宿のとある古民家。

と言っても普通の人間には見えない。

この古民家の主人は「犬神」と呼ばれる犬の神様の「茶太郎」が住んでいるのです。

そして茶太郎様に拾われてこの古民家に住んでいるのが猫又の「ソラ」です。

ソラは元は動物の猫でしたからもうわがままで、気分屋で・・・・犬神の茶太郎様よりも気が強く茶太郎様はいつも「ハイハイ、わかりました」と言いなりになってしまうのです。

でも、ソラも茶太郎様も仕事の時はちゃんと仕事をこなすのですよ。

あーそういえば仕事の事ウッカリ忘れていましたね。この古民家に来る者たちは「願い事」を抱えてやって来て、茶太郎様とソラに叶えてもらう「願い事屋」というお店をやっているんです。

と言っても、このお店兼住居となっている古民家が見えるのは「願い事を抱えている者」だけなのです。ですから新宿のどこにあるかは誰も知らない・・・いや知らないのは人間であって、あやかし達には評判の良いお店のようです。

では茶太郎様とソラの仕事ぶりを見てみましょうか。


第二章

「こんにちは~」

「・・・・・」

「こんにちは~茶太郎様いらっしゃいますか~?」

「・・・・・・」

「すみませーん!」

「・・・・・・」

いくら叫んでも返事がない。

「おかしいなぁ・・・お店の前の看板には『願い事いつでも大歓迎』って書いてあるのに・・・・ん?」

お店の奥の障子に何だか尻尾みたいのが見えた気がした。

「ちょっと、行ってみよう」

ゆっくりと近づいて静かに障子を開けてみたらそこにはこたつがあった。そのこたつから二本の尻尾がパタリパタリと動いている。

「あれ?猫の尻尾?」

恐る恐る猫の尻尾に声をかけてみると

「あの~すみません・・・・お願いがあって来たんですけど・・・・・」

するとこたつから

「ん?もしかしてニャーに話しかけてる?」

と声が聞こえた。

「え!?尻尾が喋った!?」

「そんなわけあるか!ニャーは猫又だ!」

とこたつから顔を出したのは猫だった。

「あ!え!?ここ犬神様のお店じゃないんですか?」

「はぁ~これだから素人は嫌なんだよな~ここは犬神茶太郎と猫又のニャーがやってるお店なんですけど~ん?ってお前、化け狸?」

「え!?あ!はい!そうです!茶太郎様の噂を聞いて来たんですけど・・・茶太郎様はお留守ですか?」

「うん。あいつなら今、買い物行ってるよ」

ガーン!

なんとせっかく来たのにお留守だなんて・・・しかも名前も言ってくれない威張り猫又がいるなんて聞いてないよ・・・・どうしよう・・・・

「まあ、せっかく来たんだしこたつにでも入ってゆっくりしていけば?あいつもそろそろ帰ってくるだろうし」

「えーと・・・じゃあ、お言葉に甘えて・・・・」

靴を脱ぎこたつに足を入れて温まる。

チクタク、チクタク

チクタク、チクタク

「あの~お願いがあって来たんですけど・・・・」

「だろうね。だってここ願い事屋だもの」

「猫又さんも一緒に願い事叶えてくれるんですか?」

「うん。一応。言っとくけど、ニャーの名前は『猫又さん』じゃないから」

「あっ、はい・・・すみません・・・・」

何この気まずい雰囲気!あー早く茶太郎様帰ってきてほしい!

ガラガラッ!

「ただいま~ソラちゃんと店番してくれた~?」

「あ!帰ってきた・・・茶太郎!願いを叶えてほしいって化け狸がきてるよ!」

「え?ちょ、ちょっと待って!今行くから!」

ガタガタッ!ドタドタッ!

シーン・・・・

あれ?静かになっちゃったし、絶対こけたよね・・・大丈夫かな・・・

タッタッタ、ガラッ!

「すみません・・・お待たせしちゃって・・・」

「・・・・・・・」

「あ!お茶出してない!ソラ!ちゃんとお茶出さなきゃダメじゃないか」

「だって、お湯熱いし!ニャーは猫肌で、猫舌なんだっていってるじゃんか!」

「ハイハイ。すみませんね~うちのソラがお茶も出さなくて」

「・・・・・・・」

「あの~どうかしましたか?化け狸さん?」

「えーと・・・おでこから血が出てるんですけど・・・・」

「ん?」

「ニャ、ニャ、ニャーハハハ!!確かに!ニャハハハッ!!」

「えー!!ティ、ティッシュ!ソラ!笑ってないで!早く、早く!」

「ニャハハハッ!」

イライラ、イライラ

「ソラ~本当にヤバいって~」

「ニャーハハハッ!」

イライラ、イライラ

あーもう信じらんない!

「あの!このハンカチ使ってください!」

「え!?いや、流石に依頼者のを使うのは・・・・」

「いいから!早くしないと血止まりませんよ!」

「あ!はい・・・ありがとうございます・・・・・」

ハンカチを渡して茶太郎はおでこを押さえながらお茶の準備を始めようとした。

「お茶は自分でやりますので、茶太郎様はそこでじっとしていてください!」

「えっ!でも、・・・・・」

「ダメです!もしお湯をこぼしたら今度は火傷しますよ!」

「はい・・・・・すみません・・・・」

「ニャハハハッ!こけておでこ打って血出すとかバカじゃね!」

はぁ~本当に犬神様?どんだけドジなの!猫又さんも笑ってないで心配してあげればいいのに!

「お茶どうぞ」

「すみません・・・・せっかく来ていただいたのに、こんなみっともない姿お見せしてしまい・・・・・」

「いえ、お気になさらず」

「はぁ~笑った」

「えーと・・・まずお名前伺ってもよろしいですか?」

「はい。私は化け狸の花子です」

「花子さんですね。僕は・・・・」

「犬神の茶太郎様ですよね」

「あーやっぱり知ってましたか・・・すみません・・・神様っぽくなくて・・・・・」

あ・・・・やっぱり気にしてたんだ、神様っぽくないって・・・・・

シーン・・・・

「あの!願い事叶えてもらおうと思ってきたんですけどまた今度日を改めて来ますね!ハンカチはそのまま捨ててしまって構いませんので!お邪魔しました!」

「ちょっと待ってください!花子さんの願い事は急を要するものでしょう!」

「いえ!大丈夫です!」

「その人間の方が亡くなってからじゃ遅いでしょう!花子さん!」

「えっ!なんで知ってるんですか・・・・その事を・・・・・・」

「やっぱり、あなただったんですね。実は三日前にある人間のおじいさんが訪ねて来たんです」

「その話、くわしく聞かせてもらえますか!」

「もちろん、お話しします。ですからお座りください」


———三日前————

「今日もいい天気だなぁ~ん?」

「ここは・・・?」

「こんにちは。何かお困りですか?」

「ここは、天国か?」

「いえ、ここは天国ではありませんよ。すこし次元は違いますが、一応現代の日本ですよ」

「そうか・・・・まだわしは死んではおらんようじゃな・・・」

「何か願い事抱えてませんか?よかったらうちのお店で叶えますよ?」

「店?」

「はい!僕、願い事屋の主人の茶太郎と言います。とりあえずそこのベンチに座りませんか?」

「ああ、そうだな」


「では、お話を聞かせてください、


あれはわしがまだ元気だった頃のことじゃ・・・あの頃わしは女房を亡くし子供は独立し、一人で自給自足の生活をしていた頃でな。あの時わしは山に入ってキノコなどを採りに行った時で、その日は午後から雨が降りそうじゃったからさっさとキノコを採って帰路についたんだが、雨が予想よりも早く降ってきてしまってなぁ。わしは足が悪かったもんじゃから 速く歩こうにも歩けなくて仕方なく雨宿りをしてたんじゃがそこに、狸が一匹おってな、わしを見てびっくりして逃げようとしたんじゃがその時、雷が鳴って狸がわしにくっついて「ごめんなさい。ごめんなさい」と呟いているからわしは「大丈夫、大丈夫」と体を優しく撫でてあげてたんじゃ。しばらくそうしていたら狸の方も落ち着いてきたのかポツポツと自分のことを話しだしてな、

「私のお母さんは私を庇って熊から守ってくれた。お父さんはある日帰って来てくれなくなって私ひとりぼっちなの」

と言っておった。だからわしは

「わしと同じじゃな。わしも女房を亡くし子供は独立してわしもひとりぼっちじゃ。同じじゃ」

と笑いかけたら狸は

「寂しくないの?」

と聞いてきたもんじゃからわしは

「そりゃあ、寂しかった。じゃが、森に入って鳥や動物たちの声を聴いてると自然と一人じゃないもんじゃのう、と思ったんじゃ。じゃから、寂しくなった時は近くの鳥に餌をやりながら話を聞いてもらったりしたもんじゃ」

と言うと狸は笑顔で

「おじいさんって森が好きなんだね!」

っていうもんじゃからわしは

「そうじゃな。森はわしに食べ物を恵んでくれてわしの心も癒してくれるとても大切な存在しゃな。お主も森は好きか?」

「うん!大好きだよ!」

と話していたらいつの間にか雨が止んでいて、狸は寂しそうに「お別れだね」って呟いたもんじゃからわしは

「そんなことはないぞ。わしは毎日この森に来る。じゃから、お主と会うことはできるぞ」

「本当!じゃあまた明日も会える?」

「ああ、約束しよう。明日もここに来て、美味しい物も持ってきてやるぞ」

「約束だよ!」

「ああ、約束じゃ」

と約束をしてその日は別れたんじゃが次の日わしはおにぎりを作って昨日、約束した場所に向かったんじゃが、狸はその日来ることはなかった・・・

わしはきっと何か理由があって来れなかったのかもしれんと思いその日は帰ったんじゃが、それから毎日森に行ってはあの時の狸を探したんじゃが、どこにもいなかった。

そして、月日は流れわしは病に倒れ娘が久々にわしの家に来た時わしはもう歩けなくなっていた。娘はわしを引き取りわしは森から遠いところで、娘に看病されているんじゃ。

「わしの願い事はあの狸にもう一度会ってわしはもう長くはない、じゃけど、わしはいつでもお主のそばにいるからな。と伝えてやりたいんじゃ。きっと寂しがってると思うんでな。もう叶わん願いじゃがな」

「わかりました。その願い僕が叶えます!必ず貴方自身から伝えられるようにしましょう!」

「そうかい。ありがたいことじゃ。これでわしの願いが叶うと良いなあ・・・」


「とまぁこんなとこでしょうか。花子さん。あなたのことをずっと気にかけてくださっていたみたいですよ」

「・・・ぐすん」

「会いたいですか?あの方に」

「・・・はい・・・会いたいです!そして謝りたいです」

「わかりました。では今日の夜にでも会いに行きましょうか。あの方は今病院に入院されているそうですから」

「わかりました。じゃあまた夜こちらにお伺いします」

「はい。ではまた夜に会いましょう」


–-−そして夜−−−

「こんばんは」

「こんばんは。あれソラさんは行かないんですか?」

「うん。ソラはなんか面倒だから行かないって言ってました。ソラは気まぐれなので、あとこれよかったらどうぞ」茶太郎は可愛らしい袋を花子に渡す。

「何ですか?これ?」

「まぁ、開けて見てください」

言われるがまま開けてみると、可愛いハンカチが入っていた。

「うわぁ!可愛い!ありがとうございます!」

「お礼を言うのは僕の方です。昼間はハンカチを貸していただきありがとうございました。これはそのお礼とハンカチを汚してしまったのでその謝罪というか・・・」

「そんな気にしなくて大丈夫ですよ。ありがとうございます。大事にしますね」

「気に入っていただけて良かったです。ではそろそろ行きましょうか」

「はい。でもどうやって行くんですか?」

「それなら心配いりません。先程病院とここの次元を繋いでおきましたからこちらの門をくぐると病院に着きますよ」

「すごいですね!」

「では、行きましょう」

「はい」


–––病院の廊下–−–

「うわぁ。本当に移動できた」

「こちらですよ。花子さんの探している方のお部屋は」

「実さんって名前だったんだ・・・」

ガラガラ。

「実さん、こんばんは。願い事屋の者です」

「・・・ああ、あの時の・・・その隣にいる子はもしかして⁉︎」

「はい。実さんが探していた方ですよ」

「おじいさん!ごめんなさい・・・私約束破ってしまって・・・」

「やっぱり・・・負い目を・・・感じていたんじゃな・・・」

「私・・・あの日父親が帰って来て、急にこの森を出るぞって言われてなんでって聞いたらこの森は危険だって言うから私はこの森が好きだからここにいるって言ったんですけど父親が、じゃあ母さんのようになりたいのかって言われてなんで知ってるのって聞いたら帰って来る途中で死んでいるのを見つけたって・・・熊に襲われた跡があったって・・・それを言われて私は何も言えずに森を去ってしまいました。本当にごめんなさい!」

「そうか・・・一人じゃなかったんだな・・・なら良かった・・・狸やわしはもう明日死んでもおかしくない・・・これからはその負い目を・・・感じずに過ごしてほしい・・・わしからの最後の約束じゃ・・・」

「わかった。おじいさん・・・私が死んで天国に行ったらまた一緒にいてくれる?」

「いや、まだお主は死ぬのは早い・・・大丈夫じゃよ・・・心配しなくても・・・わしはずっとお主の・・・そば・・・にい・・・るから・・・」

「おじいさん!約束だよ!ずっとそばにいてね!私もいるから!」

「約束・・・じゃ・・・ありがとう・・・」

ピー

「お亡くなりになられたみたいですね・・・すごくいい笑顔ですね。もうじき病院の方がいらしゃいますからその前にここを出ましょう」

私は頷くことしかできなかった。

そして私たちは病院の外に出たところで私の記憶は途切れている。


「ここはあの時の森だ・・・これは夢?」

「ああ、先に来ていたのか狸よ」

「おじいさん⁉︎あれさっき亡くなったんじゃ・・・」

「ハハハッ!何を言っとる!わしはこのようにピンピンしておるぞ?まだまだ死ぬわけないじゃろう」

「ハハッ・・・そうだよね・・・私何言ってるんだろう・・・ううっ・・・」

「大丈夫・・・泣きたい時は好きなだけ泣けば良い・・・大声でな・・・」

ああ、温かい手、優しい温もりが私を包み込んでくれる。

あの時と同じように撫でてくれる。涙が止まらない。

「うう・・・うわぁーん‼︎おじいさん‼︎うわぁーん!」

「よしよし・・・大丈夫じゃからな。ずっと一緒じゃからな・・・」


チュンチュン

「ん?あれここは・・・森の中じゃない・・・?」

「目を覚ましましたか?」

「あれ?茶太郎様?そっか・・・やっぱり夢だったんだ」

「何か、いい夢見られましたか?」

「はい!とっても懐かしくて居心地のいい夢を見ました!」

「そうですか。それは良かった。できれば僕にも話してもらえませんか?」

「うーん・・・ちょっと恥ずかしいけど茶太郎様なら・・・」

「ほう・・・茶太郎には話してニャーには話したくないと・・・?」

「あ!ソラさんいたんだ・・・」

「何が『ソラさんいたんだ』だー!ニャーはずっとここにいたー!」

「アハハッ!そういえばソラ仕事しなかったから忘れられてたんだハハッ!」

「そうですね。完璧に忘れてました!」

「ニャーを忘れるなぁー‼︎」


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