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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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S

 1回戦、格上パーティにほぼ正攻法で完封勝利したアデル達は確かな手応えを感じていた。

 1回戦……というか、今日の試合に当たり、アデルが一番警戒していたのは格上の《魔術師メイジ》による“催眠スリープ”であった。恐らく精度も質も高く、格下で特に魔力を鍛えていないアデル達では“抵抗レジスト”は難しいだろうと何かあったらすぐに誰かがフォローを出来る体制を取っていたが、流石に新年祭の余興でそれは野暮と踏んだのか今のところ使う者は誰もいなかった。攻撃魔法が禁止される中、“催眠”と“火力付与”以外に《魔術師》が何をしてくるのか。残念ながらパーティに《魔術師》がいないアデル達には図りかねる。故に《魔術師》を最初に何とかしようとした作戦がうまく決まったのが1回戦であった。

 試合は一旦Bブロックに移る。Bブロックの第1試合はBランクパーティ同士の戦いとなった。どちらも攻撃の精度はもちろんだが、一番感じたのは防御の質だ。楯の扱い、位置取り、そして回復魔法。一度鎖帷子の一部が変形する様な一撃を食らい、ダウンするかと思った戦士が回復魔法で簡単に立ち直ったのだ。前回の仕事の様な乱戦でないなら、多少の手傷、ダメージは《神官プリースト》によりあっさりと何事もなかったものにされてしまう。思えば、アデルやネージュも《神官》であったカタリナにはそれなりにお世話になったものだ。カタリナがいなければゴーレムを倒すどころか再戦を挑むことすら難しかっただろう。流石は幾度もの死線を越えてBランクにまで到達したパーティ達である。

 均衡した第1試合に続いた第2試合はAランク対Bランクの対戦となったが、こちらは序盤こそいい勝負をしていたが、経験の差か一瞬の隙からAランクパーティが勝負の流れをつかむと、あとはあっという間にBランクパーティを崩していった。




 Aブロック2回戦は1回戦第1試合の勝者対シードのSランクだ。

 Sランクパーティが登場すると、まずは盛り上がっていた余興の席がしばし静寂に包まれる。

 現れたのは全員、長剣と楯の組み合わせに鎖帷子を纏った見目麗しい女性4人。年齢は少なくともヒルダよりも上であろう。Sランクと言うのだからそれなりの実績があるだしそれはそんなところなのだろう。

 4人が配置についたところで、静寂が徐々に壊れ始める。そして試合が始まると同時に、観戦者達は一気に興奮か驚嘆の声を上げた。

 気持ちはわからないでもない。ほぼ一方的だった。対戦相手もBランク、1回戦をそれほど苦も無く勝ち抜けたパーティであった筈なのだが、試合開始から1分足らずで既に半壊している。湧きあがる声は感嘆の溜息、圧倒的な力を目にした興奮、更には相手パーティに対する『一矢報いて見せろ!』という声だ。

 アデル達は言葉も忘れ、ただ息を飲んでそれを見つめていた。Sランクパーティが取った行動はシンプル。というよりもアデル達の1回戦と近い様でいて真逆だ。

 1人が突っ込んで相手前衛の動きを止めると、すぐに次の2人で相手前衛3人を挟み、最初の1人を加えて楯の圧力と怒涛の連撃で封じ込める。残りの1人が易々と相手後衛列に抜けると、魔術師、神官の順に簡単に倒してしまう。後衛なんて最初からいなかったも同然だ。封じ込まれた前衛は為す術もなくそのまま圧殺されて終了。この間、実に2分弱である。

 勝負が決まるとあとは大歓声だ。アデル達は全員、ただ言葉もなく見とれているだけだった。絶対的なカリスマ、それもSランクに必要な物なのかもしれない。そう思えるほどに見事な勝負だった。

 だがしかし――

 彼女らは次のアデル達の対戦相手なのである。呆然としていたアデルだが、我に返ると直ちに当初予定した作戦を見直しを始める。

 もともと、相手を知らないアデル達が想定したのは1回戦と同様の対オーソドックスなパーティを想定しての物だった。ところが、蓋を開けてみれば現れたのは、全員が前衛、おそらく《騎士ナイト》だろう4人組だ。模擬戦闘として見るなら構成的にはラウル隊に近い感じだろうか。当然だが、ポジショニングも状況判断もあちらが上であろう。

 当初はネージュに“不可視インヴィジュアブル”を掛け、前回同様ある程度こちらの前衛が目を引いたところで一気に後衛を落すと言う作戦だったが、相手が全員騎士であるならそうはいかない。真っ向勝負を挑めば恐らく為す術もなく負ける。もちろん、最初から勝てるとは思っていないがそれでも一泡吹かせてやりたいと思うのが本音だ。さて、何をどうするか……

 そんな事を考えていたアデルにふらふらっとブラバドがやってきて耳打ちする。

「どうだ?去年やってきたローザを覚えているだろう?」

 突然上げられた名前に困惑しつつも、『当然覚えている』と返す。

「どうもな。ローザはあいつらに憧れてうちの店に来たらしいぞ。“白風ヴァンブランシュ”、4人全員が《聖騎士パラディン》だ。資格を持つのは2人だけのようだがな。リーダーのイリスはウェストン辺境伯の次女で当時――今もだが、当時はもっと酷かったウェストン領を守る為、自ら進んで剣を取り、人一倍精進を重ねた。アンジェラはウェストン辺境伯の寄り子の侯爵の娘で元々はイリスの護衛だったが、彼女もイリスに触発されて共に剣を学んだそうだ。それに応えた辺境伯は彼女らをテラリアのアカデミーに留学をさせた。相当な努力をしたのだろう。2人とも《聖騎士》の称号を勝ち取り、彼女らもまた、その留学をさせてもらったお礼とばかりに、結婚もせず、家を継ぐこともなく、1人の武人としてただただウェストン領の領民の為に剣を振るう。魔物やら蛮族やらが出たと聞けばすぐに駆けつけ、多くの村を救い、3年前の大規模侵攻の折には一兵卒、ただの冒険者として多大な戦果を挙げた西の英雄だ。他の2人は元々はテラリアの出身らしいが、イリスの学友だそうでイリスたちと同様にウェストンの民に尽くしている。今回、東の件でテラリアの聖騎士が何かやらかしたらしいが……彼女らこそ本物の聖騎士だ。よく見ておけ。そして一度先入観を捨ててよく見てみろ。」

 アデルが“聖騎士”という言葉、存在自体に過剰に反応する、嫌悪すら見せることを知っていたのか、ブラバドが真剣な表情でそう言う。アデルとしては“地方民の僻みとは分っている”とは自分で言いつつもやはりそれを受け入れるのは難しい様子だ。それを見たブラバドが敢えて彼女らをここに呼んだのだろうか?アデルはそんな風に考えた。そしてそれが正しかったと言うこと知るのは後で改めての事である。

 とりあえずは目の前の対戦相手。今回はまだブラバドの思惑とは逆に、アデルは何としても聖騎士に一泡吹かせようと躍起になった。 

 前衛としての実力は個人としてもパーティとしても先ほどの戦闘で見たとおりだ。しかも聖騎士という事は全員が全員、ある程度の回復魔法をも扱えるということだろう。生半可な打撃を加えた所で大した効果はない。恐らくは保護魔法も展開しているのだろう。全員が全員“あの”ローザよりも上と考えるとセオリー+奇襲程度ではどうにもならないだろう。そうなると……

 試合場ではAランクパーティ同士の激戦が繰り広げられていたが、アデルの目には全く映っていなかった。


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