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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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2度目の新年祭

 周辺に不穏な空気を多分に含みながらも、コローナ王国、王都コローナは例年よりも幾分慎ましやかに新年を迎えていた。毎年恒例となっていた王侯貴族やその軍による市内大通りのパレードが今年は安全その他諸般の事情により取りやめとなったことが大きい。例年通りなら元日昼からは大勢の者が1年で1回、唯一許される、立ったまま或いは高い位置から堂々と王族を眺め、手を振る機会に大挙し賑わっていただろう。

 新年を祝うにあたり国として直接かかわるイベントはなくなったものの、各店舗、各家庭等では各々が大勢を集め、或いは大勢で集まってのイベントは今まで通りに開催された。

 アデル達が所属する冒険者の店、ブラーバ亭も恒例の新年を祝う催しが行なわれていた。そこそこの敷地面積を持つ店の屋内外の2か所に分かれて、普段はなかなか有りつけない様な料理が振舞われる。場所分けは昨年同様、冒険者登録から2年以内、所謂新米と呼ばれる者たちが訓練場を兼ねる裏庭、それ以外の者が店内だ。勿論配られる料理に差はない。酒は店内組の方が高そうな酒を飲んでいるようだが。

 そして今年も余興、所属冒険者での闘技大会が始まる。本来なら冒険者登録から2年未満のアデル達は全員新人組への参加が認められるのだが、レベル20を超えた者はご遠慮願われるらしい。ということでニルス達も含めてそちらには参加させてもらえなかった。代わりに……とうか、何故か半強制的に一般――所謂無差別級の部の方にエントリーされてしまった。アデル達は無差別級の賞品である酒の類は全く興味が無いため、新人の部がダメなら観戦でいいかと思っていたのだが。

 ブラバド曰く、

「Bランク以上の実力を良くて見ておけ。特に今年はうちの店唯一のS、つまりはディアスたちの上が珍しく戻ってきている。滅多にない機会だ。今回は団体戦だ。個人戦だと……まあ、上位4人は確定してしまうだろうからな。」

 と言うことだ。

 ブラバドの言葉にニルス達は俄然やる気になったようだ。そしてアデルとネージュも、ディアスたちが目前で届かないまま諦めてしまったSランク、その存在に大きな興味を持ち5人で参加することにしたのである。

 但し攻撃魔法は禁止。装備は訓練用武器、防具は鎖帷子又はレザーアーマーまでと制限が付いている為、ネージュを中心にアデル達には若干の制限もある。ただ、これは去年も同様だった筈でそこに関してはネージュも不満を漏らす事はなかった。

 団体戦ゆえか、エントリーは僅か10組のみ。とは言え人数にすると40人超ではある。まずは左右のブロックに分け、そのシード枠にSランクとAランクのパーティが割り振られた。つまりは決勝に行く前にそのどちらか当たる事になるのだが、流石にSランクやAランクにいきなり勝つのは難しいだろうとは覚悟を決めておく。それでも、賞品の酒以上には得られるものもあるだろうと、そこは割り切るしかない。

 アデル達はAブロック第2試合……ある意味で一番ラッキーな枠を引けた。1回勝つだけで準決、しかもSランクの戦いを一度外から観察したうえで挑むことができる。

 一回戦はBランクパーティとの試合だ。アデル達よりも2年程先輩……となると、ローザ達と同期だろうか?の、5人パーティだ。アデル達はまだC+ランクという表示がされているが、幸か不幸か、油断はしてもらえない様だ。

「お前は……確か去年の優勝と3位か。去年よりもまた強くなっている様だな。」

 どうやら去年の試合を見ていたらしい。

 各試合の前に3分の準備時間が貰えるとのことで、そのカウントが始まる前にアデルはブラバドに確認をする。

「攻撃魔法なし……ということは、それ以外はありという事ですよね?」

「そうだ。団体戦で中には《魔術師》がいるパーティもある。彼等にも仕事をさせてやらんとな。」

「精霊の召喚は有りですか?」

 アデルの言葉に周囲が「え?」という反応をするがアデル達は誰一人それを気に留めなかった。

「精霊召喚……できるんだったな。が、召喚はなしだ。いきなり新手が現われて回復魔法やら補助魔法やら連打されるというのはちょっとな。」

「ふむ。わかりました。」

 アデルとしては、『それ以外はあり』の言質が取れれば充分だった。緊急時用にいくつかの策を用意しておく。できれば2戦目まで取っておきたい手段であるが。

 質問が無くなったと見て、準備時間のカウントが始まる。補助魔法の展開や作戦タイムなどに使えという訳だ。

 アデルはアンナに緊急時の策を授け、出来れば2回戦まで温存しろとも伝える。アデルとアンナでニルスとミルテの武器に“火力付与エンチャントウェポン”を掛け、その後は作戦タイムだ。以前、アンナにも覚えさせようと思って以降鍛練を繰り返し、アンナもアデル同様、“火力付与”だけは使えるようになっていた。

 初戦の作戦はシンプルだ。ニルスとミルテが前衛で列を崩さない程度に大暴れし、中衛でアデルが牽制と指揮、アンナが後衛で補助、回復に専念。ネージュは……“いつもの通り”である。

 武器はそれぞれ得意としている武器カテゴリの木製の物、ネージュは短剣型の物を選んだ。相手が持っているのが去年の情報だとするなら、当時のネージュはショートソード二刀流であったためだ。もし、長剣が必要ならアンナにこっそり“長剣サイズの氷の棒”を生成してもらえば良い。防具は前衛3人が貸出品の鎖帷子と普段使っているものと近いサイズの楯、後2人は自前のレザースーツの上にネージュはやはり貸出品の少し大きめのレザーアーマー、アンナはネージュのパーカーを借りて羽織っている。

 相手パーティの構成は《戦士》3人に《神官》と《魔術師》という、神官を含めた高ランクパーティとしてはオーソドックスな構成だ。戦士はそれぞれ、長剣と楯が2人、両手槍が一人とこちらもオーソドックスな感じだ。基本的に前2枚が固め、状況により両手槍が遊撃か牽制の選択をするのだろう。

 そして1回戦が始まった。

 両パーティ、前衛が戦場の中央付近まで出て、打ち合いを始める。Bランクというなら向こうのレベルはおそらく20台後半だろう。レベル26の壁を乗り越えた者達だ。間違いなく格上であろう、双子の攻撃を正確に防いでいく。しかしニルスとミルテは力で強引にそれを圧していた。木製とはいえ本来は両手武器だ。それに“火力付与”を掛けて彼らの全力で叩き込めば訓練用の安い楯相手には十分な衝撃だ。歴戦の冒険者とは言え、全てを受け続けるのは少々きつい様である。改めて装備の重要性を認識せざるを得ない。

 だが、それはニルス達も同じだった。力任せの大振りだけでは相手のガードを崩すのは難しく、また攻撃後の隙を的確に狙われる。派手な膠着という文字に起こすと奇妙な状態だが、それを飲みながら見ているだけの観衆は大いに盛り上がっている。その中で最初に痺れを切らしたのはミルテだ。

「アデル、フォローを頼む。」

 ミルテはそう言うや否や、左手の楯を投げ武器を両手持ちに切り替える。その隙にと向こうの前衛2人が一気に畳み掛けようするが、相手の剣の振り降ろしを払いのけ、槍の突きを躱して1人目に強烈な横凪を叩きこむ。相手もしっかりと正確にその攻撃を楯で受けるが、今迄に増しての衝撃に、ついに楯を落してしまう。その間に、別の剣士もミルテに攻撃をしようと踏み込もうとするが、そこはアデルの牽制とニルスの攻撃により許されなかった。

 1人目がたまらず距離を取ろうとしたところで、その後方で2人が悲鳴を上げて地面に崩れ落ちる。

「何!?」

 相手前衛が纏めて少し下がり仕切り直そうとしたのだろうが、既に遅い。得物も動きも大きな双子に前衛3人が気を取られてしまった時点で勝負は決まっていたのだ。

 近接格闘できるものが、一番フリーにしてはいけない者をフリーにしていたのだから仕方ない。ネージュが余裕で相手後衛二人の意識を刈り取っていた。

「しまっ……」

 気付いた時にはもう遅い。双子の猛攻に加えてネージュの奇襲への対応、さらにはアデルとアンナが包囲する様に移動し、相手の双子への集中をかき乱すべく適当に牽制攻撃を入れる。あっという間に形勢が決まると、相手もBランクの意地とばかり、こちらの穴とも言えるアンナに狙いをつけてアンナだけでも倒そうと仕掛けるがそこはお兄様が許さない。アデルがアンナを守るように位置を取りつつ巧みな牽制で相手の動きを封じ込めると、あとはただ相手が調理されるのを待つのみだった。


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