勇者 vs 竜人
状況はかなり悪化していた。
蛮族の防衛陣地を前に、レナルドからは毒矢に最大限注意する様に、との下知のみで突撃の号令が下されたのだ。
戦況は初手から不利な状況が続く。優位であったはずの数は、陣地に取り付く迄の段階で矢に当った者数十人が戦闘不能となり、開戦まもなく逆転された。敵の矢のすべてに毒が塗られていた訳ではない様だが、運悪く毒矢を受けてしまったものは治療の追いつかない者からすでに容態が悪化している。即効性の強い毒の様だ。そしてそれは兵士たちに一本一本の矢を恐れさせ、動きを鈍化させるに十分だった。
更にそんな状況の中、冒険者組の1パーティがどさくさに紛れて逃亡する。前衛もレザーアーマー程度の軽装備でここまでやってきた奴らだ。まあ、多少の汚名と違約金と己の何の保障もない身体と命を比べたらそれは致し方ないのかもしれない。少なくとも、現時点では楯なり金属防具などを所持していない者は出来ることが少ない。
しかし兵士は別だ。レナルドの号令の下、逃亡はない。士気もまだ十分高く、しっかりと己の身を守りつつ出入り口の簡素な門に取り付いた。半刻ほど経過したあたりから降り注ぐ矢の数も目に見えて減ってきており、ここから攻勢に出られるかと思われたが、その希望はすぐに打ち砕かれる。
包囲できるほどの戦力はなく、正面の門に兵を集中せていた所に、オーガをリーダーとする複数の小隊が側面の門から遊撃に出てきたのだ。構成は以前アデル達が相対した物と同じ。オーガ1体がリーダーでその下にオークが1体、近接武器装備のゴブリン5体の班が5班、計31体の小隊。どうやらこれがこの蛮族軍の基本構成であるようだ。さらに、それに支援射撃が付いているのである。多少は魔獣や妖魔との実戦経験があるとはいえ、このような集団戦は殆ど経験していない兵士たちには十分すぎる脅威となった。せっかく門までたどり着いたものの、両側面からの挟撃の構えにエストリア軍は一気に崩れかける。
そんな中、一際目を瞠る動きを見せるのがヴェーラ隊だ。矢の牽制に怯むことなく、あっさりとその1小隊を倒す。
(……流石は自称を脱し、勇者と呼ばれる一行だ。俺らよりも上だな。)
その様子をチラリと見ていたアデルはそう直感した。冒険者ギルドに属していないので具体的なレベルはわからないが、ヴェーラの実力は既にアデルを追い越していることが分かる。それに触発されたか、ネージュやニルス、ミルテも奮起した。事前のすり合わせ通り、先陣のネージュの蛇腹剣が一凪ぎした後は素早く双子が前に出てオークたちの攻撃を難なく捌く。1合ごとにオークとゴブリンは纏めて数を減らしていき、それに業を煮やしたオーガが力任せの雑な攻撃を繰り出そうとしたところでその首をネージュが落す。
両翼の手際に、崩れかけた兵士たちもなんとか踏みとどまり、再度門へと攻めかかる。
しかし一進一退の展開となるとやはり攻める方が不利である。一人が負傷すると、それを後方に下げるべく、1~2人が負傷者を守りつつ運ぶことになるため、攻める人数がさらに減るのだ。そんな状況の中、アデルは何をしていたかと言うと、アンナと共にニルス達のすぐ後ろでバックアップをしつつ周囲の状況を観察していた。実のところ、矢に関しては風の精霊魔法で完全とはいかないものの、ある程度は防げるため楯を構えているのみで充分だった。さらに、ゴブリンの矢は精々が石の矢尻であるので、頭、胴と鋼鉄以上の防備を固めているアデルには矢はまず通らない。アデルは楯でアンナを守りつつ、“オーガを束ねる存在”とやらを探していたのだが、門の中で待ち構えているのだろうか。今のところまだ見つからなかった。
アデルが直接戦闘以外のところに気を取られている間にヴェーラ隊はさらに易々と2つの小隊を片付ける。ヴェーラもさることながら、流石は(村の)エリート集団、とりまき5名……ニルスにいちゃもんを付けてきた女は神官の様で補助専門なので窺い知る事は出来ないが、戦士3人と魔術師1人はアデルと同等以上にはやれそうだ。
オーガが易々と討たれたことで、ゴブリン達が大分浮き足立ってくる。オークは果敢にもヴェーラ隊やエストリア軍に突撃していくが、ちらほらと逃亡しているゴブリンも見える。勿論、逃げるタイミングが悪い奴は、敵(エストリア軍)か上官のどちらかによって粛清されるのであるが。
側面の脅威がなくなった所でレナルドが一気に攻めるべく檄を飛ばす。兵士たちはここぞと気勢を上げ、何とか柵の表面を金属で補強した門をぶち破ることに成功する。
この時点で味方の兵士は50ちょっとと当初の半分以下になっていた。しかし蛮族側も、ヴェーラ隊とアデル隊、それぞれがそれぞれのサイドの小隊を複数刈り取ったおかげで、少なくとも60以上はその数を減らしている筈だ。しかし、事前情報の敵は100超とされていたが、まだまだ敵の数は少なくない。どうやら、本当に文字通りの意味の『100超』であり、勝手に『100前後』と解釈してはいけない様子だった。確かに、情報を出した奴は少なくとも『嘘は言っていない』。やはり情報の出所が気になる。
「このまま側面を攻める。奴らが出てきた門から入るぞ。」
この場にいる者の中で、陣地の中の様子まで把握できているのはアデルとネージュ、そして理解しているのかはいまいち計りかねるがレナルドのみだ。エストリア辺境伯同様、いや、それ以上にアデルの中でレナルドの評価は現在だだ下がりのナイアガラフリーフォール状態であった。兵士の士気やヴェーラ隊とニルス達含むアデル隊、他の冒険者パーティとの調整、配慮、配置の時点ではアリオンの友人としてもそれなりの評価であったのだが、事前に渡した敵陣の偵察情報に対して、この戦闘の流れは流石にダメだろと感じている。勿論、領主との力関係、信頼関係、その他現在のエストリア領全体での状況を考えると一方的にダメだとは言えないのかもしれないが、現場にいる人間としては如何ともしがたい。
「ニルス、ミルテ、上からの攻撃に気を付けつつ門を思い切り殴ってくれ。30秒ほど気を引ければ充分だ。」
アデルの指示に、双子は一瞬だけ怪訝な表情をするが、すぐに従う旨を告げる。
「承知。」
「わかった。」
次はアンナとネージュだ。
「アンナ、ネージュに“不可視”だ。ネージュは壁を飛び越えて内側を制圧、門を開けてくれ。一目見て無理と判断したらすぐに戻る。突っ込んだ後に無理だった場合は止むをえん、強硬離脱だ。」
「りょ。」
アデルの指示に二人はすぐに従った。
「やるぞ。」
ネージュの姿が消えたところでアデルが言う。
次の瞬間には、颶風が巻き起こり、双子がそれぞれの大型武器を振り被る。
双子が門を叩いた数秒後、内側から人の物ならぬ悲鳴があがり、内側から門が開くと、その内側を見たニルスが驚く。
「お前さん……」
仕方ないと言えば仕方ないが、ネージュの翼がパーカーからはみ出していたのだ。
「珠無しなのか。」
その言葉に、ネージュは慌ててパーカーを羽織り直すが遅かった。微妙に詰めが甘い。とはいえ、戦闘以外に一刻も裂ける余裕がない現状では仕方ないといえば仕方ない。その辺はアリオンの『パーティに組み込むことに関して信頼できる』を信じるしかない。
「それがうちの“事情”だよ。まだ身元保証が取れてないから大っぴらには出来ん。アリオンさんには気付かれてるっぽいがな。」
無理に取り繕うのは逆効果と判断したアデルはすぐにそれを認めた。
「そうか。」
そしてニルスの方もアデルの言葉を素早く適切に理解した。ネージュが珠無し竜人であること。身元保証が“まだ”ということは、それを目標にしているのだろう、魔石を集めにエストリアに来たと言っていたのはその為か。そして、それを目指すという事は少なくとも人族にとって敵対的な行動はしないということだ。ニルスとミルテにはそれだけで十分である。
今度はアデルが先頭に立ってパーティを率いる。中の配置を予め頭に叩き込んでおいた成果はすぐに発揮された。敵陣地の防御が薄いところを素早くたたき、正門(?)付近で押しつ押されつされている本隊の敵の背後から側面にかけてを一気に荒らす。アデル、ニルス、ミルテのそれぞれが武器を振るうたびにオーク以下雑兵の命が複数纏めて刈り取られていった。そしてがら空きとなったオーガの首をネージュが引きちぎったところで形勢が一気にこちら側に傾いてくる。更にそうこうしている間にやはり反対側の側面に辿り着いたヴェーラ隊も一気に攻勢に出る。
レナルドの怒号の元、兵士たちも最後の奮起と一気に攻めたてた。
そして戦況がほぼ決まったと思った時、ついに“それ”が姿を現した。
――上だ!
最初に気づいたのはネージュ、数瞬遅れて気付いたアデルが声を張り上げる。
「上だ!――竜人か……?」
一斉に集まった視線にネージュと同様の翼を羽ばたかせる男が歪んだ嗤いで応えた。高度は10メートル超、通常の武器ではどうやっても手が出せない位置にそれは浮いていた。
男の口が動きだすと徐々に巨大な火球が男の背後に形成されていった。そしてひと際大きくなったところで男が手を振り下ろすと、それはクラスター爆弾の如く複数の中型の火球に別れ、それぞれが空中で爆発すると、さらに無数の火の玉が周囲一帯、かなりの広範囲に降り注ぎ炸裂した。
ようやく辛勝、と思った状況が一変していた。竜人が放った火球――熱と光が消えると、そこに姿を現したのは地獄絵図だった。直撃を受けた複数の兵士、そして妖魔は焼け焦げ、或いは体に大穴が開いた状態で炭化し、火球の炸裂の外縁部付近にいた者は布地や革に引火した火を消そうと地面を転がりまわっている。
そんな中、まったく無傷だったのがヴェーラ隊だ。恐らく神官が高位のプロテクション系の魔法を使ったのだろう。一方、アデル達の方は、アンナが咄嗟に“防火”と思われる防火系の魔法を使ったお陰で多少の火傷は負ったものの、引火による追加のダメージは免れた。本来ならパーティに掛ける魔法だが、味方に広く薄く掛けた為、アデル隊の周辺数メートルにいた兵士たちも同様だ。しかしそれによって状況が好転することはない。竜人はさらに次の魔法の詠唱を始める。
「させるか!」
最初に反撃をしたのはヴェーラ隊の魔術師だ。同じ火炎系の魔法を竜人に向けて放つと、その竜人が生み出した火球とぶつかり合い、周囲に火の粉を降り注がせる。
「お兄様!」
アンナがそう呼びかけながらアデルに氷の槍を2本渡してきた。
アデルは早速そのうちの一本を竜人に向かって投げつけるが、竜人は一つ羽ばたくとその軌道から身体を退ける。するとお返しとばかり、中型の火球の一つをアデル達の方に向けて放った。
「ちっ!」
アデル達は楯を翳し、自分たちの身を守る。やはり引火はしないものの、直接的な熱により、肌が露出している部分は火傷特有のひりひりとした痛みが広がる。
竜人は高度を下げず、余裕の笑みで最初の大型の火球の次弾を用意するだけだ。
「どうする?」
それに業を煮やしたのはネージュだ。
「何か高度を下げさせる方法はないか?この状況じゃ逃げれなさそうだしな。最後は仕方ないが……1対1でやれるか?」
「竜化されると厳しいかも……」
ネージュのような珠無し、爪弾き者と、亜人の最上位種である、本来の竜人との差はそこだ。竜玉の魔力により、より強大な姿である竜に――勿論、本物の竜と比べると2~3ランクは落ちるのだが――に変身することができるかどうかの差だ。本物の竜よりはランクが下がるとはいえ、通常の人間が単独でどうにかできる相手ではない。
「高度を下げる手段はあります。どこまで効くかはわかりませんが……その隙を狙ってください。」
アンナが言う。どうやら手立てがあるらしい。
「風の精霊を呼び出して下降気流を巻き起こしてもらいます。召喚からなので少し時間が掛かるかもしれません……1分、いえ、30秒ほどあいつの気を引いてもらえますか?」
「「「「わかった。」」」」
アンナの言葉に、アデル隊全員が応えた。
「ネージュの飛行は最後の最後だ。ニルス、最初の注意をこれで引いてくれ。次に俺がこれで狙う。あとは適当に気を引くしかないな。アンナの方法がだめだったら、次の手段だ。ネージュが“翼を見せる”のはその次だ。」
「……わかった。」
アデルはニルスに氷の槍を渡す。ネージュは元々空中戦に興味がある様で、挑んでみたい様子だが、アデルの言葉に一旦引き下がった。まずは最初の策だ。
ニルスは一度バスタードソードを背中の鞘にしまうと、氷の槍を構え飛び出し、楯を翳しつつ竜人に接近する。竜人の方も気付いた様で、その槍の動向を見定めるべく少し距離を取ろうとする。
「食らえ!」
ニルスが氷の槍を投げると、竜人はやはり空中で己の位置を調整してそれを避ける。するとそこにアデルの槍が第2波として襲い掛かる。
「むっ!?」
鋭い射線に少しだけ怯んで見せたが、やはり難なく躱す。しかしアデルの槍はチェーンが括り付けられており、それを適当に振り回すことで、空中で無作為な動きを見せる。当然、それは攻撃と呼べるようなものではなく、そんなものを一発食らった所で何ともない筈だが、それでも気になるようで竜人の注意がそちらに向いた。そこに突如、強烈な下降気流が襲い掛かる。
「む?これは……風の精霊か!」
竜人が状況を理解した時にはその高度がかなり下まで下げられていた。ここぞとばかりに、ヴェーラ隊、アデル隊前衛が襲い掛かる。
最初に攻撃を叩き込んだのはヴェーラだ。ネージュにも負けず劣らずと言った感じの跳躍を見せるとそのまま竜人の腕を切り落とす。
「うぎゃあああああああああああ!?貴様っ!!!」
竜人が咄嗟に上空へ逃げようとするが、吹き下ろす強烈な下降気流がそれを許さない。そこへ、ミルテの太刀が振られると光が走る。どういう術かはわからないが、その光が竜人の纏っていたプレートアーマーを切断していた。さらにその内側から血が溢れ出している。致命とまではいかないが、浅からぬ傷を与えた様だ。
「貴様らぁ!許さん!」
竜人が懐から何かを取り出した。アデルも初めて目にする、本物の竜玉だ。直径は10センチ弱、まさに大人の握りこぶし大と言った感じの、瑪瑙のような模様の入った珠だ。
そして何か唱えた瞬間、竜人の身体を白い光が包み込み――そこに竜の姿が現れていた。
体長は10メートル弱と言ったところか。ウイングスパンも十数メートル、竜としては小柄だが、人族が下から見上げるならかなりの迫力だ。巨大化した身体と翼では、風の精霊の下降気流よりも揚力が稼げるらしく、竜の高度が10メートル付近まで上がる。
ミルテが付けた胸の傷は塞がっているようだったが、ヴェーラが切り落とした腕に当たる部分であろう、竜の前足が片方無くなっていた。
そこでアデルは一計を思いつく。もし、竜人にも人族同様の回復魔法の効果が現れるなら……
竜は口を大きく開くと息を、空気を大きく吸い込んだ。すると光の玉がその中心に現れる。先日キマイラ戦で見たものと同様、火炎か光熱のブレスの前兆だ。
「させるか!」
先ほどと同じくヴェーラ隊の魔術師が火炎魔法を放つ。今度は火球が竜の胴体に命中するが、竜は意に介さずにブレスの核となる光球を膨らませる。
「アンナ。高温から守る水の膜の様な物を張れないか?」
「……出来ると思います。」
「それをすぐに俺に掛けてくれ。ミルテ、さっきの光を飛ばすようなやつ、まだ撃てるのか?」
「撃てるぞ。」
「俺の予想通りなら、ブレスの後、一度高度を下げる筈だ。そこを狙ってくれ。」
「わかった。」
「ニルス、あいつがブレスを撃ったら俺はアイツの下に潜り込む、その間アンナを頼む。」
「承知。何をする気だ?」
「アイツの目の前で、腕を燃やしてやるのさ。人族同様、欠損部位の治療に欠損部位が必要なら、ブレスの後に回収に降りる筈。」
「……なるほど。」
「1人であまり無理はしないでください。」
アンナがそう言いながらアデルの周囲に水の加護を張る。
「これがうまくいかないとネージュが無理をすることになるからなぁ。」
アデルはそう呟き、ブレスが放たれるタイミングを待った。
竜人――竜が口を一層大きく開くと同時に、膨らみ切った光球を吐き出した。恐らく、あれを受ける兵士たちは生きては帰れないだろう。下手をすれば、遺体すら残らないかもしれない。そんな絶望的な光景を前に、アデルは竜の真下、ヴェーラに切り落とされたまま転がっている腕を目指して走った。
轟音と閃光が周囲を支配し、そして程なくして消える。そこには、直径6メートル程のクレーターが出現していた。20人くらいいたであろう、兵士たちの姿はどこにもない。ただ、抉られた地面の一部に、何かの水分がこびりついて蒸発した形跡が見て取れる。
その直撃を免れた兵士が、冒険者が、そしてレナルドが、さらにヴェーラ隊のほとんどがその光景に絶望の表情を浮かべていた。しかし、アデル隊とヴェーラだけは違っていた。
アデルの予想通り、竜人が腕の回収に高度を下げたのだ。
「だろうな。そう簡単に渡すかよ!」
背後から強烈な熱を感じながらもアデルは先にその腕を回収していた。これ見よがしにそれを見せつけ、距離を取る。
「グルァアアアア」
と、怒りの咆哮を上げ、竜がアデルに突っ込んで来ようとするが、そこをミルテの剣閃が襲う。
「!?」
強烈な殺気に竜人も気づき、慌てて高度を上げて回避する。先ほど一発浴びた分、その脅威はよくわかっているのだろう。ぎりぎりで回避行動をとれたためか、竜は後ろ足の付け根付近に深い裂傷を受けたが、致命傷は回避できていた。
竜人がアデルを狙うか、ミルテを狙うか一瞬迷ったところに、ヴェーラが強烈な気合と跳躍と共に斬撃を放った。
「グギャアアアアアアアアアア」
悲鳴にならない悲鳴を上げ竜はさらに高度を取った。腹面の胸部から脇腹に掛けて、見事な袈裟斬りが決まったのだ。
傷口から鮮血が溢れ出る。
「どうだ?」
「やったか?」
アデルとヴェーラが同時に声を上げると――
竜はさらに高度を上げて飛び去って行った。
最後まで生き残った者たちが呆然と見守る中、はっと我に返ったレナルドが大声で勝利を宣言した。
「蛮族の陣地制圧、そして竜人の撃退に成功した!我々の勝利だ!」
アデル、ネージュ、ヴェーラはその気になれなかったが、激戦を生き抜き、勝利宣言を掴んだ兵士たちはいっせいに雄たけびを上げた。
この時、アデルも、そしてヴェーラもまた一つの判断ミスをしていた。しかし、現時点ではそれに気付ける筈もなく、勝利宣言と歓声の波に押し流されたのであった。




