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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
88/373

本物

ブクマ&評価有難うございます。大きな励みになります。

懲罰部隊は当面お休みする模様。

 エストリアに到着して7日が経った。

 アリオンの話によると、ルイーセ達は3日間、暁亭で冒険者を募集したが、結局1パーティ4人しか応募せずに、総勢25名で昨日エストリアを発ったそうだ。

 暁亭から参加した冒険者はレベル23、アデル達とほぼ同等のレベルのパーティだ。余程の事でもない限りは生還できるだろうと言う。

 その間にアデル達は魔獣討伐の依頼を3つこなしたが、相手は野犬や狼が過剰な魔素に毒されて無理な肉体強化がされた程度の相手で、魔石もキマイラの魔石と比べると、10分の1以下の大きさ、価値にすると数十分の1程度の物を十数個回収できた程度だった。それでも魔獣の群れを2つ潰したとなれば合わせて3000ゴルトくらいにはなった。単体~数体程度ならレベル10前半もあれば対処できる相手だが、群れとなるとレベル20前後は必要であったらしく、依頼を出した村とアリオンからは十分な感謝を受けた。

 

「で、君達に2つ頼みたいことがあるんだが……」

 と、アリオンが切り出す。

「2つ?……何でしょう?」

「まずは場所を変えよう。」

 そう言ってアリオンは秘匿性の高い案件を扱う為の個室へと促す。何やら不穏な空気を感じつつ、アデル達はその部屋へと入る。

「少し待っていてくれ。」

 アデル達を部屋に入れそう言うとアリオンは近くの店員に何事かを告げる。するとその店員が2階へと上がっていくのが見えた。

「会ってもらいたい奴らがいてな。」

「ほう?」

 このタイミングで、イレギュラーで訪ねてきたはずのアデルに会わせたい人物とは……と、アデルが思案していると、先程何事か告げられた店員が2人の冒険者を連れて部屋に入って来た。でかい。

「この2人だ。」

 連れてこられた冒険者を前に、アリオンがそう言う。一目見てすぐにわかる。でかい。どうやら二人とも“本物の鬼子”であるようだ。

 この2人、とにかく大きかった。鬼の因子が発現したためか、身長が180センチメートルに届きそうというくらいのアデルよりも、頭半分~1つ分大きい。防具を身につけていない為、体のラインがはっきりとわかるが、男女1人ずつであるようだ。背も大きければ、手足も逞しくそして長い。女の方は出るところが出ているし、男の方は肩幅、胸板共にアデルよりも一回りは大きく厚い。

「えーっと……そちらも兄妹?」

 アデルの言葉に、2人の冒険者が互いの顔を見合わせる。その顔立ちが良く似ている。

「双子だ。」

 2人の内、男の方がそう答える。

 “鬼子”、“双子”それぞれがこの時代、世間からは忌避されやすい存在である。それがよりによってダブルで両取りとはなかなかである。そもそも鬼子同士の兄弟というのすら滅多に聞かないのだが。

「そりゃあまた……この地じゃさぞかし苦労しそうな……」

「…………」

 アデルが思わず口に出してしまった言葉に、双子は沈黙する。

「あー、失礼。他意はないんだ。と言うか、こちらもこの地域の“ソレ”に辟易として拠点を王都に移した身でね。この二人を王都に?」

 アデルの言葉に鬼子双子はさらに困惑を深める。“本物の鬼子”からすれば、ネージュが“鬼子ではない”ということが一目でわかるのだが、アデルはそこに気づいていない。

「こちらがニルス、こちらがミルテだ。“お前さんらに引き合わす上で”どちらも信頼できることは俺が保証する。」

 アリオンが言う“保証”の意味をアデルは正しく理解した。

「まあ、アリオンさんがそう言うなら。で、引き合わせてどうしろと。」

「一度パーティを組んでもらえないかと思ってな。」

「え?まあアリオンさんの“保証”付ならそれ自体は問題ないですが、クラスとレベルは?」

「ギルドの規程的にはどちらも《戦士:12》だが……実力はそれぞれレベル20中盤はあると思ってもらっていい。」

「……随分と差がありますね。どういうことですか?」

「さっき自分でも言っていただろう。実力があっても仕事がない。仕事がないと実績を積めずにレベルを上げられない。」

 この大陸における冒険者レベルは、個々の“実力”ではなく“査定”である。従って、いくら実力を秘めていても査定される機会がなければレベルアップは認められない。前にも述べたが、レベルは経験を積んでその場で上がるのではなく、店で査定されたところで認められるものであるのだ。

「なるほど。2人をつれて実戦をさせろと?」

「ま、それだけじゃないんだがな。」

「と、言うと?」

「臨時だとしてもパーティが見つからなくてな。」

「……俺達みたいに護衛に紛れ込ませて王都に送り込んであげればよかったんじゃ……」

「そう思っていたが、最近護衛の依頼が来なくてな。この辺りにくるのは専ら魔獣や妖魔の退治依頼ばかり、しかも、依頼人が大抵は小規模な村となると。」

「あー、アレですね。まさか正直に“鬼子お断り”なんて依頼票が来るようになったんですか?」

「いや、流石にそれはないが……」

「……まあいいでしょう。ただ本当にレベル20中半だとして、それに見合う依頼があるんですか?」

「ある。と、いうか入ってきた。」

「「ほう。」」

 アデルと共に食いついたのはネージュだ。

「魔の森の奥に蛮族の集落が発見された。規模は100超、中にはオーガが複数いることが確認されたらしい。」

「オーガ……ですか?」

 オーガとはアデルもこの地で戦った記憶がある。在りし日のヴェーラパーティと共に依頼を受けたものの、古い村のしきたりで村を締め出され、外で夜営している所を襲われ、貴重な物資をダメにされた因縁の相手でもある。しかし、オーガ単体で考えると当時レベル16付近のアデルとネージュの2人でも無傷勝利を収めた相手だ。戦闘終盤はヴェーラ隊の支援もあったが、当時はまだアデルに暗視付与の兜もなく、しかもギャラリー付でネージュが本気を出せないという不利な状況に配下に30近いオークやらゴブリンやらがいて苦戦させられたが。

「100超か。流石に単パーティでやれと言うのは。」

「無論だ。しかもオーガが複数いるという事は、それを従えている実力者がいるという事になる。」

「なるほど。で?」 

「今朝、領主様の名前で依頼票が発行された。国軍120名の討伐隊に、実力のある冒険者数名を同行させたいという。あとは……まあ、なんだ。ヴェーラ達の話は知っているか?」

「……先日ヴェルノと会う機会があったので、ヴェルノの知る範囲で一通りは。」

「そうか。今回はそのヴェーラ達も別ルートで参加するらしい。」

「ヴェーラ達?エスターとフォーリはつい先日……ああ、村連合代表の新パーティか。」

「ああ。なんでも今は“東の勇者”と呼ばれてるらしいぞ。実際、あいつらが討伐した妖魔は相当な数になっているらしいからな。」

「……冒険者ギルドとしては穏やかじゃないですなぁ。」

「ああ。今回も、領主様の依頼……で、討伐隊の隊長が俺の知り合いじゃなかったら余所を当ってくれと言うつもりだったんだが……いくら訓練は積んでいるとはいえ、実戦経験の少ない兵士120じゃ不安でな。まあ、隊長は俺の友人だから俺の紹介で、俺の仲間の店の所属だと言えば決して悪い様にはしないだろう。そこにこの2人を連れて活躍してきてもらいたい。」

「なるほど。確かに各方面を見返すつもりでやるなら面白そうではありますが……こちらの2人はそれでいいのですか?」

「もちろんだ。」

 アデルの問いかけにニルスが即答する。

「しかしこのタイミングでご領主からか。」

「このタイミングとは?」

 アデルの呟きにアリオンが反応する。

「いえ、先日騒ぎになった聖騎士たちが領主様に面会したものの、いい返事を貰えなかったと云う話を聞いたので……その直後に蛮族の集落とか、奴らが何かけしかけたのかな?と。さすがに勘ぐりすぎか。」

 テラリア人の考え方を良く分かっているのはやはり元とはいえ同じテラリア人だ。実は勘ぐりすぎではないのだが、それを知る者はここにはいない。

「けしかけるって……」

 アデルの“テラリア貴族嫌い”はアリオンもよく承知しているが、アデルの言葉にアリオンは呆れていた。

「臨時編成……で、アリオンさんのご友人が隊長を務めると。」

 アデルが小さく呟くと、周囲の視線が集まる。

「どうした?」

「いえ。」

 状況からして、アデルはここでネージュとアンナの“翼の事情”を明かしておく必要はまだないと判断し、はぐらかすことにした。

「年内に王都に戻れますか?あとこの2人、馬は?」

「期間的には問題ない筈だ。ちょうど良いくらいになるんじゃないか?馬に関しては……どうなんだ?」

「乗った事も乗る機会もなかった……」

 ニルスが苦々しく言う。

「なるほど。と、なるとどうするかな。5人になると2頭で分乗も出来んし、討伐隊の行軍は徒歩だろうし。目的地も森の奥になるとすると……俺らも歩くか。」

「いや、行軍には遅れない様にするから俺達に合せなくても問題ないぞ?」

「いや、特別な大荷物でもないし、森なら無理に馬を連れても負担になるしな。期間はどれくらいの予定ですか?」

「明後日から2週間だ。」

「2週間か、ちょっと長いけど馬は預かってもらっていいですか?」

「もちろんだ。」

 アリオンの言葉を受け、アデルはニルスとミルテを自分と同じ《戦士:24》と計算した計画を考える。

「テントとかそちらの準備はその明後日までに終わらせておいてくれ。こっちは今日からでも出れるしね。集合の場所と日時は?」

「明後日の朝8時、東門前に集合だ。“勇者サマ”とは森の入り口付近での合流となるらしい。――まあ、喧嘩を売る気はないが、売られたら買ってくれて構わんぞ?」

「……考慮します。」

 アリオンの言葉に今度はアデルは苦笑するしかなかった。

「あとで裏の訓練場を借りてもいいですか?」

「ん?別にかまわんがどうした?」

「いえ、集団戦になりそうですし、今の内に“お互いの基本戦法”くらいは確認しておこうかと。良いよね?」

 アデルはアリオンにそう答えつつ、後半はニルスに尋ねる。

「そうだな。その方がいいだろう。」

 ニルスにも否やはなかった。

「それじゃ、そのように話を進めるからよろしく頼む。」

 そう言い残し、アリオンは部屋を出て行った。

「あれ?」

 そこでアデルは一つ失態に思い至る。

「依頼の報酬とかの話聞くの忘れた。まあ、いいか。」

「「…………」」

 実はパーティリーダーとしてはあまり良くないのだが、今口にする者はいなかった。

「アリオンさんだしな。下手なものは寄越さんだろう。ひどかったら、ブラバドさんに告げ口して、こちらには2度と来ない様にするだけだ。」

 アデルの言葉に、何故か全員が納得したのだった。




 ニルス達に訓練――模擬戦闘をできる格好で裏庭の訓練場集合、と言ったらすぐに用意をして現れた。

 実力的には《戦士:20台中盤》、という2人は同じような鉄製の胴鎧とゲートル、ブーツを装備している。見た感じあまり高価そうなものではない。武器はニルスがやや大きめの剣、所謂バスターソードと呼ばれるものだ。状況に応じて片手でも両手でも使えるバランスの良い武器だ。洞窟等の閉所では少々使いづらそうだが、野戦ならある意味万能な武具だ。左手には長方形の大楯タワーシールドを持ち、防御にも隙はなさそうに見える。一方のミルテはアデルが今まで見たことのない武器だった。形状としては大型のサーベルというところか、やや湾曲した片刃の剣、太刀と言えば伝わる人には伝わるだろう。刀身だけで1.6メートルはありそうな、斬撃に特化した武器だ。左手にはアデルと同様の中型の凧楯カイトシールドを持っている。この大型サーベル、片手で使うのかよ。とアデルは驚きを通り越して呆れる。まあ、実際どれくらい使えるかはあとで確認だ。

「武器……どうする?」

 と、ネージュが声をかけてくる。

「まずは訓練用のものから始めよう。それぞれの動きの確認だな。そのあとにそれぞれの武器は自分たちで説明を兼ねて見せ合うとしようか。」

「りょ。」

 そう言うとネージュは倉庫から訓練用の長剣サイズの木剣を取り出す。アデルやアンナは片手槍、ニルスとミルテは大剣の訓練装備を取り出す。

「まずは2対2?3対2でもいいけど」

 とアデルが声を掛けると、ニルスが困った顔をする。

「今更だが……そちらの名前とクラス・レベルを聞いていないんだが。」

「あー、そうか。」

 そこでアデルは自分たちの紹介が全くなかったことに気づく。アデルも殆どアリオンとやり取りをしていたつもりでいたので尚更だ。

「俺がアデル、《戦士:24》になったところだ。こっちの小さい方がネージュ。《暗殺者:22》だから、甘く見ない方が良いだろうな。こちらがアンナ、本来は《精霊使い:18》だが、鍛錬して《戦士:14》には認められている。」

「……そうか。」

 ニルスが呟く。自分たちのアリオンの評価がその辺りだ。アデルとネージュは似たような実力なのだろうとニルスは考えた。

「まあ、3対2からで構わんよ。」

「分かった。じゃあ、そうしよう。」

 ニルスの言葉にアデルが同意するとそれぞれの本来の武器サイズに近い武器を持って対峙した。


 まずはにらみ合いから始まる。アデル、ネージュとも自分よりも人をたくさん見ているアリオンがレベル20台中盤というのだから、自分たちと同等以上だろうと警戒する。

 最初に動いたのはアデルだ。いつものように楯を前に翳す様に構え、槍の軌跡を予想させない様に走る。それに対応するのはニルスだ。1対1であれば、アデルが1~2発牽制の突きを入れて様子見をして仕切りなおすのであるが、今回は複数対複数だ。アデルが(自陣営では)大きな体で目を引くように大きな動きをし、相手の防御、或いは反撃姿勢を誘うと、アデルのすぐ後ろで気配を消したネージュが相手の裏を狙う。

 彼らの作戦は半分は成功したが半分は失敗した。

 アデルの最初の突きを楯で防ぎ、2段目の前にカウンターを狙おうと一歩踏み込んだニルスの鉄製のゲートルの隙間をネージュが狙ったが、それに気づいたミルテがそこで初めて声を発し、ニルスに防御を促す。

「ニルス、危ない、下からくるぞ!」

 落ち着いたハスキーな声だ。

「むっ!?」

 ネージュもミルテにバレない様に、邪魔されない様に、ニルスを挟んだ反対側面から仕掛け、ニルスの意識の外から攻撃に入れたが、ニルスがアデルへの反撃をキャンセルして大型の木剣を振り下ろしネージュの攻撃を阻害する。カウンターの心配がなくなったアデルは素早くさらに2発の突きを繰り出すが、大楯にしっかりと防がれてしまった。

 アデルの行動が一段落したところで、アンナがやはり下段からニルスに足払いを狙うが、こちらはミルテ側であるのでミルテにあっさりと反撃される。しっかりと反応し、小さな円楯で大きな木刀を受ける。が、完全に力負けをして楯を弾き飛ばされた。すぐに追撃がくるが、そこはアデルが文字通りの横槍をいれミルテに距離を取らせる。そのアデルに追撃しようとするニルスはネージュがしっかりと牽制している。アデルがアンナの円楯を後方に蹴り、アンナが拾えるようにすると、アンナはその位置まで下がって楯を拾いなおす。

 1ラウンド目は数のお陰で互角からやや優勢といったところだった。しかし、ミルテの一撃は重く、まだ見せてはいないが、ニルスのそれも同等以上だろう。軽装なアンナやネージュが下手に攻撃を受ければ、訓練用の武器とは言えかなりのダメージを受けそうだ。

「これが《暗殺者》か。恐ろしいな。」

 己の力量にそれなりの自信があったニルスが完全に意識の外から攻撃されたことに驚いていた。

 アデル達の方はほぼ見立て通り、アンナが一撃で楯を落とされたのが予想外だが、それ以外は想定内と言った感じだ。

「今度はこちらからだ。」

 言ったのはミルテの方だ。ミルテはネージュをフリーにはできないと、ネージュに的を絞った様だ。そしてその間にとニルスがアデルに仕掛けてくる。

 このあたりの実戦経験はアデルとネージュの方が上だった。アデルはニルスの攻撃の直前に、うまく牽制の突きを挟み込みニルスのイメージ通りの攻撃をさせない。攻めあぐねたところにアンナが見せの攻撃を差し込み、意識を少し向けたところでアデルが槍とは思わせない速さで振り下ろしから2段突きの連携を叩き込む。ネージュの方はわざとアデル達の戦いとは距離を取りミルテを引き付けると、その大振りを難なく躱す。本来の武器ならその隙に足を絡まさせ引き倒すところだが、訓練用の木剣なので、牽制する程度しかできない。

 結局そのまま一戦目は終始アデル達が優勢のまま押し切ることに成功した。アデルが察するに、ニルスたちは格下集団を蹂躙することは容易そうだが、同等以上の技量を持つ相手とは相性が悪いようだ。

「くっ……もう一度だ。」

 ニルスが悔しそうにそう言ったが、アデルはあえて拒否し“勝ち逃げ”を決めた。

「いや、これはここまでだ。他にやらなきゃらならん事があるからな。」

 ミルテの方も同様に悔しそうな表情をするが、それ以上は何も言わない。この状況で、他にやるべきことがあるというのならそれを済ませなければならない。

 アデルの方も、ここで悔しい思いをさせておけば、実戦で見返すべく、鬱憤を晴らすべく暴れてくれるだろうと敢えての意地悪をする。

「それぞれ特徴的な武器だからな。集団戦に備えて、理解を深めておくべきだ。」

 アデルの言葉に鬼子双子はいぶかしげな表情をするが、まずはアデルとネージュから始めるというので、大人しくその様子を見ることにする。

「ネージュ。飽くまでデモンストレーションだからな?」

「……」

 ネージュは何も答えず10メートルほどの距離を取った。

 最初はアデルの武器からだ。まずは楯を構えず、通常の状態で槍を右手で逆手に構えて投擲する。ネージュの反撃スイッチが入ってこない様に、敢えてネージュから1メートルほど狙いを外して槍を投げつけると、槍は15メートルほど飛んだところで柄の末尾に付けられたチェーンに引っ張られて止まる。アデルはそれを手繰り寄せると、今度は可変長な槍を長い状態でセットして見せた。通常時で1.5メートルほどの投擲槍ジャベリンが、2メートル強の長柄武器スピアに早変わりすると、それを初めて目にした双子は興味深そうに観察していた。

「次がネージュだな。」

 アデルが言うや否や、ネージュは一気に距離を詰めてくる。1秒に満たぬ時間で距離の半分を詰めると、次の瞬間には5メートルほどの所から跳躍する。そして一瞬で2~3メートルの位置に接近したところで、ネージュは(実は)自慢の蛇腹剣を縦に振り下ろした。蛇腹剣は撓るように伸び、アデルのすぐ脇を掠めると、地面を穿って元の長さに収束する。そしてそのタイミングから少しだけ遅れてネージュがその位置に着地した。ネージュはさらにノンステップで元いた方に跳躍しなおすと、3メートルほど飛んだところに着地し、低い姿勢から蛇腹剣を横薙ぎする。半径3メートル、前方210度程の範囲を刃の欠片とそれを結ぶチェーンが払う。これの意味は先ほど相対したミルテは正しく理解したようだ。あの時点で勝負はついていたのだと。

「で、次がアンナだな。まあ、こっちは分かりやすいか。アンナ。氷の槍を。」

 アデルがそう言うと、アンナはすぐに氷の槍を2本用意し、片方をアデルに渡す。

 アデルはそれを受け取ると、やはり10メートルほど離れたところにある、訓練用の藁製の案山子に投げつけると、それが見事に突き刺さった。

「こんな感じで、氷の槍をほぼ無尽蔵に用意できる。強度はまだまだで、銅や鉄といい勝負、鋼が相手だとすっぱり負けるかもしれんがね。」

 アデルの説明が終わると、双子は興味深そうにそれらの武器を手に取って振り回してみた。

「なるほど。扱いにはかなり慣れが要りそうだが、少し戦えばすぐに覚えるか。」

 ニルスがアデルとアンナの槍を、ミルテがネージュの蛇腹剣を手にしてみながらつぶやく。強度が気になったか、ニルスがアンナの氷の槍を両手と太腿で折ろうとし、2~3の試行で折ってしまうと少々渋い顔をするが、アデルは苦笑して、「あの腕力と鉄のゲートル相手に2~3回持つならむしろ悪くないと思うがな。魔力を濃くするのか、核か媒体を用意するか……まあ、水の精霊と相談だな。」と言うと、表情を戻し、「そうなればお兄様にも有用な筈です。その辺は是非一緒に。」と答えた。

「……だな。」

 アデルとしても、回収の必要なく投げまくれるのは実に有用だ。アデルはもう一本氷の槍を用意させ、試しに“火力付与エンチャントウェポン”の魔法を付与して再度ニルスに渡してみると、今度はなかなか折れない様だ。

「「「ほほう。」」」

 アデル達3人が声を揃える。

 多少魔力効率は悪くなるが、これなら実用レベルになるかもしれない。アデルは水、ネージュは氷の精霊とは相性が良いという話であるし、機会があれば契約し、またアデルはアンナにも“火力付与エンチャントウェポン”を教えておく必要がありそうだと考えた。

「次はそっちの得物を見せてくれ。それをどれくらいの力と速さでぶん回すのか見ておきたい。」

 アデルがそう言うと、双子はお互いに頷きあい、武器だけを持って対峙すると演武を見せる。お互い全力でやりあっているわけではないが、その武器を振るう力に手抜きはない様だ。

 まずは、片手でそれぞれの武器を振り回し打ち合う。まるで熟練者が片手武器を振り回すが如く、その大きさからは想像もできない速さと正確さで打ち合っているのがわかる。

 次に二人は両手に持ち変えると、今度はその一撃一撃から数メートル離れた位置まで空気を切る音が聞こえてきそうなくらいの力強い振りを見せる。二人はアデルが氷の槍を投擲した案山子と同型の案山子に向き合うとそれぞれ上段から振り下ろして見せる。

 ニルスのバスターソードは案山子を固定する太い木の軸ごと粉砕し、ミルテの太刀はそれを綺麗に真っ二つに裂いて見せた。

「こりゃあまた……」

 アデルとネージュは興味深くその痕跡を確認すると、それぞれの武器を手に取ってみる。アデルとしても腕力にはそれなりの自信があるものの、やはりその重量は重く、“武器に振り回される”という程ではなかったが、両手持ちでも一度振り下ろしたらすぐには次の攻撃には移れそうにない、そんな重さがあった。ネージュとアンナは両手で持ちあげるのがやっとと言ったくらいだ。

「まあ、これならオーガが率いる中隊の一つ二つくらいは問題なく行けそうだな。」

 アデルがニルスに武器を返しながら確認するように言うと。アンナを除く4人は頷きあった。


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