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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
75/373

直下

 鷲獅子の翼亭に辿り着いたアデル達はまず言われた通りに受付に依頼票の控えを持って問い合わせると、すぐに現地の一つの冒険者パーティを引き合せてくれた。

 男3人、女1人の4人組パーティである。全員年齢は20代前半といったところか。そして男女の1人ずつは“猫人ウェアキャット”であるようだ。どちらも軽装で、一目でわかる特徴的な耳と尻尾が付いている。

 ネージュとアンナ、それに“猫人”に限ればアデルもだが、亜人を初めて目にしたのか、その部分を少々まじまじと見つめてしまっていた様で、後列にいた2人が少し不快そうな表情を浮かべる。

「他国の者だったな。悪いがあまりじろじろ見ないでやってくれ。」

 人間らしい男がリーダーだろうか。アデル達にそう言ってくる。

「失礼。こちらとしては他意はない。いや――“狐人”がいないのは残念といえば残念かね。」

「狐人?」

「昔、仲良くしてたのがいてね。」

「……そうか。」

 敢えて過去形にしたことに気づいたか、リーダーと思しき男は静かに呟いた。

 アデルとしても、あんたの隣でアンナをガン見してる男を何とかしろと言いたいところだがそこは飲み込む。どうもアンナにはドルケン人の目を引き付ける何かがある様だ。

「商人の道案内・護衛と聞いていたのだが?」

「悪いね。正確には商人の小間使いの道案内・護衛の様らしい。」

「いや、貰える物さえもらえればこちらは問題ないがね。」

 レベル的にはアデルと同等付近だろうか。ナミの言葉からして恐らくはアデル達よりも安く雇っていそうだと感じる。アデル達が断った場合は商会の誰かが回されたのであろう。その場合でも、レベル30手前の者が選出されたであろうから、ほぼ仕事は道案内だけになりそうではある。ただ、先導してもらうことになるため、危険感知能力が高いと言われる獣人系の者が雇われたのだろうと推測できた。

 あちらも、特にその“猫人”達はそれを敏感、或いは本能的か――に感じたらしく、主にネージュに警戒感を抱いている様子だ。

「なるほど。こちらは逆に安心できそうだ。」

 アデルが少し苦笑してそう言うと、男が怪訝そうな視線を向けてくる。

「どういう意味だ?」

「そちらの2人はすぐに気付いてくれたみたいだけどね。うちで一番“やんちゃ”なのはコイツだ。」

 アデルはそう言いながらネージュのフードを外し、髪のお団子をはじいて見せる。

「冒険者……だよな?レベルは幾つくらいなんだ?」

 身形からしてアデル達も冒険者であると気付いたのであろう、男がそう尋ねてくる。。

「俺が《戦士:23》、こいつが《暗殺者:21》、こちらはまだ《精霊使い:11》だ。そちらは?」

「こちらは全員メインは《戦士》だ。俺が20、この2人が18、その子は17だが、《斥候:15》を兼ねている。しかし驚いた。《暗殺者》までいるとなると……俺達必要か?」

「冒険者レベルの基準て各国共通なのかね?どちらにしろ、俺達はこれから向かう道、道中の動物や魔物等の知識が全くないからいてくれないと非常に困る。予想される危険を予想できるってのはかなり大きいと思うが。」

「そうか……そうだな。わかった。宜しく頼む。」

 男はそう言うと握手を求めてくる。当然アデルは快くそれに応じた。

「急ぐらしいな。簡単な自己紹介だけしてすぐに向かおうか。」

「ああ、助かる。俺はアデル。レベルは今言った通りだ。俺とネージュは《騎手》を12と10で持っている。ネージュってのがコレ。こんな見た目だが《暗殺者:21》は事実だ。で、こちらがアンナ。」

「よろしくお願いします。」

 アデルの紹介に合せ、アンナが頭を下げた。ネージュは既にフードを被り直し、微動だにしない。

「俺がアントン、こちらがバート、そしてコニーとデレシアだ。こちらも全員《騎手:12》は持っているので馬の移動は問題ない。まあ、持ち馬でなくてギルドの借り物だがな。」

「その辺はドルケンも同じか。うちはあとで馬も紹介しないとな。片方はギルドの借り物なんだが、もう片方が持ち馬でね……いかんせん歳で、しかも移動用じゃなくてな。魔法のフォローは入れるがそいつに合せてもらうことになる。」

「歳?」

「俺より長生きだ」

「そうか……」

 アントンはそう呟くと、少しだけ表情が緩んだ様に見えた。




 ドルンの門は問題なく通れることは昨日既に実証済みだ。アデル達は南門を出た所でアントン達と合流し、早速にプルルを紹介した。

「確かに年季の入ってそうな馬だな。まあ、走れるなら問題ない。急ぐのは俺達じゃなくてあんた達だからな。それに合わせるよ。」

「そうしてくれると助かる。」

 アントンはプルルを一目見てそう言った。アントン達も今回は依頼の内容から判断し、馬を2頭用意してきたようだ。アデルはアンナの疲労回復の魔法を超簡単に説明し、それぞれの馬に掛けさせた。

「初めて聞く魔法だね。」

 デレシアがそう言う。

「本人含め、俺達もほとんど詳しくなくてなぁ……」

 アデルがそう呟くと、他の3人は「「「え?」」」と声を上げていたが、デレシアの感想は違うものだった。

「ちょっとそれ、私にも掛けてみてほしい。折角だし試してみたい。ペースは合せるから心配ない。」

 デレシアの言葉に、アントンは少し困った表情を浮かべる。

「済まんが掛けてやってくれるか?」

 アントンがアンナにそう言うと、特に断る理由もなくアンナは快諾した。

「ふむふむ。特に変わった様子は感じないけど……まあいいか。」

 そう言うとデレシアは馬に乗らずに南へと向かって走り出した。

 速い。というか、かなり速い。そうなると黙っていられない肉体派冒険者がうちもう一人……

「アンナ。」

「待てや。」

 それに対抗しようとアンナに魔法を要求するネージュをアデルが止める。

「お前があれに付いてくとプルルが困るからな?」

「……むう。アンナも早くプルルに慣れるべき。」

「善処シマス。」

 アンナはただ苦笑するだけだった。


 その後、すぐに移動を開始した彼らは改めてデレシアの脚力に舌を巻いた。

 加速力は馬以上、巡航ペースになってもプルルと何ら遜色はない。むしろまだ余裕がありそうだ。10分ほどそのペースで少し先行した所でデレシアはようやく足を止め、アントンの馬の後ろに跨った。仕事による評価の回数がまだあまり多くないせいか、レベルこそそれほどではない物の、斥候としての能力はかなり高そうだ。あの速度で10分以上も走られたら、普通――いや、ある程度経験や修行を積んだ者でも追いかけるのは困難だろう。

「うーん。いつもと違う様な、そうでもない様な?」

「疲労軽減でなくて、疲労回復の様ですから。少し休めばまた走れるようになると思いますよ。」

 アンナがそう説明すると、デレシアは「そうなのか。」と曖昧な返事をする。それを見てネージュが体力と巡航距離は私の方がありそうだなと心の中でほくそ笑むとそれを敏感に察知したのか、「む?」という表情を向けた。

(ネージュと同じタイプか。)

(デレシアと似た性格なのか。)

 2組のパーティリーダーはほぼ同時にそれを感じ取ったのである。


 歩み――馬の速歩だが――は更に昼まで順調に続いた。本来なら1度休憩を取るべきペースであったが、疲れた様子を見せなかったのでそのまま走り続けさせてしまった。元々体力は人間よりもはるかに高い馬である。もしかしたら疲労の軽減・回復の効果もその基礎体力に乗算で効果が乗るのかもしれない。などということをアデルは考えつつ、馬の足を止めさせ、自分たちも保存食を齧る事にした。

「少し緩めのペースとは言え、ここまで持つとは……結構いい魔法なのかもしれんな。」

 アントンが感心している。

「うん。体力が有り余る感じ。」

 人の中では唯一魔法を受けたデレシアがそう言う。

「精霊魔法か……詳しくはないが、ドルンの冒険者ならパーティに1人は欲しい感じだな。」

「ドルンの冒険者ってどんな感じなんだい?主に護衛?」

 呟くアントンにアデルが尋ねた。

「護衛もあるにはあるが、そう多くはないな。主に魔獣の討伐と山野草の採取だ。どちらも急峻な山を登る事になるからなぁ。この魔法の有無は大きそうだ。」

「なるほど。魔獣ってどんなのを狩るんだ?ワイバーンは冒険者には回ってこないって聞いたが。」

「ワイバーンはなぁ……1~2体ならともかく、群れを狩るのは冒険者じゃ無理だ。ど安定の盾役数名と優秀な射手が多数必要になる。1~2体としても番いだと俺達じゃちょっとキツいな。」

「番いだと違うってこと?」

「普通のワイバーンはただ一緒に群れているというだけで、連携も何もなく勝手にお互いの邪魔にならない様に暴れるだけなんだが……番いとなると相手を尊重し守ったり連携をしようとしたりしてくる。雄が囮になっているところに雌が火を噴きつけたりとか、ワイバーンなりに少し考えるようになるんだ。」

「なるほど……しかしそんなに遭遇もしないのか。他にどんなのがいるんだ?熊あたりが出るなら狩ってみたいところなんだが。」

「王都付近は飛竜騎士団とグリフォンが間引きしてる様だからな。ただ辺境の方に行くと一番気をつけなきゃならん。熊は……ドルケンだと、この時期はもう滅多に出ないだろうなあ。」

「そうなると鹿?」

「鹿も熊も冒険者と言うよりは猟師の仕事だな。冒険者に討伐依頼が回って来るのは、妖魔、蛮族、魔獣。コカトリスとかハーピー、一番厄介なのがカトブレパス辺りかな。遺跡が多いせいか、キマイラも時々出てくるが、あれはもっと上のレベルじゃないと難しいだろうな。」

「キマイラが多いのか……」

「いや、多いって程じゃないけどな。多かったら逆に地方で生活なんて恐ろしくて出来んさ。あれはちょっとした災害級だしな。」

「なるほど……」

 キマイラと言えばレベル20中盤のパーティにちゃんとした対空能力と治療能力がないときついという話だ。そんなのが頻繁に現れるようだと流石に生活を根付かせるなんて厳しい。

「魔石が多いのはその辺りのせいか。」

「まあ、他国と比べると遺跡も多いし、自然が多くて“魔素マナ”も多い様だからな。そのせいか魔獣や魔獣化した大型動物には事欠かない感じか。」

「そうか……機会があれば一回武者修行に来てみたい所だな。」

「ふむ。」

 アデルの呟きにネージュが反応する。

 実際に目にしてみないと断言はできないが、アンナが自衛出来る様になれば、アデル達にとってキマイラやそれよりも少し低い危険レベル帯の魔獣なら良い稼ぎになりそうだ。ただ対空攻撃は殆どネージュ任せになるだろうし、やはり“飛べる”騎獣、或いは魔具は欲しいなと思ってしまう。

「ワイバーンとか買えないもんかねぇ。」

 アデルが呟くとアントンが返す。

「飼おうと思えば飼えるだろうが、馬の何倍も食うらしいぞ?成体はドルンの騎手ギルドに行けば借りるなり買うなり出来る様だが、売値も馬の比じゃあない。」

「まあそうなるよなぁ。魔具はもっと高くなりそうだけど。」

 ナミにそちらの紹介も頼んでみれば良かったとアデルは思ったが、もし入手できるようならカイナン商事ですでに何機か運用しているか。との考えに至り、そう簡単に何とかなる物ではないのだろうと察した。



 昼を挟み、一行はさらに山を南に下った。アンナの魔法のお蔭でアントンの予想よりペースが速く、少し頑張ればその日のうちに麓の町まで行けそうだと言うのでプルル達には頑張ってもらうことにした。

 道中、幸か不幸か魔獣等との遭遇はなく、アントンの見立て通り、真っ暗になる直前には麓の町に到着する。その辺りから、アデルはアンナの表情がいつもより崩れている事に気づく。

 アントン達と同じ宿を取り、馬を厩舎に預けると早々に部屋に引き上げる。

「どうした?また調子悪いのか?」

 アデルが気遣うようにアンナに声を掛けると、アンナは困惑の表情で

「この町、なんだか見覚えがあるみたいです。でもあんまり良く思い出せなくて……」

「この町に?そう言えばドルケンに縁がある様な事を言っていたような気がするな。10才までドルケンにいたってことか?」

「そうかもしれません。でも何でこんなに覚えていないのか。覚えていない筈なのになんだか息苦しくて……」

 ヴィークマン伯爵の城下町以降はあまりこのような表情をする事はなかった所を考えると、やはりこの町或いはこの町並みに原因がある様に思える。

「まあ、過ぎた話だ。無理に思い出す必要はないだろう。明日の早朝には発つしな。」

「そうですね……」

 アデルの言葉にもアンナの表情は冴えない。町並みに見覚えがある。記憶が薄いにもかかわらず息苦しく感じる。即ちこの町で過去に何かあったのではないかと窺える。亜人の差別すら少ないドルケンで翼人が差別を受ける事はないとは思うが……逆か。もしかしたら誰かに身柄を狙われたのかもしれない。どちらにしろ、この町にいる間はアンナは部屋から出る必要が無いようにしようとアデルとネージュは申し合わせた。


 アデルはアントン達と一緒に夕食を取った。ネージュとアンナはアンナの体調が優れないからとネージュが自分とアンナの分の夕食を部屋に運び部屋で取る事にした。アンナは冒険者レベル的に周りと比べて極端に低かったせいか、アントン達は「少し無理をさせてしまったか。」と別の方向で心配をしてくれた。

「標高差が激しい場所を移動させると通常より疲弊するらしい。本当は低いところから高いところに一気に登ると起きやすいらしいけどな……」

「そうなのか。そう考えるともう少しペースを緩めても良かったのか。まあ、自分で回復魔法も扱えるし、一晩休めば大丈夫だろう。」

 気圧のこと、況して高山病の知識などは流石にアデルも持っていなかった。アントンも具体的な知識でなくて、体感や周囲の話しを何となく聞いていた程度である。とはいえ、アンナを引きこもらせるには都合が良いので話を合せた。

 ネージュとOHANASHI-AIしたかったらしいデレシアは少し残念そうな顔を見せたが、夜営するときはテントを設置した後、鍛練を始めるから混ざってみると言いと伝えておいた。《戦士》+《斥候》であるデレシアにしてみればその複合上位クラスである《暗殺者》には大いに興味があるのだろう。

 その後、翌朝の予定を確認し合い、それぞれの部屋に戻る。アデルはネージュとアンナの夕食の食器を食堂に返すと、明日早朝の予定を伝える。と、いっても起床時刻位なものなのだが。

 アデル達が借りたのは、浴槽つきの2人部屋である。ネージュは早速水を貯めると、ドルンで買った“急速湯沸し器”の魔具を試してみる。どうやら“急速”は誇張ではなかったらしく、ご機嫌で浴場へと消えて行った。

 程なくしてアンナと入れ替わり、最後にアデルが入浴する。アデルの故郷の村ではなかなか味わえなかった贅沢がほぼ当然の様になった今日この頃にアデルは改めて感慨を深くし、急な旅の疲れを癒した。

 その後特にする事もなく就寝する。普段なら2人部屋を借りた場合はアデルとネージュ、アンナに分かれてベッドを使うが、今日はアンナがアデルと同じベッドを希望すると、ネージュは何事もなくその場を譲る。アデルとしては先日――ヴィークマン領での一件以降、少々意識してしまう様になったが、アンナが精神的に不安定な時は受け止めるべきとそれを迎え入れた。

 急な目的地の変更なので大丈夫だとは思ったが、アンナの様子もあるし、今夜は特に警戒する様にとネージュに伝えたが、その夜は覗きも闖入もなく明かすことができた。



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