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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
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勇者の内情

 作戦会議が終わり、エスターとフォーリがそれぞれの家に戻ったあと、アデル達はヴェーラの家族と共に夕食をとった。

 ヴェーラの家族はヴェーラとヴェルノとその両親の4人家族のようだ。この手の村にしては比較的小さな家族と言える。ヴェーラの両親はネージュの髪色に驚きを見せたが、こういう髪色もあるんだろうと思うことにしたようだ。実際は人族にはありえない色合いなのだが、その事実は彼らの持つ情報の中にはない。『ない事を知らない』のだ。

 ヴェーラに確認した上で大丈夫だろうということで“鬼子”であると伝えた。最初はやはり眉を顰めたがヴェーラがエストリアでの出来事を話、“先輩”として改めて紹介するとそれ以上の詮索はしてこなかった。

 夕食後、ヴェーラ達は水桶とタオルで体を清めた後、明日の準備をすると言うことで自分達の部屋に戻る。アデル達は普段は物置か何かにされているのであろう“客間”に通された。ベッドはないが、一組の布団が用意されている。一組の。

「いや、まあエストリアでも一人部屋借りてるけどね……」

 アデルはあとは広げて敷くだけにされている布団をみて苦笑する。

「兄妹だからね。仕方ないね。ヴェーラ達も一緒の布団で寝てるのかもね。」

 溜息交じりの口調でネージュが呟くと、部屋の入り口がノックされた。

「どうぞ。」

 アデルの返事を待ってドアが開けられると、水桶を持ったヴェルノが入ってくる。

「寝る前に体を拭いておいてくださいね。終わったら桶を母に返してください。」

 宿の物と比べても1~2ランクは下がるであろう品質の布団だが、清潔に保たれている。流石に野宿を含む旅を終えてそのままというわけには行いないようだ。

「有難う。水はどこに捨てるんだ?」

「窓から外に捨ててくれれば充分です。」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかい?」

「なんですか?」

「あー、言いにくい話ならいいんだけどね……“勇者”って何の事?」

「あー……」

 ヴェルノは顔を少ししかめると、仕方ないというような表情で語る。

「“村の巫女”の話はしましたよね?その巫女の啓示です。兄はこの村を救いいずれ旅に出て魔神を討つとか……笑わないで上げてくださいね。」

「村を救っていきなり魔神討伐なんだ……そりゃあまた。」

 アデルも苦笑するしかない。蛮族やら蛮王やらならともかく、いきなり魔神ときたか。魔神と云えば伝承のみに存在する、強大な魔力を持ち、天変地異を起こし世界に破滅をもたらすという存在だ。

 尤も一言で魔神と言ってもピンキリらしく、存在するだけで災厄と言われる存在から、人の心につけこみ人を影から操り周囲に災禍をまき散らす存在など様々伝えられているが、共通してどれも本来この世界の物ではなく、この世とは相いれない存在ということだ。もちろん並み――それ以上であっても――冒険者の手におえる存在ではない。

「まあ、この村の巫女さんの啓示は絶対的らしいしな。そう言われたらそう呼ばれてしまうのか。」

「……何でもかんでも信じていいものかわかりませんけどね。」

「あら?そうなの?」

「ここだけの話ですが……フォーリさんが神聖魔法を扱えるようになってから少々発言がチグハグしてる気がするんです。フォーリさんが兄さんを支えて魔神と戦うみたいな感じの話になって……

 フォーリさんはエスターさんと仲がいいというか、エスターさんがフォーリさんを……ね?」

 困った表情でそういうヴェルノ。

「ああ、うん。エスターはそういう雰囲気だもんね……うーむ。まあ、確かにあんまり外で口にしないほうが良さそうだねそれ。」

「ええ。一時に神官が2人存在するということがこの村にはなかったらしくて……」

 言外にだが、フォーリとヴェーラをくっつけて村から放り出したいというニュアンスを感じる。

「巫女さんの方は生まれたながらの巫女なんだっけ?」

「いいえ。成人(15歳)と同時に発現するそうです。」

「フォーリの方は?」

「そう言えば……成人より前からだった気がします。」

「巫女とは違う……何かあったんだろうかね。」

「そこまでは……」

「まあ、ありがとう。事情は分かったから、あまりみんなの前で意識しないように気を付けるよ。」

「そうしてください。ではこれで。」

 ヴェルノは丁寧に頭を下げて退出する。良くできた妹だ。羨ましいぞ。

「さて……」

 そう思いながら自分の妹を見るとすでにレザーアーマーを脱ごうとしている。体を拭くならそうしなければならないのだが、その後どうするかね。薄汚れたレザーアーマーで布団に入る分けにもいくまい。

 というか、夜着は用意されてないことに気付く。自分の分もネージュの分も替えの下着は用意してあるが、基本的にネージュは人族の肌着を嫌う。本人が気にしない上に、残念ながらアデルのストライクゾーンからも大きく外れているため、宿の部屋ではほぼ半裸で寝ても大した問題はないが、その姿を他者に見られるわけにはいかない。

 部屋には一応閂状の鍵が付いており、内側から鍵をかけ、カーテンをしっかりと閉める。

 ネージュはすでにレザーアーマーは外したがそれ以上の事はしていない。宿でも同じように体を拭くときは基本的にアデルが服を脱がし体を拭くことになっていた。ネージュ曰く『そのような習慣はない。』そうである。今のうちはいいが、そのうちもう少し成長して体に起伏がついてきたらどうする気なのかね……と思いながら肌着を脱がし、体を拭いてやる。習慣がないと自分からすることはないが、アデルがしてやる分には特に抵抗するわけでもなく大人しく座るのである。嫌いじゃないらしい。

 ネージュの体を一通り拭き終わり、自分の体も拭き終えたところでアデルは窓の外に水を捨てる。

「桶返してくる。大丈夫だとは思うが、布団敷いて中に入ってろ。翼を見られるなよ?」

「ん。わかってる。」

 アデルが指示を出すとネージュは素直に従う。布団を広げるとそのまま中に入り目を閉じる。必要になれば夜更かしやら徹夜やらもこなすが、ネージュは基本寝たいのだ。歳を考えれば当然ともいえるが……むしろ今までが過酷すぎたのだ。もちろん人族の価値観と、戦闘狂集団である妖魔・蛮族のそれでは大きく異なるのだろうが、成人前から酷使されるというのは普通ならない筈だ。尤もその過酷さの片鱗を明日見ることができるとはこの時にアデルはまだ気づけていない。


「水と桶有難うございました。」

 アデルは桶をヴェーラの母に返し礼を述べる。

「いえいえ。せっかくのお客様に大したおもてなしも出来ませんで申し訳ありません。」

「いや、充分ですよ。俺の村なんてここよりもっと小さな田舎でしたし。」

「そうでしたか。それで人見知りのヴェルノもすんなりと馴染んだのしょうかね?」

「え……、ああ、そうなんですか。」

(ヴェルノが人見知りだと!?……いや、確かに初日と二日目くらいはほとんどしゃべらなかったか……)

 アデルがここ数日を思い返していると、母親から言葉を掛けられる。

「あの2人……いえ、4人をお願いしますね。“勇者”と祭り上げられたせいか、責任感というか、気負いというかが多すぎて……私達としては心配なのです。」

「『祭り上げられた』ってことはやっぱり何かしらの思惑があったんですか?」

「いや……そういうわけじゃないんだけど。親としてはうちのにそんな大それた才があるとは思えなくてね。うちよりはまだエスター君の方が向いてる気がしまして。」

 母親の表情に少し暗い影が落ちた気がしたのは恐らく気のせいではなかっただろう。


時系列的に切り離したほうが良いと思ったので短くなりました。

次(翌日部分)はおおむね出来上がっているのですぐ続くと思いますです。

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