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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
69/373

不審者と不信

微エロ注意?苦手な方は前半読み飛ばしたほうがいいかもしれません。(虜囚当時のアンナのトラウマがフラッシュバックします。)

一応、R15のガイドラインは3度ほど読みなおしましたが……


 ベッドの中で不意に自分以外の者の気配を感じアデルは目を覚ました。


 謁見の後、体調を崩したアンナを連れ宿に戻る。アデル達に宛がわれた部屋は風呂なしの4人部屋。戻ったところでお湯を貰いそれぞれ体を拭いた後、アデルはアンナに自分に回復魔法を使うようにさせたものの、肉体的な物でなく、精神的な問題であったため“回復・大”でも効果は得られなかった。その後も特に部屋を出てすることもなく、明日の出発に備えてゆっくり休もうとしたところである。

 時間は夜遅く、夜半前と言ったところだろうか。


 仰向けに寝ていたアデルの目の前に鎮座していたのは小ぶりな白い尻だ。数秒、自分が寝ぼけているのだろうかと思ったが、続く強烈な感触にアデルは現実へと引き戻される。

 尻を覆うように白い翼が見える。アンナだ。

「おい。」

 アデルは軽く尻を叩き声を掛けると、気取られたことを察したか一層強烈になる感触に慌てて腰を掴んで引きはがし、自分の身体を引き抜く。

「何やってんだ?」

 暗闇の中、浮かび上がる姿にそう声を掛けると、アンナが今にも泣き出しそう顔で言う。

「山賊に教え込まれました。男の人を喜ばせるならこうしろと……」

 アデルは改めて山賊どもの業の深さを思い知る。

「どうして急に?」

「伯爵でしたか?あの人の目、山賊のアジトで私を初めて見た時の賊の目にそっくりでした……最後の質問……つまりはアレですよね?」

 ヴィークマン伯爵の最後の質問のことだろう。意訳すれば危険な冒険者稼業をせざるを得ない程に困っているのかと。

「もし、困ってるって言ってたらパトロンになろうと言い出したかもしれんが……お前、ちゃんと否定したよな?」

「はい。でも……」

 そこでアンナは完全に泣き出してしまう。

「捨てられるかも、売られるかもと思ったらもう他に何も思いつかなくて……」

 アンナの過去を思い起こす。平均と比べてもそれほど長くは経過していないアデルの人生よりも更に短い期間の内に、親に捨てられ、里親には実質的に売られたのだ。人間不信になるのもわからないでもない。

「そこまで信用ないかね?」

 アデルは憮然とした表情を見せてアンナの肩を掴む。

「いいえ……でも……でも……」

 過去のトラウマが一斉にフラッシュバックしたのか、それとも不安に押しつぶされそうになっているのか、声のトーンが徐々に上がっていく。

「大丈夫だ。いきなり放り出そうなんて真似は絶対にしないから。」

 アデルは枕元のランタンに備え付けのマッチで火を灯すと、右腕でアンナの細い腰を抱き寄せ、左腕で頭を覆うようにし、自分の胸へとうずめさせる。

 その瞬間、何者か別の強烈な気配にアデルが反応する。

 しかしそのアデルよりも早く反応した者がいた。ネージュだ。

 ネージュはいつの間にかベッドの中に隠していたミスリルショートソードを手に取ると文字通り飛び起き、翼を展開し一瞬で3m弱の高さの天井まで上がと、木の板である天井を一突きする。天井には何かで繰り抜いたような小さな穴があった。もし今夜開けられたのだとしたらそれに気付けなかったのはアデルの失態ともいえる。

「……やったか?」

 アデルがベッド脇の槍に右手を伸ばしながら尋ねると、ネージュは静かに頷く。

 ネージュは机を動かし乗りあがりると、部屋の隅の天井の板を外して確認する。灯りは無いがネージュには何の問題にもならない。何かを見つけ、その隙間に入り込もうとするネージュにアデルは安物のタオルを投げつける。ネージュもその意図に気付いた様で、それを手にすると、翼を折り畳みその小さな体を天井に潜り込ませると、何かをゆっくりと引き摺る音が聞こえる。

「ネズミはネズミに任せよう。」

 ネージュは戻ってきてそう言うと、回収した賊の武器と何かのタグの様な物をアデルに渡す。タグはアデル達が持つ冒険者の店のタグによく似たものだったが、冒険者の物とは違い文字ではなく記号が刻まれている。少なくとも冒険者用のタグではなさそうだ。

 屋根裏の不審者とは言え、死体が出てくると間違いなく不本意な騒ぎになるだろう。明日朝早めに出発するまで、アデル達は何事もなかったことに決め込む。

「アンナ。あのあたりの天井の色を同じ色で上書きできるか?」

 アデルの問いに一瞬アンナは意味を理解できなかったようだが、一呼吸置くと、「出来ます。」と言ってランタンの灯りで色を確認したうえで色を上書きした。

 結局その夜は3人ともほとんど寝ることが出来なかった。




 不審者の侵入を受けて、夜明け前にアデルはナミの部屋を訪ねた。

 ナミの部屋はアデル達の部屋よりも小さい個室だった。夜明け前の来訪に流石のナミも当初は露骨に不快な表情を示したが、天井裏に不審者が現われたと伝えるとアデルを中に迎え入れた。

「不審者?」

「ただの夜盗ではないと思います。これを。」

 アデルが回収したタグを見せるとナミの表情が険しくなる。

「こりゃあ……賊はどうした?」

「アンナの裸を見られましたので……ネージュが始末しました。部屋を特定されにくい場所に移動したうえで、天井には色を誤魔化す魔法を掛けておきました。まあ、天井裏側から調べればすぐに特定できるでしょうけど。」

「そうか……迂闊だったね。」

 この“迂闊”が何に対してなのか、アデルには図りかねる。アデルとしてみれば、髪色を変え、髪型で誤魔化してもネージュを人目につけるのは迂闊な行動なのだが……まさかアンナにあの様な反応をされるとは予想外だ。

「狙いは何だと思いますか?」

 アデルの問いかけにナミが口を閉ざす。

「まさかとは思うが……いや、断定はまだ早計か。とにかくこの件は黙っておけ。出発時間を繰り上げて早めにこの領を出る。」

「このタグは何なんですか?」

「…………恐らくは盗賊ギルドの物だろう。この手のタグを持っているとなると末端じゃなさそうだね。」

「盗賊ギルド?そんなものにまでギルドなんてあるんですか?」

 アデルの問いにナミは険しい表情で答える。

「勿論、表だっての物じゃない。主だった目的は情報の共有といったところで別に犯罪をあっせんしたりするわけじゃない。が、裏でその町や地方の有力者とつながってる可能性は高い。うまく使えば最低限の治安維持と“情報屋”としてかなり有用だからね。」

「……で、こいつは?」

「狙いは私かアンナのどっちかだろう。アンナだったとするなら裏で手を引いたのは伯爵の恐れもある。」

「商会の者でなく、俺の所だけに来たというなら恐らくはアンナだと思います。直接攫うことはないとは思いますが、相手は貴族。適当に難癖をつけて拉致しようとしてきても不思議はありません。ただでさえ竜人のネージュは俺達にも商会にもリスクになりかねません。適当に犯罪をでっち上げられて、ネージュやアンナを差し出す代わりに商会には罪を問わないなどと言われた場合、ナミさんはどうします?」

「…………」

 アデルの懸念にナミは答えられなかった。

「……“借り”は必ず別のところで返します。今回の件、無かったことにしてもらえませんか?違約金が要るというなら、原因となった伯爵との引き合わせ分を減額してもらって払いますけど?」

「いや、少し待ってくれ。」

 アデルの申し出にナミは困惑する。

「私も商会の者を身命を預かる身としてあんたの気持ちはわかる。が、いくつかの問題がある。」

「問題ですか?」

「その賊が本当にアンナを狙ったものなのか?伯爵との引き合わせとの因果関係は証明できないだろう?」

「……」

 アデルは押し黙る。違約金の減額交渉には応じないというつもりなのだと理解する。

「所詮、冒険者は使い捨てですか。」

「……否定はしない。ただ、原因が依頼主側にあると証明されるなら、店はあんた達を守るだろう。」

「殺したのは失敗だったと?」

「……まあ、失敗と言えば失敗だろうね。ただ生きて捕えた所で“裏”の話しは聞けないだろうし、官憲に引き渡したところで裏でつながってるだろうから意味はないだろうね。」

「次があったら拷問しろと?」

「そうは言わないが……それに、もし私がお前の申し出を認めたとしてお前はどうする?」

「え?そりゃ、引き返しますけど……?」

「通行手形があるのは私だけだ。私が一緒にいないと国境は越えられないと思うぞ?」

「え?でもナミさん残るって言ってましたよね?」

「もちろん、その時までには商会の役員分くらいは用意させるさ。その為の交渉だ。もしそれがだめなら私も一緒に引き返すだけだしね。」

「そうなるのか。その手形、具体的な人数まで記されているんですか?」

「いいや?そこまでは。」

「……でしたら、ネージュとアンナだけでも先行して戻させようかと。万能とは程遠いですが、ある程度姿を隠す魔法を使えるようです。その魔法を掛けて夜間に空から出国させれば、問題なくコローナ王都に帰還できるはずです。」

「そうか……最終手段があるならそれはそれでいい。が、結論はもう少し待ってくれ。実際、その賊の狙いははっきりしないのだろう?」

「……」

「こちらも、仮にアンナが狙いだった場合としての対応と対策を考える。ただ一つ約束はしよう。もし、あんたたちに落ち度がない状態で不当に拘束されそうになったなら、私たちに構わず離脱しても一切文句は言わない。もう少し待ってくれ。」

「……そこまで言われるなら……わかりました。」

 そこまで言われるなら次まで待とうとアデルは思った。しかし、それと同時にそこまで言うのならネージュかアンナに、つまりは国境の影響を受けない彼女たちの能力が余程必要なのだろうとも思う。

「とりあえず部屋に戻ります。出発はいつくらいにします?」

「早めに朝食にしてもらって、すぐに出るよ。ヴェンにそう手配しよう。」

「わかりました。」

 アデルはドルケンとナミに不信を抱くと共に、その場を引き下がる。

 部屋に戻ったアデルは今の話をネージュたちに伝えると、

「…………即死じゃなくて3分前後で死ぬ毒薬でも探した方がいいかな。」

 なんとも頼もしい言葉が返ってくるのであった。 


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