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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
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歩み出した英雄と暴れ出した英傑

「スマンナ。」

「いや、丁度良かった。ここ数日、ほとんど体を動かす機会がなかったからな。」

 ブランシュの説教から解放されたアデルは小声でラウルに謝った。ネージュに巻き込まれたラウルが説教にまで巻き込まれてしまった形となってしまったからだ。

「膠着してるらしいな?」

「膠着と言うか、仕上げ準備と言うか、だろうな。ノール城戦に向けてかなり綿密に作戦を詰めているようだ。単純な野戦だったらひたすら敵兵を斬るだけで良いんだけどなぁ」

 両パーティがアデルが使う馬車の周囲に集まり腰を下した。一部は幌の中に入ってロゼを眺めながら寛いでいる。

「市街戦、それも奪還作戦だもんな……色々とややこしくなってくるか。」

「ああ。市民の犠牲、市内の損害をなるべく少なく、敵戦力を完全に叩きださなければならん。しかも、ノール城は北側だけでなく、全方位に対してしっかりとした防御施設が敷かれているらしい。」

「防御施設?」

「一番厄介なのは投石器らしいな。高い城郭の内側から、巨大な石が飛んでくるらしい。」

「らしいと言うのは?」

「俺らはまだノールの城の実物を見たことが無い。」

「なるほど。」

「まだだいぶ距離があるって話だが?」

「10キロなんて歩兵でも数時間も歩けばすぐよ。下手すりゃ夜営も必要ないくらいじゃないか?」

「そう言われると確かに。野戦はありそうなのか?」

「お?興味出てきた?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……」

「……そうか。まあ、野戦ももう1~2回はあるだろう。とはいえ……蛇腹剣だったか?あれ、集団戦でどうなんだ?」

「状況次第ってところだな。使える状況ならかなり使える。」

 アデルはそう言って先日の賊の拠点制圧戦の時を振り返った。2人でそれぞれ別のポイントから強襲したときは非常に役に立ったと。

「なるほどな。1対多専用か。」

「1対1でも結構つかえる。」

 ラウルの評価にネージュが少しだけ反論するが、ラウルの評価は変わらない。

「そりゃな。今は集団戦の話してんだろ?味方とは言え近くでそれは振り回されたくないなぁ。」

「むう。」

「そういえば、味方にも恐れられてる冒険者がいるらしいが?」

 丁度いい機会かと思ってその話をラウルに振る。

「あいつらか……」

 ラウル達が露骨に嫌な顔をした。

「あいつらはおかしい。戦闘狂と言うよりもただの快楽殺人鬼って感じだな。」

「どういうことだ?」

「まずリーダーの女だ。戦場に飛び込んだと思うと嗤いながら斧槍ハルバードをぶん回して敵の将兵問わず真っ二つよ。馬鹿げた腕力なのか、斧槍なのかわからんがプレートメイルで固めた敵の精鋭も鎧ごと真っ二つだ。それに騎士と言う癖に相手の将の名乗りすら聞かずに問答無用でバッサリだ。何故か聖騎士の鎧を装備してるんだが、真っ白な聖騎士装備が、戻って来る時は真っ赤になってるのが常だ。」

 ハルバードに聖騎士鎧。アデルに心当たりのある部分だ。

「もっとやばいのがあそこの魔術師さ。15メートル級の爆発魔法を“火球ファイアボール”を撃ちまくる感覚でボンボン使いやがる。中にゃ、退避が間に合わずにその爆風に巻き込まれた味方兵士も結構いたって話だ。」

 15メートル級の爆発魔法……通常の“火球”が直径で5メートルくらいの範囲を制圧する魔法と考えると、径で3倍。面積なら3乗と言ったところだろうか?爆風でさらに広範囲に影響を齎すとなると、とんでもない高位の魔法の筈だ。だが、こちらの術者に関してはアデルの心当たりには無い。

「あんまり関わりたくはないけど……名前くらいは聞いてるか?」

「ああ。ローザ・フォルジェ。今回の戦で一躍有名になったフォルジェ子爵の娘らしいぞ。だから巻き込まれた兵士も正面切って文句は言いづらいらしいな。」

 心当たりの通りのようだ。そうなると――

「魔術師の方は?」

「そっちは判らんが……同じパーティなのは確かだ。今じゃそいつら“緋色の花”って呼ばれてるさ。」

「ラウル達も結構有名になったんじゃないのか?3騎の騎士冒険者ってお前さんらのことだろ?」

「まあ、な。当初は順調だったけど、そいつらが戦場に現われてからは少し落ち付いちまった感もあるな。」

「まあ、貴族令嬢の聖騎士ってだけでインパクトはあるもんな……」

「家の力で地位でも買ったのかね?」

 ここでブレーズが不満そうに口を挟んだ。

「いや、テラリアでそれは通用しないさ。尤も、そのスタートラインに立つのに家の力がそれなりに必要だけどな。」

「そうなのか?」

「聖騎士になるには、テラリアの士官学校でも相当な上位に入らないとなれないからな。年間4~5人だって聞いてるぞ?ま、その士官学校に入るのには相当の財力が必要になって来るから家の力が使われてないとは言えん。が、入ってからは完全な実力社会さ。中には、入れずにヤツら以上の実力を持つ者もそれなりにはいるだろうけどな。最初のハードルが結構高い。」

「ああ、お前らテラリアの出身だったな。」

「おう。」

「どうなんだ?見返してやりたいとは思わないのか?」

「……正直、思わない事はないよ。ただ、見返したところでどうなる?って話になるだけだよ。テラリアで下手に平民や亜人がそうなったら逆にいびられるだけだ。」

「そうか……」

 その辺の事情は彼等には理解できないだろう。実際にテラリアで生活しない限りは理解する必要もないのだが。

「ですが、ここはコローナですよ?」

「「お?」」

 いつの間にか起きていたロゼがそう言う。しかし、ディアスたちのパーティのマリーネの事を考えると、一概にコローナなら関係ないとは言えない。

「おう。有難いことになんとか道も見えつつあるしな。コローナの……まあ、王都にはこだわらないが、コローナのどこかで慎ましやかに過す予定だ。」

 ラウル達を前に、アデルが少々自嘲気味にそう言うと二つの反応が返ってくる。

「そうですか……」

「無理な気がするけどなぁ。」

 ロゼは憐れむと言うか、少々寂しそうな表情で受け止め、ラウルはニヤリとして否定する。

「無理って……」

「俺はその内“お前ら”が表に出てくるって思ってるんだけどな……」

「ナニソレコワイ。」

 ラウルの言葉に棒読みで否定を返す。しかし、ネージュの性格といずれ成長するであろう体や角を考えると、その可能性もなくはない。とはいえ、ディアスたちの轍を踏む気はないし、そもそも踏めるほどの戦力もない。当面は極力慎ましやかにやり過ごすしかないと思っている。

「とりあえず、体調はどう?司祭は『初の戦地での活動に疲弊したのだろう』って余り無理せず、休み休み活動する様に言ってたけど?」

「そうですね……でも、皆さん命がけでコローナを守ってくれている訳ですから……それに応えませんと。」

 アデルがロゼに声を掛けると、ロゼは毅然として言い放ち立ち上がる。

「そりゃこっちも無理に止める気はないけどね。自分が倒れて他の人の手を煩わせるなら本末転倒よ?基本、俺らはこの馬車のお守りを任されたから……まあ、休みたくなったら戻ってくればいい。」

「わかりました……」

 志願したのは自分である。ロゼはまだ全快には程遠い物の、気力を振り絞って配属されたテントへと戻って行った。

「真面目だねぇ……」

 アデルは肩を竦めながらロゼを見送ったのである。

「今の子は?」

 そこでブレーズが改めてアデルに尋ねてくる。

「ん?さっき説明したろ?王都から派遣された神官団の先遣隊の1人だ。自分から志願したらしいな。他の神官と比べるとまだまだ未熟なようだけど……大した根性だ。」

「……そうか。」

「どうかしたのか?」

「いや……ちょっとな?」

「ちょっと?」

「知っている人に似ている気がして。」

「知っている人なら気付くだろ?」

「え?ああ、そうだな……」

 そう言うとブレーズは口を閉ざした。

「ま、俺らもそろそろ行くか。ネージュ、鍛練だけならまた相手してやるからな。」

「うむ。」

 ラウルがネージュの頭をポンポンと叩きながら立ち上がると、他の3人も一斉に立ち上がりそれぞれの馬に跨る。

「大体ここにいるのか?動きがありそうならまた知らせに来る。」

「ああ。そうだな。神官団も手一杯だろうし……馬車馬の面倒もこちらで見なけりゃならなさそうだし。そうしてもらえると助かる。」

 ラウルとアデルがそれぞれ片手をあげやり取りをすると、一度元に戻っていた人垣がラウルの進行方向に合せて再び分かれた。間違えなく彼らの知名度は上がっているようだ。





「ネージュ、アンナ……」

 アデルは妹たちを呼び寄せると、他の者には聞かれないように耳打ちをした。

「――――」

 アデルの言葉に、ネージュはニヤリと笑い、アンナは表情を引き締めた。


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