教えられること、教えられていること
ディアス邸を訪ねて2日ほどアデル達はのんびりと、且つハードな生活を楽しんでいた。
到着の翌日にはディアスが転居先で顔なじみとなったという木工職人に依頼し、長剣と短剣の木剣を2組ずつ作ってもらい、昼下がりには庭でディアスがネージュとアンナに稽古を付ける。特にネージュと楽しそうに殴り合いをしているところは近所の子供や成人間近の少年たちが興味深そうに眺めたりもしていた。
いくら強力な回復魔法を扱える者がいるとはいえ、町中で刃入りの蛇腹剣を振り廻すわけにも行かず、ネージュはひたすら木剣でディアスに挑んだが、結局一本も取れず日没を迎える。『もうしばらくは身体は鍛え続ける。』と言っていたあたり、現役を離れてもその身体能力、格闘能力が落ちている様子は見られなかった。逆に、レベル21にまで成長したネージュの攻撃を受け続ける中、引っ越し直前よりも動きに冴えが戻ってきている様にも感じた。
夜に食卓を囲むとき、アデルが先の遺跡探索、ゴーレムと戦った話をすると、ディアスは驚くように、そして呆れるように「無茶しやがって……」とつぶやいた。初戦は撤退を余儀なくされたものの、行動パターンなどで作戦を立て直し再戦でようやく勝てたと言うと、それは良かったと褒めると同時に、まだ守護者がいる遺跡が残ってるんだなぁとアモールと同じ反応も示した。
そんな日が明けて滞在4日目。いよいよみんなで“東の森”に狩りに行こうと言う話になった。
先日向かった場所は伐採作業で忙しくなっており、人も多いので狩りにならにだろうとアデルが言うと、この村からも木こりが数名助っ人に出払っているらしく、このあたりの事情はディアスの方が詳しく知っていた。“東の森”の南端付近から少し奥に入った場所ならとディアスが勧める。
ディアス邸にあった材料からアンナが昼用の弁当を作り、あとは冒険者用の保存食だが1晩森で野営する予定で出かける。
プルルを含む馬3頭で出かけ、昼過ぎには森の深い部分へと到着し、アンナが用意した昼食を取って探索開始だ。
当初はアデル達にアンナが付いてこられるか心配していたが、元々森の多いグラン出身、育った村も林業中心の村だったこともあり、おそらく補助魔法もあっただろうが、問題なくついて来ていた。
それぞれの方法でカモシカを3頭ほど狩る。アデルは当初、短弓で狙ってみたが、うまくいかず結局追込みからの投槍で仕留める。ディアスはそのアデルの弓で難なく1頭を仕留め、ネージュはここぞとばかりの中空からの急降下と蛇腹剣で見事にカモシカの頭部を締め切った。
「私も弓を習うべきでしょうか……」
アンナがそう呟くが、今すぐである必要はないと他全員から言われる。先ずは剣と、可能なら攻撃魔法だろう。以前ディアスだったかソフィーだったか、《精霊使い》の話をしていたような?と尋ねたところ、彼らのパーティである『蒼き竜騎兵』の末期に、ラピスという名の森人の精霊使いが一人、助っ人的に参加していたとの事だ。森人といえば間違いなく、精霊使いの適性としてはとしては最有力の存在だ。が、解散と同時に姿を消しその後連絡がつかないらしい。
それぞれ自分で仕留めたカモシカを馬を繋いでおいた野営地点に持ち帰り、まずはネージュが仕留めた1頭を早速解体して入念に焼いて食す。現地調達というある意味冒険者らしい夕食に、アンナは恐る恐ると言った感じで手を付ける。十分な調味料もなく、大味だったが自分たちが狩ってすぐ処理して調理した物だけあってその充足感は格別だったようだ。
そして夕食後に一服した所でネージュにとっての本番となる。
アンナに光の魔法を使ってもらい、半径10メートルほどの明るい空間を用意してもらうと、パーカーを脱ぎ、新調したレザースーツでディアスに勝負を申し込んだ。ディアスの方もそこは元、いや、現在でも立派な上位の戦士であり、それを快く受ける。
ネージュは最初に以前のスタイル、ショートソードとマンゴーシュを持って構える。ディアスの方も通常使いの長剣と楯を持ってネージュの前に立つ。アンナは勿論だが、アデルとネージュにとっても、片手剣と楯を持つ本来のディアスの戦闘スタイルを見るのは初である。訓練とは言え下手に食らえば大怪我必至の本物の武器による立ち合いだ。いくら回復魔法の使い手がいるとは言え、痛い物は痛い。にもかかわらず、ネージュの表情は無邪気なまでのウッキウキだ。一方ディアスは真剣な顔をしているが、かなり余裕そうな表情に見える。本来ならディアスがネージュを窘めそうなものだが、そこは竜人に対する変な信頼というか理解というかでディアスが何か言う事はなかった。口で言うよりも実力で示すしかない相手なのだ。
5メートル程あけてお互い構えた所で、特に合図もなくネージュが間合いと隙を窺うべく、ゆっくりと円弧を描く様に横移動を始める。ラウル戦でもそうだったが、ネージュは実力を認め、警戒する相手と1対1の勝負を行う時は大抵この動作から入るようだ。
受けるディアスは視線を切らないように集中してネージュの動きを見ている。
「そ――」
『そろそろか……』とアデルがアンナに言おうとした瞬間、ネージュが動いた。アデルの予想よりも2呼吸ばかり早い。
数歩で一気に加速し、まずは右手のショートソードで斬りかか――ろうか、と言うところで跳躍をする。ディアスは少し虚を突かれながらもそれを受け止めようと楯を構え腕の衝撃に備えた。
しかし、ディアスが予想したタイミングでそれは起きなかった。不審に思い気配を探る……までもなく、強烈なダウンウォッシュがディアスを襲う。そして次の瞬間には構えた楯の死角、予想とは完全に別の方向からの鋭い振り降ろしをとっさに楯を動かして受ける。
そのままカウンターの突きを予定していたが、相手が本来の物理法則を捻じ曲げて高い位置にいるためそれは叶わなかった。
反撃が来なかったのでネージュはそのままショートソードとマンゴーシュで2撃目、3撃目を入れる。
ディアスは特に苦も無くそれらを受けきると、リーチの短いマンゴーシュでの3撃目の為に少し高度が下がった所にすかさず腰の高さから鋭い突きを入れる。ディアスの楯と体勢で少々見難くなっている場所からの高速の突きであったが、ネージュはそれを3撃目の返しでそれを止め、流す。
そのまま着地もせずに数合攻撃を出し合った所でネージュが一旦下がり着地する。そこへ一瞬で詰め寄ったディアスが、まさに昨日までの素振りの集大成ともいえる上段からの3連撃を見舞う。ネージュはショートソードで2つ、マンゴーシュで3つ目を受け流したところで側面へと抜けようとするが、その動きを察知したディアスに封じられる。バックジャンプから一気に飛ぼうかと思ったが、それも大きな踏込と上段からの強烈な振り降ろしに阻止される。その振り降ろしをマンゴーシュで捌き、姿勢を低くしてディアスの懐に潜り込もうとしたところで、返す刃で伸ばしかけたショートソードを叩き落とされてしまった。
拾うか、離脱するか一瞬迷ったところにさらにディアスの剣が襲い掛かってくる。
「…………マイリマシタ。」
ネージュはぎりぎりのところでマンゴーシュで受けていたが、片言でそう宣言した。ネージュは武器を二つ持っている為、片方を落したところで負けにはならないのだが――負けず嫌いのネージュが、と、アデルは意外に思ったが、ネージュは落されたショートソードを拾うと、ぶわっと浮いて最初くらいの距離を取った場所に着地する。
ディアスのガードの完璧さと、精度の高い鋭いカウンターの突きにリーチの短い補助武器一本ではとても崩しきれないとあっさりと判断したのである。
時間にすると僅か、ほんの1分程度の手合せだったが、アデルもアンナも食い入るように見つめていた。特にアデルは楯の扱いとその死角から繰り出される鋭い突きを何度も思い返し、自分ならどうかとシミュレーションする。一方アンナの方は、この1分間にどれだけの攻防が繰り広げられ、何が起き、どうなったかなど殆ど分からなかっただろう。もし、分ったとしてもその一つ一つの動作のその凄さまでは分らなかったであろう。ただ言葉を失うだけだった。それでもアデル同様、最初から最後まで分かった部分をイメージしなおしている様子だ。
「さ、て……」
ネージュが拾い直したミスリルショートソードを鞘にしまい、息を一つ大きく吐き出す。そしてお気に入りのスネークソードを取り出すと今度は流石のディアスも険しい表情を浮かべた。
間合いが測り難くさらに特殊な、もはや振るう方ですら正確に把握しきれない『不安定』と言ってもいいような挙動をする蛇腹剣を重力を無視して高い位置から振り降ろされるのだ。ネージュなら敢えてやってこないとは思うが、こちらの長剣の届かない高い位置から適当に蛇腹剣を振り降り回されるだけで封殺もあり得る。半年前まで竜人と肩を並べて幾多の戦場を駆け抜けたレベル36の戦士は、10レベル以上格下の相手とはいえ一切の油断はなかった。たった今終わった手合せは、正直単純に“楽しかった”が、次の一戦はそうはいかないだろう。
「俺が怪我しても治療してもらえるんだろうな?」
「は、はい。勿論です。」
少々困ったと言う表情でディアスがアンナに尋ねると、アンナは驚くと同時に慌てて答えた。今の完勝をもってしても尚、ディアスは負ける可能性も想定をしているのだと。
「仕方ないか。随分と持て余しているようだしな?」
「練習用も抱き合わせで販売するようにしたら?って言ったんだけどね……」
ディアスの言葉にネージュが返す。
「返事は?」
「びみょーな感じだった」
「そうか……」
アルムスについてはディアスもよく承知している。おもちゃ感覚で武器を作るが、おもちゃを作る気はさらさらないのだ。しかも弟のアモールと違い、店はほぼ趣味でやっているようなもので、稼ごうという考えは薄い。とはいえ、己の特性に合った武器と出会うことが出来れば戦力の向上度はかなりのものがある。実際、先ほどの戦闘で見せた楯でガチガチに固めつつその死角を使っての必殺の突きは、クリスタルソードの透明の刃を尤も効率よく活かすために身につけた技術であった。吸血剣と敵・時には味方からも恐れられたのは、クリスタルソードの特性とディアスの技量が見事に噛み合って多大な戦果を挙げた結果である。
「さて……(どうしたもんかね)」
ディアスの方も大きく息を吐き剣と楯を構える。
(まずは好きにやらせて見定めるか。)
ディアスは楯を正面に翳し、身体を斜めに開きじりじりとネージュに接近を始めた。
(崩してみな。やれるものならな!)
にじり寄るディアスと静止したままのネージュの視線がぶつかる。妙な信頼というか、同じ穴のムジナというか、ただの戦闘狂というか……とにかく、ディアスの意思はネージュに正確に伝わったらしい。
ネージュは声を発することもなくいつものように数歩走り跳躍する。
相手がネージュやマリーネでなければ、ジャンプ攻撃を潜るか、楯で受けるかして着地地点を狙いすましてやればよい。だが相手は――竜人だ。先ほどもジャンプの速度をほぼ変えずに軌道だけ強引に捻じ曲げて本来ならあり得ない角度から攻撃してきたのだ。それを踏まえて、楯を掲げつつも絶対にネージュの身体の一部だけでも視界に捉えられるようにする。
まず一つガキィンと金属同士がぶつかる激しい音がするとディアスの楯に衝撃が来る。ディアスは目視でネージュの姿を捉えると、どうやら相手の射程は3メートルと言ったところか。従来のアデルの槍よりも広い。ただし、しなりが加わる分すぐに次の行動に移れない。これが蛇腹剣の弱点だろう。狙うなら伸ばした直後だろうか。目で蛇腹剣の姿を探すが細かく分かれたことと、振りの早さによってほとんど見えないまま元の姿に戻っていた。
当然ディアスの突きの射程外である。続いて2撃目、3撃目とほぼ同じ位置から違う角度で打ち付けられる。
(こりゃ、楯がないとどうにもならんな。)
ディアスもこの時ばかりはネージュとアルムスの出会いを恨んだ。厄介なのは間合いの広さよりもこの“撓り(しなり)”だ。これでは近距離で剣で受けても撓ってその刀身を迂回するように所持者に襲ってくるため、楯がないと受けるのはほぼ無理だろう。回避にしてもその分離する刀身を見て挙動を読みその範囲外か軌道外に避けるのはかなりの“目”がないと困難だ。さらにずるいことに相手は飛行種だ。常に相手の姿を目に入れていないとすぐに背後に回られ後ろからその凶悪な攻撃が襲い掛かってくる。
ネージュもそれを理解し始めたか、適当に振るうのを止め、こちらの背後に、次はさらにその背後に回り込むように空中を動き回っては楯が下がるタイミングを狙って角度が違う打ち下ろしを行う。
(どうしろっていうんだよこれ……そうか――)
一方的に打ち下ろされる中、ディアスが一つ対抗策を思い浮かんだところでネージュがいったん離れ着地する。
(勘が良いのか……?)
ディアスは考え付いたことに気付かれたかと思ったがその様子ではなかった。何しろその対策の行動を一切行っていないのだ。ただここで一度離れたのは戦士の勘か呼吸が変わったのに気づいたのか……
「アンナもこれくらい出来るようになってくれないと。」
「「「ぇぇぇぇぇ……」」」
ディアスが動かないのを確認して、ネージュがアンナにしたり顔を向けと、それ以外の3人が『無茶言うな』とばかりの困惑の声を上げた。
「まあ、解説は後だな。これで終わりじゃないんだろ?」
「うん、すっきりしたし。これじゃ、“私の練習”にならないしね。」
ネージュはそう言うと大きく一つ深呼吸をして、翼を畳んだ。
「「む?」」
アデルとディアスがその意図を量りかね怪訝そうな声を上げるが、次の言葉で理解と、そして安心をする。
「人前で使えないんじゃ意味ないしね。」
「そうか……そうだな。」
マリーネとは違い、ネージュは当面竜人であることは公表しない方針だ。アデルの意思に従うという意思表示でもある。
(このご時世、この能力、あとこの見た目か。うまく立ち回りさえすれば俺達とは違う形で重用されそうではあるが……)
ディアスはそう思いながら剣を構える。本当は次の一回で勝負をつけるつもりだったが、もう少しだけ付き合っても良いかと考える。
翼を畳んで仕切り直しをし、数合切り結んだところでネージュの方もディアスの完璧なガードを思い知る。それでも先ほどのようなカウンターの突きの回数がかなり抑制されていることを考えれば手ごたえは十分だ。なんとかディアスのガードを崩せないものかと、ガードする楯を蹴ろうとするがびくともしない。ならばいっそと、その楯を足場に斜め後方に跳躍し、その楯を迂回するように空中から蛇腹剣を横薙ぎに叩き込む。
「「お?」」
ディアスが狙っていた行動に打って出た。伸びて撓る剣の先端付近をあえて剣で受け、剣に巻き付かせてそのまま逆方向に振り下ろしたのだ。伸ばしきったところに突然の衝撃と逆方向への力でネージュ手から蛇腹剣がすっぽ抜けてしまう。
「勝負ありだな。流石にお子様相手に握力勝負で負けるわけには行かん。」」
策が一発でうまくいったディアスは満面の笑みを見せる。
「むう……」
予想外のあっけない幕切れにネージュは一人唸るのであった。
翌日、夜明けとともに帰途に付きくと夕前にはディアスの町へ到着し、狩りの成果の肉や皮をそれぞれの買取店で処分した。収入は本来なら山分けにすべきところだが、ディアスが辞退をした。滞在中の食費や木剣などの経費の足しにとアデルが申し出るが、それならアンナの装備か魔法の習得費の足しにしろと言われてしまう。元々の資産力や実力などを考えればアデルとしてもそれ以上言うつもりはなく、有り難く貰っておいた。またグランに行くことになったら別銘柄の清酒を探すのもいいだろう。
遅い時間になり、ネージュとアンナが寝たのを見計らってディアスがアデルに声を掛けてきた。
「アデル。お前はネージュをどう育てるつもりだ?」
「え?育てるって……まあ、そうなるのか。そうですね。やはり角が目立つようになるまでにはある程度身分が保証される様にはしたいところですが。それとも冒険者としてどう育てるかですか?」
「どっちもだな。まあ、冒険者としては能力は問題ない。と、いうより同年代でアイツに勝てるのはそうそういなくなるだろうよ。何も考えていない様でありゃ強かだ。そのうちちゃんとした体格と筋力を付ければ、そこらの中堅冒険者じゃ手も付けられなくなるだろうよ。」
「まあ、“全力”を出せるようになれば……下手すりゃ俺でも危ないかなとは思ってますよ。それまでにアホなことしない様に躾けないと……ってのはあります。」
「そのうち前線に出たいとか言い出したらどうするつもりだ?」
「状況次第ですかね。ただある程度は自分たちなりのルールを作っておいた方がいいのかな?とは思ってます。」
「ルール?」
「正規軍の指揮下には入らない、とか事前情報のない場所には行かない、とかですかね。信用できる保証人が見つかれば斥候として売り込むのもありなのかもしれませんが。」
「このご時世だ。確かに斥候としては引く手数多だろうな。無闇に前線に立つよりはそちらの方が確実かもしれんが……ノーキンス辺境伯には期待しないほうがいいぞ。」
「あまり信用できない感じですか?」
「ああ、何となくだが……今回の戦争に違和を感じる。本当にあのノール城を一時的にとは言え放棄する必要があったのか……」
「堅城なんですか?」
「ああ。オーレリアには昔から何度かちょっかいを出されているからな。北――北部貴族連合ってわかるか?」
「ある程度は。装備の出来上がりを待つ間にある程度調べましたし。」
「そうか。なら、その連合には国からかなりの額の軍事費が投入されている筈なんだ。特にノールはアブソリュート市以上の大都市だ。いくら電撃侵攻とはいえ、そう簡単に放棄するとは思えんのだがな。」
「なるほど。何か裏があると……」
「考えすぎかもしれんがな。難しいな……アブソル侯は悪い人じゃないんだが……軍の敵が亜人や蛮族中心だからな……侯の軍だと、竜人ってのはかなりのハンデだ。紹介してもあまりいい結果にはならんだろう。」
「個人でなく軍の指向性も大きく影響しますか……そりゃそうですね……その辺ももう少し考えてみます。」
「ああ。だが、冒険者にとってコローナは良い国だ。連邦や皇国は論外として……なんとかいい後見が見つかるといいんだがな。ま、魔石集めが一番確実か。」
「なるほど……」
「アンナの方は?」
「まだ何とも……あまり危険なことはさせたくない感じですかね。まあ、いよいよになったら、周りに構わず、魔法使って飛んで逃げろとは言ってありますが。」
「……仲間が増えるとその辺の判断が鈍くなりがちだからな。お前がしっかりしないと。」
「そうですね。」
「そうなると確かに正規軍の指揮下に入らないというのは有りかもしれんな。その分事前情報は入念に調べたほうがいだろうな。俺は無縁だったが、お前は機会があれば戦術や戦略についても勉強したほうがいいのかもしれん。」
「戦術や戦略ですか?」
「捨て駒が投入されたりするような場所には近寄らない様にしたり、普通でない行軍をする軍とは距離が置けるようにするためにもな。」
「……なるほど。王都に戻ったらその辺の本も勉強しようと思います。」
アデルは、それまで自分とは全く無縁と思っていた宿題を課せられてしまった。




