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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
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村人

推敲とは書き直しと見つけたり。ではありませんが、遅筆です。すみません。連休なんてなかった。

細々続く予定なので、何かの拍子に様子を見に来ていただけたら幸いです。

「いや~助かった。普段より少し入用だったとはいえ、この量の荷物を背負って村まで戻るのを考えたら辟易するところだったさ」

 出発して間もなく、最初に口を開いたのはエスターだった。

「もしかして……荷馬自体は依頼票には書いてなかったんじゃないか?」

 嫌な予感を感じ、アデルが確認する。

「う……まあ、実はな。もしかしたらとマスターさんに尋ねてみたんだ。そうしたらすぐにあんたの名前が出てな。」

「本来なら輸送依頼は輸送依頼で別物だと思うんだが……」

(抗議すべきか?)

 と思ったが、結果として優先的に仕事が回ってきたということも踏まえてアデルは別の要求をしてみることにする。

「だったら、滞在中の馬の食糧くらいはそっちで用意してくれよ。特別うまいものを用意しろってわけじゃないしな。」

「そこは何とかする。村滞在中の食べ物はうちの村……っていうか、うちの家で出すと思うよ。」

 そう言うのはヴェーラだ。なるほど。彼らの村なのだから当然彼らの家がある。村での寝泊まりと食事は心配なかったみたいだな。と少し多めに買った保存食に思いを馳せるが、名前の通り保存が利くものなので多少荷物が増えたくらいの話だ。

「どんな村なんだ?」

 せっかくの協同行動だし無言もないかと、アデルの方からも話を振る。

「何もない村だよ本当……」

 呟くように言うのはエスターだ。要約すると、ほとんどアデルの村と変わらない生活ぶりにアデルの方が苦笑した。

 農作業を基本として、男は狩猟や森の開墾。女は家事や子育て。みんな生きるのに必死ではあるが、活気はある。そこには自分たちの代えがたい財産があるためだ。未開発の土地を開墾した場合は領主に見合う額の税を収めれば、自分たちで開墾した土地は自分たちの物になるというのは各国共通のようである。もちろん、都市部のような警備はなく、税も領主の裁量一つで一気に地獄へと化す可能性も無きにしも非ずだが、話を聞く限り、税はアデルの村よりも軽いようだ。

 そこを比べたところでアデルは祖国であるテラリアと比べてしまった。元々貴族たちの選民思想が強いうえ、中央集権が進んだ結果、少しでも蓄えようと大半の地方領主は多くの領民にギリギリラインの税を設定していた。そのくせ碌な安全保障もない。その結果蛮族たちに奪われたアデルの村が開拓した土地も、後に軍を派遣して奪い返したとして、村の生き残りたちに全て戻れば御の字。相手が悪ければ軍を派遣した領主又は下請けまがいの地方豪族が自分のものと言い出し、もしそうなれば、今までのアデルの苦労はなんだったのかと思うと同時に、さっさと見限ったのは正解だったとも思える。

 今思えば良くそれで国が回っているなと思えてしまうが、そこは歴史と実績。良くも悪くも安定――下の身分の者から見れば停滞と言えるが――しているためだろう。表向きに奴隷の所持は禁じられているが、そこで生れ落ちてしまった獣人や鬼子はそれに近い扱いを受けており、それを疑問に思う者もいない。

 そんな話をつい愚痴の如くしてしまうと、先頭で馬を引くネージュに同情の視線が集まっていた。

(ああ、うん。そういうつもりで話したわけじゃないけどね……)

 気配で何となく察しているであろうネージュは淡々と手綱を引いて歩いていく。名前に反してすでに黒っぽいネージュさんの事だ。内心ちょろいとほくそえんでる事だろう。共に過ごすようになって一か月弱。ネージュの言動から性向の一端を悟ったアデルも内心でそんなことを考えていた。

 話がヴェーラたちの村に戻ると、そこでアデルの村にはなかった存在を知る。

 村の巫女だ。

 ヴェーラたちの村には巫女と呼ばれる《神官》が代々――と言っても一つの家系からではないが、1世代に1人は確実に村に現れるそうだ。

 村の巫女は《神官》としての治癒能力、さらに《星見》と言われる予言者的な能力を持ち、村を導くという存在で、村長と同格の存在であると言う。村長と違うのは世襲ではなく1世代に1人村のどこかの家から生まれるという不思議な話だ。アデルの村にはテリア神のお膝元であるテラリア皇国であるにもかかわらずそのような便r……もとい。有り難い存在はいなかった。怪我をしたら薬草頼り、気候や作物の吉凶予測は経験者たちの勘のみであった。

 ならば、フォーリがそれなのか?と尋ねると、フォーリは後天的に啓示を受けた別の存在らしい。そんな話になった時、隣にいたエスターがなぜか渋い顔をしたのをアデルは気づけなかった。

 その後も旅は順調に続き、開拓村の者同士の、所謂『わかりみ』的な会話に花を咲かせながら、日暮れを迎えることになった。

 エスターの話によれば、村までの3分の1の距離を少し超えたあたりのようで、行程としては至極順調であるようだ。

 ほとんど人が通らない街道とは言え、往来の邪魔にはならないように少しだけ離れた位置で野営をすることになる。

 ……野営……?

 アデルがしまったと思う頃には、ヴェーラたちはすでに自分たちのテントを組み上げていた。

 テントの準備をしないアデルに疑問を持ったのか、ヴェーラが尋ねてくる。

「あれ?テント建てないの?」

「ああ、それな。準備してなかった……何気に今までは森でハンモック広げて寝ていたからな……」

「そりゃ困ったな。俺らのテントは4人用、一応交代で1人は見張りにつくけど、この人数は厳しいぞ。」

「まあ、そりゃこっちの問題だからな。何とでもするさ。気にしないでくれ。そちらからも1人見張りを立ててくれるなら安心だ。」

 危険――特に魔物や大型動物の気配に敏感なプルルと併せてアデルかネージュのどちらかが警戒をすれば大抵の危機は察知、回避が出来てきていた。

「このまま行けば、明日の夕暮れ前には俺たちの村に着くだろう。そうすりゃ明日はゆっくり寝れるし今日は我慢してくれ。」

「ああ。この件に関して不満はないさ。」

 こちらを気にするヴェーラに手を振って軽めに答える。

 火を起こし、保存食で軽く腹を膨らませ、順番に休息につく。

 ヴェーラ達は最初に男性陣2人が休憩をとり、夜が更けてから3時間ずつ見張りに出るとのことで、食後しばらくしてテントに入っていった。夜更けまではフォーリとヴェルノが火の番ということらしい。

 プルルをすぐ脇に休ませ、火を挟んで丸太を置き、アデルとネージュ、反対側にフォーリとヴェルノが座る。

 暗闇に対して、或いは馴染みのない男と対面して緊張しているのかほとんど口を開かないフォーリに対してヴェルノは積極的に話しかけてくる。

 10年近く前に同じような事態が発生した時に迎えた冒険者の話。彼らからもらった1冊の魔導書。優しい家族の話などを語り、アデル達には村を出てからここまでの道のり、なぜ本国でなく隣国であるコローナを目指したのか?などを矢継ぎ早に尋ねてくる。

 アデルとしても、無意味に怖がらせても仕方ないので、ありきたりの事を嘘を入れない程度に静かに語る。冒険と言ってもせいぜいビッグボア狩りくらいで、唯一の危険であったのがグリズリーとの一戦くらいだ。

遭遇し、まっすぐ向かってくるところを狙いすまし眉間に槍を投げつけ、怯んだところですぐさま槍を回収し、あとは目を狙いながら接近戦で退治した。もし自分の得物が普通の剣だったら結果は違ってたかも知れないと苦笑してみる。

 そう言えば左手に盾を持つのは、アリオンの勧めでまだ実戦経験なかったな……などと付け加えると興味深そうに聞いてきた。どうやらヴェルノにとって冒険者は英雄の一人であり、憧れのようであるらしい。

 フォーリはヴェルノの話を心配そうに聞いており、ネージュは興味ないとばかりアデルの肩に頭を寄せ目を閉じている。背もたれのない急ごしらえの丸太椅子――ただの腰掛である。で居眠りしたらこんなに器用に上体の維持は出来ないだろうけどな。とアデルはネージュが寝たふりをしているだけと見抜いている。起きてたところで話に混ざってくることはないだろうが。

 そうこうして夜が更けるとテントから先にエスターが出てきて見張りに着くという。こちらもネージュが改めて寝床であるハンモックに上がる。直前に、レザーアーマーを脱ぎたいと耳打ちしてきたが、当然のように却下する。

「大丈夫か?あんたはいつ寝るんだ?ヴェルノの話に付き合わされてたようだが……」

「大丈夫だ。明日ゆっくり休めるんだろ?夜明け前に交代して3時間も寝られれば十分だ。あいつも夜明けからそのまま夕方前までは平気に持つしな。」

 先ほどとは一転、火が燃え上がる音が微かに木霊する程度の静寂が訪れる。

 疲れていると分かっている相手にわざわざ声をかける必要はない。夜番は居眠りさえしなければ静かなままで充分であると2人は分かっていたからだ。声がすれば野盗を引き付ける恐れがあるが、火を焚いている時点でお察しだ。逆に動物の類なら、大抵火や人の声を嫌う。

「フォーリについてどう思う?」

 しばしの沈黙ののち、先に口を開いたのはエスターだ。

「『どう』とは?」

 質問の趣旨がわからずアデルは思わず聞き返した。

「冒険者としてやっていけると思うか?」

 どうやらエスターがしたいのは彼女自慢ではなく、純粋に冒険者としてやっていけるかどうかのようだ。

「まだ実戦もないし、あんたらの訓練を見てた訳じゃないし何とも。まあ、これだけの距離を一気に歩けるなら体力の方は問題ないんじゃないか?」

「まあ、体力はな。問題は実戦だ。武器を交えりゃ敵であれ仲間であれ誰かが死ぬことになるだろう。そんなことにあったらあいつは耐えられるのか……」

「……それこそ俺にはわからんよ。まあ、田舎育ちならその辺は案外女の方が平気かもしれんぞ?動物の解体や処理でいろいろ慣れてるだろうしな。」

「むう……」

「実際、俺も初めての狩りの後、獲物を解体する時なんか、俺の方が噴き出てくる血や臓物に目を覆いたくなったものの、(当時の)もどきの方は平然としてやがったもんだ。」

「そんなものなのか?俺にはアイツが血や死にまとわりつかれるところなんか想像できないんだが……」

「ああ、そういうことか。もしあんたの懸念通り、彼女が返り血や死体のショックで動けなくなったら多少強引にでも抱えて走ってくれよ?文句なら生きて帰ってから聞いてやればいい。」

「お、おう……」

 自分がフォーリの腰を抱えて走るところでも想像したのか、エスターはそれっきり口を開かなくなった。


 そのまま淡々と時間が過ぎ、まずはエスターとヴェーラが交代する。

 寝起きの為か、或いは話すことは明るいうちに話しきってしまったのか、ヴェーラは静かに丸太に座っている。ただ暗がりの中でもはっきりとわかる。昼間までのヴェーラよりも明らかに表情が沈んでいる。

「初仕事前ってのに辛気臭いな。嫌な夢でもみたのかい?」

「なっ!?別に夢くらいでビビったりするもんか……」

「ああ、本当に見たんだね……」

「……」

 何の気なしに掛けたアデルの言葉にヴェーラが慌てて否定する。が、逆にそれが肯定となってしまったことにヴェーラは黙ってしまう。

「流石にここで茶化す気はないよ。世の中予知夢というものもあるらしいしな。最悪の状況を“想定”できたならそれの対策を考えておけばいい。」

「…………」

 ヴェーラは口を開かない。

「何が見えた?」

「よく覚えていない。ただ、ひたすら戦ってて気づいたら周りに“人族”の死体がたくさんあってその中に俺一人で立っていた。いや……すぐ後ろの見覚えのない人を守るように立っていた。」

「なるほど。てことは今回のヤマとは関係なさそうだな。で、その人が将来のお姫様か。」

「――!?……なんだよ、将来のお姫様って……」

「いや、なんとなく。で、妹が心配なんだろう?」

「……ああ。あいつは冒険者のいいところばかりを見ているからな……」

「ああ、そんな感じだったねぇ。ヴェルノだっけか?あの子にとって冒険者は英雄に見えてるようだった。神官の人も少し心配している雰囲気だったな。」

「そんな話をしていたのか。まあ実際、俺もまだ子供だったが前回依頼した冒険者が討伐完了を告げると村からは英雄に近い扱いを受けていたしな。」

「返り血の一つもついていなかったのかい?」

「いや、帰還した時はかなりの量の血が染みついていたさ。それでも少し時間を掛けて拭ってきたらしいがな。だけど見た目はそんなに重要じゃなかったようだ。」

「まあ、開拓村じゃあなぁ。国指定の御都合歴史書ですら立派な娯楽になっちまう。魔導書なんてもらえりゃそりゃ夢中になるってもんだ。」

「まさか習得して自分が冒険者になるとはな……あの時の人たちは予測出来てたんだろうか?」

「案外、その人らも田舎村出身から成りあがった人たちかもな。お古かもしれないが、開拓村の子供に本の差し入れとは粋で罪なことをなさる……」

「……そうかもな。」

「……まあ、双方“妹”は目の届く範囲にいさせた方が良さそうだな。」

「……ああ。」

「もしかしたら、調子に乗らない程度に一度は少し痛みを知ってもらった方がいいかもしれんが……」

「ああ――いや、そこは本人にさせなくてもいいだろう?」

 流れで同意しかけたヴェーラがそこは否定する。冒険者となるなら実際、傷を負えば痛いということを取り返しのつくうちに覚えてもらう方がいいとは思うのだが。“うち”はまあ、あの傷を見ればそこは大丈夫か。それでもなお自信過剰な部分もあるが……

 アデルのがネージュの事を案じると同時に、そのネージュが起きてきた。

「ん。そろそろ交代。」

 ネージュは一つ大きな伸びをすると、腕を交互に回しながら降りてくる。

「警戒だけでいいからな?」

 アデルがすれ違いざまにネージュの耳元に伝える。

「ん~?」

 ネージュは眠そうに答えると、丸太に座り水を一口含む。

 ヴェーラが複雑な表情でその交代シーンを見つめていた。



 結局その夜は何事もなく経過し、朝を迎える。

 全員が起きだし、ヴェーラ組は慣れた手つきでテントを片付けていく。――もっとも、片付けられたテントは何故かプルルの背中に載せられるのだが……

 その後、残りの行程も特に問題もなく進んでいくのだが、昼を過ぎたあたりでアデルはひとつ気になる点を感じていた。

 村へ近づくにつれ、ヴェルノ以外の口数がだんだんと減っていき、表情も険しくなっていったのである。歩き疲れた……というわけではあるまい。

 ふとネージュに視線を向けると、ネージュも同様の違和を感じているようで、視線で「なにこれ?」と伝えてくる。

 アデルは軽く首を傾げ答えとするが、やがてヴェルノも静かになってしまったところで村の入り口が見えてきた。

 村は、規模的にはアデルの故郷より少々大きいと言ったところだろうか?広く囲われた柵は大人なら足を掛ければそれほど苦も無く乗り越えられるような高さだが。

 村の入口には見張りらしい青年が1人、ヴェーラ達――否、ヴェーラを見つけると軽く会釈をし、ヴェーラ達が入り口についたところでこう迎えた。


「おかえりなさい。“勇者”様。」

 ヴェーラの顔が一瞬ひきつったことをアデルもネージュも見逃しはしなかった。


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