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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
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陽動と衝動

 ナミ達と分かれたアデルはネージュに作戦を説明し、プルルに『ナミの指示に従え』と伝えた後、森へと入っていく。ネージュと2人だけなら、仮に巡回に見つかったとしても、『馬鹿な猟師がのこのこと森に入ってきた』程度にしか思わないだろう。暗視のあるアデル達にはもっと暗くなってからの方が楽に侵入できるのだが、それでナミ達本隊へと向かう賊を見落としたら本末転倒と慎重にアジトへ近づいていく。巡回の範囲がある程度予想できていたので少し迂回をする様に接近すると、薄暗くなるころにはかなり近い地点まで接近することができた。あとは日が落ちてからでも良いだろう。

 そして夜。賊たちが動き出した。30人くらいが松明を持って、ナミ達が夜営をすると言っていた方角へと向って行く。

 誤算だった。

「たった30かよ……随分とナミさん達も過小評価されたみたいだな。つーか、これ、こっちがちっとしんどいぞ?」

 アデルが小さく毒づく。陽動作戦としては釣果が少なすぎた。

 当初はナミ達の規模の隊商――馬車の数が基準だが。なら40人くらいは釣れるだろうと思っていたが、舐められたか本拠を警戒したか、30人ほどしか出撃しない。つまり残り20人前後が本拠地に残っていることになる。

「一人当たり10か。夜襲だしいけるいける。最初に出来るだけ減らせるところに突撃でいいよね。上から。」

 軽く言うのはネージュだ。

「まあ、そうね。」

 数以外の条件はほぼこちらが有利といえるか。人質という不安定要素はあるが、そのすべてを救出しろと言われているわけでもない。――実際にそれを目の前にしてその判断が出来るかは別として。

「いよいよ、弓の練習も始めないとな……」

「なんで?」

「初手を弓で数人射抜くだけで、結構な有利になると思うんだが?」

「うーん。今回は必要ないんじゃない?冷静に索敵・警戒態勢に入られるよりは、一気に恐慌させた方が人質を取られる可能性が低くなると思う。」

「襲撃を感知して人質を纏めるって可能性も……この、建物と配置じゃ無理か。」

「ところで……こっちに残った賊は皆ヤッちゃってもいいよね?」

「まあ、捕虜が欲しいなら本隊で何とかしろって話だよなぁ?」

 ネージュはすでに戦闘モードに入っている。“竜人”に比べると“珠無し”は牙を抜かれたような奴らと言われることもあるようだが、この手の闘争衝動、破壊衝動を抑えるのはやはり苦手なようだ。人間でいうところの「『理性』の必要性を感じていない」というのが竜人が亜人とされる所以である。

「ここで待ってて。」

 ネージュはそう言うとパーカーを脱いで飛び上がった。アデルは慣れたものだが、ネージュが飛び上がった後、浮き上がるときに下方へ打ち付ける風圧はかなりのものである。翼の表面積的にそこまで空気に干渉できるような気はしないのだが、有翼種の能力なのか、魔法的な何かが発動しているのかはわからない。

 言われた通りその場で待機しつつ様子を見ていると、程なくしてネージュが戻ってきた。

「どうだ?」

「お兄が近くまで寄れれば2人で一気にやれそう。」

 ネージュが地図に、現在上から確認できる賊の位置に〇をつけた。数人固まっているところは相応の大きさの〇を記し、見張りには小さい〇が付けられ、それが点在している様子がわかる。

 予想と数が違うと戻る訳にも行かない。賊が収穫を楽しみに油断しているところを一気に潰してしまいたいのも事実だ。空から偵察したネージュがやれるというなら、やれるのだろう。アデルは決心し、兜をかぶり暗視魔法を発動させると、賊のアジトの近くまで灯火なしで接近する。


 賊の方は、まさかこの瞬間に死神共に目を付けられているとはつゆ知らず、下碑な嗤いを浮かべ談笑していた。

 ネージュは無言で地図をトントンと叩き、この地点を強襲すると示唆する。拠点の中央付近、一番大きな〇がつけられている地点だ。アデルは一つ頷くと、この辺りから突っ込むかと当たりを付け、その場に向かう。ネージュはアデルの向かった先を確認し、再び空へと舞いあがる。

 アデルは暗視状態で見えるギリギリの位置まで接近してネージュの着地予定地点を確認すると、丸太小屋の一つにより死角となっていた。しかし、光の揺れ方などから恐らくそこに一つ大きな焚火があるのだろうと想像がつく。それに、ネージュの強襲があれば悲鳴なりなんなりで分かるだろう。それが突撃の合図だ。

 そしてその時がやってくる。アデルが着地予定地点を見ていると、ネージュが真直ぐに急降下したのが見えた。次の瞬間――

「て……」

 おそらく、敵襲と言いたかったのだろうがそれすら言えずに賊が絶命したようだ。すぐに灯りが消えたと思うと、続いて複数名の悲鳴が聞こえてくる。突然の拠点中央付近からの悲鳴に各方面の外郭に点在していた見張り達が何事かと声のした辺りへ向かおうとした時、アデルも一気に飛び出して見張りをしていた賊2名を背後から倒す。

 アデルはネージュの着地予定地点に向かうと、既に戦闘を開始していたネージュと合流する。その場所にはすでに6体の賊の死体が転がっていた。まずは拠点中心部の篝火を蹴散らし賊の視界を奪っていく。自分たちは昼間のようにとはいかないが、『どこに何がある』程度は十分把握できるため、真っ暗になっても行動にさほどの支障はない。

 暗闇の中、恐怖の絶叫が次々拡散していく。何が起きているのか全くわからない賊たちは半ばパニック状態となり何かの気配がしただけで剣を振りまわす。2~3人同士討ちで負傷した賊もいる様だ。恐らく別の方角の見張りをしていたのだろう、灯りを手に持った賊が声が上がる付近に集まってくるが、その灯りの範囲外から一気に詰め寄るアデル達にまともな対応を取れずに次々とその数を減らしていった。

「ネージュ、もう一度上がれ。灯りを持って逃げようとするやつは後ろから始末だ。」

「りょ。」

 賊10数名を討った辺りでアデルがそう指示をすると、ネージュが再び空へと上がる。

 突然巻き起こるダウンウォッシュに賊の松明が消えかける。何事かと上を見上げる阿呆どもをアデルは難なく突き殺し、周囲の賊がいなくなった頃合いで、アデルはまず近くの丸太小屋を観察した。その際、同士討ちで負傷した賊を見かけたのできっちりと止めを刺しておくことも忘れない。

 事前情報の通り小屋には窓がなく、出入り口は扉とも呼べない、ただ分厚い板が立てかけてあるだけだった。アデルは勢いよくそれを蹴り込み、中に侵入して中の様子を確認する。

 中には想像通り……捕えられた女性が3名、裸に剥かれ後ろ手に縛られ、柱に縛り付けられていた。

 真っ暗闇の中、恐らく女性たちにはアデルの姿が見えていないのだろう。賊の悲鳴か、突然蹴り飛ばされた入り口の物音に驚いたか、身を寄せ合うように集まっている。

「動くなよ。今外は戦闘中だ。縄を切ったら、外からゆっくり3回叩くまで、頑張って入り口を塞いで賊が入り込んでこない様にしていてくれ。じきに助けがくる。この拠点全体で人質は何人くらいいる?」

 手早く縄を切り、手の自由を与えながらそう尋ねるが、女性たちは怯えるばかり。辛うじて一人が他の小屋の事は分らないと返してくる。

「仕方ない、一つずつ確認するか。俺が出たら板を立てかけ直し、全力で押さえてくれ。今賊共の大半が出払っている。居残りもほとんど仕留めたが全部倒したとは言いきれん。悪いが、あんたらが武器を突き付けられても、そのために俺らが武器を捨てるという選択肢はないと思ってくれ。」

 それだけいうと、アデルは返事を待たずに外に出る。女たちが指示に従ったかどうかの確認もせず、アデルは次の小屋に向かう。指示に従わず賊に入り込まれてもそこはもう自業自得と諦めてもらうしかない。戦闘で昂っているのか、アデルは後に自身でも驚くほど冷静……というか、薄情なセリフと行動を突き付けたことに違和感がなかった。

 次の丸太小屋も同様の状況で同様に処理し、3つ目の小屋に突入した時、初めて小屋の中の灯りを確認した。

 蝋燭の薄明りの中、賊の一人が女性――というよりもまだ少女と呼んだ方がいいだろう。に短剣を突き付けアデルに威嚇する。

「近寄るな。武器を捨てろ!」

 決まり文句を投げかけてくるが、思いの外アデルは動じない。

「そんなセリフに従うお人よしなら賊の討伐なんて請負やしねーよ。グランの王国軍もフィンの賊と大差ないらしいな。」

「なんだと!?」

 アデルの安い挑発に逆に賊が反応する。

 アデルは兜の奥からその賊に嘲笑を浴びせると……おもむろに穂先の射出ボタンを押す。

「なっ!?」

 ドスっと鈍い音がすると、小屋の奥と入り口、まだ5メートルほど距離があると油断していたのだろうか。射出された穂先は賊の喉を貫き、小屋の丸太にかなり深く突き刺さっていた。当初はおまけかネタかと思っていたアルムスのギミックだったが、射出の速度や威力を目の当たりにすると意外と有用なような気がしてきた。尤も、この場に賊が複数いたら使えないギミックではあるが。

 アデルは素早く槍を元に戻し、やはり柱につながれていた少女ともう一人、うずくまっている女性を保護する。

「えっ?」

「……見えるんですか?」

 アデルが少女を縛る縄を切ろうと後ろに回ると、予想外の物がその背中を覆っていた。翼だ。ネージュのような被膜の物とは違う。こちらは明るい色の鳥のような翼だ。

「暗視魔法に頼っているから色まではわからんが……まあ、後だ。今外で賊と交戦中だ。ほどなく助けがくるだろう。板で出入口を塞ぎ、誰かが3回ゆっくりノックするまで開けない様にしててくれ。」

 他と同様の説明をし、むやみに動かない様に告げ、次へと向かおうとすると、遠くで賊と思しき悲鳴が上がった気がした。

 その時点で、賊の居残り組はすべて討ち取られていた。



 地上からの物音や気配が一切しなくなった頃合いでネージュが清々しいという表情で降りてきた。

「伝令かな?一人本隊の方へ向かったけど放っておいた。代わりに奥へ逃げようとしたのを3人ばかり始末してきた。」

 本人たちは混乱の中うまく抜けたつもりだろうが、手に持った松明を空から監視されていたとは思わなかったのだろう。あっさりと補足され始末されたようだ。

「そうか。ご苦労さん。こっちも終わった……筈だ。」

「人質は?」

「見つけた人は全員無事だ。一回、人質に取られたけど……これのお陰でなんとかなったわ。」

 アデルがそう言いながら、槍のギミックを発動させる。

「ふーん。こっちも中々……いい感じだった。槍と剣の中間って感じかな?」

 ネージュも満足げにスネークソードをぶん回す。

「槍と剣の中間?」

「横薙ぎのリーチはお兄の槍よりもちょっと広いと思う。その代わりに、一撃で仕留める威力は足りない感じかな?森だとちょっと取り回しが難しいけど、その時は普通に剣として使えば問題ない。」

「そうかそうか。状況次第で範囲に強くなるのは便利だな。そろそろ上着とけ。」

「え?翼……?竜人?」

「「!?」」

 突然、かなり近い位置から発せられた声にアデルとネージュは慌てて距離を取る。

(油断したか!?)

 誰もいなかったはずのそこには先ほど救出したその少女。翼を持つ者が一糸纏わぬ……否。先ほどは身に着けていなかった筈の腕輪のみを装着してポカンとした表情で立っていた。

「外から合図があるまで大人しく小屋に立て籠もってろって言った筈だけどな?」

「ううっ……すみません。どうしても気になったので……ちゃんと“姿を隠して出てきました”し。大丈夫かと。」

 実際、向かい合って座っていた筈のアデルとネージュの双方に気付かれずにここまで接近してきたのだ。只者ではなさそうだ。殺気のようなものは感じないが、アデルは警戒を強める。

「あんたは?何者だ?とりあえず……それでいいか。気持ち悪いかもしれんがそれでも着ていろ。」

 アデルはそう言うと、近くに転がっている賊の服とズボンを剥ぎ取ると少女に投げる。

「あー、翼人か。もし今のうちに姿をくらましたいってなら、見逃してやるぞ?その代わり、こちらの事も他言無用が条件だがな。」

 “翼人ウィングメン”……“人間ヒューマン”“森人エルフ”“火人ドワーフ”と並ぶ“人族4種族”の一角であるが、少なくともこの大陸での生態は殆ど知られていない。出会うことも“稀”というか限りなく“無”に近いと言われている存在である。彼らは特定の集落を持たず、常に少人数で移動しながら生活すると言われている。一説によると、旧文明の浮遊する遺跡に住んでいるのではないか?との憶測も実しやかに噂されている。また、男女問わず特に成人は美しく、また竜人とは異なり、『飛べる』以外には特に人間と能力の差はないため、かつて圧倒的な数の人間の上に立つ高位の身分の者が彼らを侍らせようと手段を問わずに『大乱獲』を行ったため、“翼人”が“人間”を強く警戒し、まず人前には姿を、正体を明かさないのではと言われている。

「え?ええ……でも、逃げたところで行く場所もないですし……」

「近くの村で拉致されたんじゃないのか?」

「何というか……私は他の女の人たちの代わりとして売られたみたいで……」

 少女が悲しそうな表情でそう言った。

「……まあ、何だ。飛んで逃げる気がないなら上下1枚くらいは着といてくれ。」

「……そうですね。」

 少女はそこでようやく、自分の状態に気付き羞恥とも苦笑とも言えない表情でいそいそと服を身に着けた。

「売られたというのは?まずは名前か。」

 すでに賊も残っていない。かと言って眠るわけにもいかず、アデルはその少女の話を聞くことにした。何というか、ネージュを拾った時と同様の「生気のない顔」をしていると思ったためだ。

「名前はアンナと言います。つい最近までこの近くの村で孤児として暮らしていました……」

「孤児?戦災孤児か?」

「いいえ。ただの……捨て子です。父親の顔は知りません。そして10まで一緒だった母はその村の村長に私を預けると姿を消してしまいました。」

「……理由は?」

「わかりません……」

 その表情が悲しみに染まる。

「そうか、で?」

「村長は2年ほど私を娘として育ててくれました。ところが……村が山賊に襲われると、『私には女10人分の価値がある』と言い出し、山賊と交渉をすると、山賊は私と食料などを取って引き上げました。『翼人とは珍しい、かなりの額になるだろう』って……」

「他の住人……女の代わりに売られた訳か。」

「他の人には家族がいましたので……」

「それに大人しく従ったと?」

「…………」

 知らず内に強めの口調になってしまっていたアデルの言葉にアンナは言葉を返せずにいた。そこにネージュが、

「さっき言っていた『姿を隠して』ってどういう意味?」

「精霊魔法?の一つらしいです。詳しいことはわかりませんが、声を出したり、誰かに何かしたりしない限り、姿を消すことが出来ると。使ったのはまだ今回で2回目ですが……」

「はいぃ!?」

「「え?」」

 アンナの発言に驚いたアデルに、ネージュとアンナが疑問符を投げかける。

「いや、姿を消す精霊魔法って光系列でもかなり高位の魔法だった筈だぞ?」

「ほう。」

「もしかして、回復魔法とかも使える?」

「この腕輪があればある程度は……実は、鞭で打たれた後にそれで傷を癒したら、それがばれて腕輪をあの男の人に奪われてしまっていたんです。」

「鞭で打たれていたのか……」

「あの人たちの言う事を聞かないと、私に限らずみんな例外なく打たれます。」

「そうか……」

 そこでアデルは思い出す。交易の国であるグランにはまだ奴隷制度とその売買を商う者が残っているということを。奴隷が絶対悪とは言わないが、その理不尽さはアデルは気に入らない。何かやらかして、特に強盗やら山賊行為やらで捕まった奴が犯罪奴隷として扱われるのは何の文句もないが、田舎や辺境などで突然攫われて奴隷として売られるというのは納得いかない。尤も、地方民なんて賊に襲われて殺されても大々的な問題として取り上げられることも世の中ではあるが……それも、それを給料を貰いそれを防ぐ立場にいる筈の国軍の兵士が率先してやっているというのだから話にならない。

「なるほど……うん。私にいい考えがある。」

 アデルが他人事の憤りを感じていると、突然ドヤ顔でネージュが言う。

「いい考え?」

 アデルが不審げにネージュに問う。

「アンナだっけ?これからはこの人の事をお兄様と呼べば苦労が減ると思うよ!」

「は?」

 何となく身に覚えがない事もないが、突然の提案にアデルが困惑する。

「ちなみに私の事はお姉さんと呼べばもう賊に怯える必要もなくなると思う。」

「「えぇぇぇぇぇ」」

 二の句に対しては、アデルとアンナが二人して困惑する。

「……じゃあ、せめて“先輩?”」

 そこでネージュは少しトーンダウンする。

「竜人に“先輩”なんて概念あったんだ……」

「ルベルがそんな事言ってた。」

「ああ、確かにあの人らは大先輩だがよ……」

 そこでアデルも改めて思案する。神官と比べれば多少効果が落ちるかもしれないが、喉から手が出るほど欲しかった回復役ヒーラーだ。しかも、本人が弱みと認識しているかはまだわからないが、竜人とは違う形で、明るみになれば厄介ごと万来の翼人であるなら、種族的にネージュを売るということも考えにくい。

「まあ、ネージュの言う事にも理はあるな。君が冒険者になることに否定的でないなら、ぜひうちのパーティに来て欲しいところだが……」

「冒険者ですか?」

「ああ。俺らは冒険者だ。ここに来たのはたまたま軍関係者の関係者に雇われて掃討作戦に当たっただけのね。ただ、知ってるとは思うが、冒険者なんて危険が伴うばっかりで碌に保障も保険もない難儀な職業だ。君なら恐らく、町に出れば翼人であることを公表するしないにかかわらず多少の元手があれば十分やっていけるだろう。」

 アデルの言葉にアンナは首をかしげている。もしかして――

「冒険者って聞いたことない?」

「いいえ。荒事担当の何でも屋?みたいな話は聞いてますが。」

「まあ、間違っちゃいないな。うまくすれば短期間で結構いい収入が得られることもある。」

(これじゃなんかの怪しい商売の勧誘みたいだ……)

 アデルは己の語彙力のなさに少々がっかりした。

「私になれるでしょうか?」

「魔法だけでも有り難い……が、せめて自分の身は自分で守れるくらいの力は頑張って付けてほしいかな?もちろん、やる気さえあれば全力で教えるしサポートする。」

「人の言いなりになりながら流されるだけの方が楽って思うならお勧めしないけどね。」

 アデルとネージュの言葉にアンナはしばし考えるようなそぶりを見せる。そして

「わかりました。“とりあえず”よろしくお願いしますお兄様。」

 実のところはあまり深くは考えていなかったようである。

((この子、絶対すぐ他人に騙されるタイプだ……))

 自分たちの事は一旦棚に上げ、そう判断を下すアデルとネージュであった。

 この日――日付はすでに変わろうとしている時間だが――アデルに1年ぶり3人目の妹が誕生したのである。


「賊がもういないなら、光を灯してもいいですか?」

 アンナがおずおずとそう言う。すでに賊の気配はないが、夜明けまでまだ4時間くらいはあるだろう。

 小屋に戻してもいいが、少なくとも自分たちは周囲の警戒を怠るわけには行かない。

「まあ、構わんよ。もし何かあったら消して小屋に戻ってくれれば。」

「暗い方ががいいんですか?」

「今回はね。竜人は元々暗くても見えるし、俺も今は兜に付与された魔法である程度は見える。が、賊はそうもいかないから光源を奪えばこちらが圧倒的に有利になるって感じかな?実際そのおかげで2人だけでこれだけの賊を始末できたからね。」

「なるほど……でしたらもう少し我慢します……」

「いや、小屋に戻っててくれても?」

「それは……嫌です……」

「そうか……なら、いいけど。」

 そう言うとアンナはアデルの隣にやってきて肩を寄せた。

「ん?」

 何事かとアデルがアンナを見ると、アンナはすでに目を閉じて静かな寝息を立てていた。

「存外、逞しい子かもしれん……」

 アデルはアンナの肩に左手を置き抱き寄せた。


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