要求と要請
遺跡探索から3日、王都に戻ってきたアデル達はいつものように夕方、ブラーバ亭の食堂で注文した夕食が来るのを待っていた。
「やあ。隣り良いかい?」
「……どうぞ。」
遠慮がちにアデルにそう声を掛けてきたのはカタリナだった。
アデルは周囲を確認し、カタリナしかいないこと確認したうえで隣に座る事を認めた。
「戻ってたんだ?」
「そりゃここの所属冒険者だしね?」
「他も?」
「いや、今回は私だけ。」
「何かあったの?」
アデルの問いに、カタリナは以前のような笑顔で返してくる。
「いや。改めてうちのパーティに来てくれないかなーって。」
「無理っす。」
「即答か……」
「リーダーはローザさんのままなんでしょ?ティルザの扱いを見りゃあ、正式加入なんてしたらあの立ち位置に割り当てられるのは目に見えてるし。」
「まあ、うーん。否定はできないけど、私としては助かるかなぁ?なんだかんだと、ローザに撤退を決意させた実績はあるし。」
「何その実績……」
「だって、私らの言う事を大人しく聞き入れた事なんてなかったもん。」
「そこは外で雇った者に対し、ちゃんと最初に決めた条件があったからでしょ。約束はしっかり守りたい人らしいしね。むしろ、こちらとしてはカタリナたちがあの2人と一緒のパーティであることが疑問なんだが?」
「あーね。まあ、色々あるのよ……オトナの事情が。」
「大人の事情?」
「ああ、うん。勘違いしているようだからはっきりさせておくけど、私ローザよりも年上だから。」
「なぬ!?」
「あー……」
カタリナの発言にアデルが驚くと、カタリナは半開きの目でアデルに言う。
「まあ、そう見えるよね。これでもローザより2つも年上なんだけど……」
背丈はネージュと同程度、ネージュの方が少し高いくらいだろうか。その上童顔で有るため、アデルとしてはネージュとアデルの中間くらいの年齢だと思っていたのだが、そうでもないらしい。後衛職の神官な為か、筋肉質ではなく、若干肉付きが良い感じだろうか。確かに、布製の服とローブの上からでも出る処はしっかりと出てると主張している様だった。
「それはお見逸れしておりました……」
「うむ。で、パーティなんだけど……」
「カタリナさんがこっちに来てくれるってなら歓迎しますが、こっちがそっちに行くことはあり得ません。
「ほう。歓迎してくれるかね?」
「あー……ちゃんとあちらを円満脱退してからですよ?」
「チッ」
「独断で移籍なんてやめてくださいよ?円満に、最悪でも意見の食い違いでケンカ別れとかにしてくれないとこちらが困ります。」
「ならパーティ毎くっついたほうが安心お得じゃない?」
「大人の事情ってもしかして?ここはコローナですよ?」
「こちらのお得な要素は何ひとつありませんから。戦争参加する気も派手に名前を売る気もないですから。」
「うーん。困ったね。ローザが大人しく諦めてくれるといいんだけど。例えばネージュの角とか。」
「「え?」」
カタリナの最後の一言で、アデルとネージュが険しい――を通り越して、殺気の籠った視線でカタリナを睨む。
「こわいなぁ。だってテラリアで生まれた鬼子とかっていってたじゃん?」
「ええ。」
「その割には、角がないからあれ?っと思ったんだよね。もしかして髪で隠してる?」
「…………」
「まあ、ミシェルが大反対してるからすぐにどうこうはないと思うけどね。随分とミシェルに嫌われたもんだねぇ。」
「……いや、そうみたいだけど、そんなに毛嫌いされる心当たりはないんですけど……」
「ミシェルはローザの家臣というか部下?だけど、厳格な姉でもあるからね。ローザを2度も押し倒したとなれば……」
「……人聞きの悪いことを……危ないと思って咄嗟にかばっただけですから……とはいえ、女性ばかりのパーティに男一人ってのも色々問題になるでしょうし?」
「そんなのさっさと誰かとくっついちゃえば問題にならないさ。」
「くっつかないから……ってゆーか、言っちゃ悪いけど、ギスギス気味のパーティがよりギスギスするだけだと思うんだけど?」
「まあ、その辺はローザがどう判断するかだね。少なくとも君たちを『使える』とは判断したようだ。で、私としてはローザのブレーキ役にでもなってくれれば大歓迎。ミシェルは『虫』が付かない様に必死ってところかね?」
「いやいやいや。流石に貴族のお嬢様に吸いつこうだなんて思いませんて。それに2番手にはクズ呼ばわりされてますし……下手なことをしてパーティを割るよりはさっさと忘れてくれた方がお互い幸せだと思うんですけどねぇ。《魔術師》を一人紹介してもらったらどうです?ミシェルさんがティルザさんを鍛えるって言ってましたし、ティルザさんが前衛張れるようになればそれで十分でしょう。」
「うーん。まあそのうち何かしらの話があるだろう。色よい返事を期待しているよ。」
「……少なくとも……ないですから。」
アデルがそれだけを言うと、カタリナは本取得後の例の嗤いを浮かべて席を移った。
(面倒なのに目を付けられたな……何か手を考えないとまずいか?)
食事を済ませた後、周囲にローザのパーティがいないことを確認してブラバドに相談した。
「今度は勧誘か……使えると判断されたんだろうな……」
「こっちは駒じゃないんですけどね。なんで貴族令嬢が冒険者の真似事を?」
「あいつは三女でな。家も、貴族とは言え子爵。それも新興だ。貴族としての威厳も権勢も中途半端と言えば中途半端だしな。この機に乗じて一気に名をあげたいのだろう。」
「まあ、意地だけでテラリアのアカデミー首席と言うのだから、才能と努力は認めざるを得ない所ではありますが……彼女の下に付くと言うのは何としても避けたいところです。」
「わかった。こっちも困ってた仕事を受けてもらった身だしな。ここはコローナだ。なんとかしよう。そっちも下手な言質は取られないように注意だけしておいてくれ。」
このところ上向いてきたと思っていた運気がまたしても不安になってきたアデル達だった。




