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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
41/373

分裂と分岐

 入り口の反対側、つまりゴーレムが背後に守っていた壁には入り口とは違う小さな扉があった。サイズ的には他の個室の扉よりも一回りくらい大きい鉄の扉と言ったところか。

 ティルザが罠の確認するが特に何もないと言うことで扉を押し開く。


 扉の奥は武器庫――ではない様だった。

 中には外気と遮断する様に透明なケースに納められたいくつかの武器――恐らくは試作品か開発中のものなのだろう。が、保管されていた。

 その中でもひときわ目立つのが、微かに、しかし禍々しく赤黒く光る、穂先に刺突部分と斧の様な斬撃部分を持つ長柄武器、ハルバートであった。

「これよ……これを求めていたのよ。」

 魅入られている様に半ば放心状態でローザが保管庫を開ける。

「「ちょっと!?」」

 罠を警戒したのだろう、ミシェルとティルザが驚きの声とともに止めようとするが、それは無意味だったようだ。

 特に罠も発動せずに、ローザがハルバートを手に取る。

 すると、ハルバートは一転、眩い紅い燐光を発し――

「熱い!?熱い!」

 ローザが突如苦しみだし、右手を必死に抑える。

「ローザ!?」

 慌ててミシェルがローザの元に駆け寄ると、ハルバートは紅い燐光と共に霧散して消えた。

「……え?」

 一同が目を丸くする中、状況を把握できたのはローザ本人だけだった。

「これよ……これだわ。素晴しい!」

 突然の歓喜の声に周囲には逆に緊張が走った。

「見てなさい。」

 ローザはそう言い、部屋の中央に立つと右手を掲げる。

「…………」

 ローザが何か声を出す。詠唱だろうか?すると、霧散したハルバートが再び姿を現し、

「はっ!」

 ローザが鋭い呼気と共にハルバートを振り降ろすと、分厚い石の床が易々と切り裂かれた。

「上等よ……何より、馴染むわ。」

 ローザはそう不敵に笑い、何か呟くとハルバートがまたしても燐光となって霧散した。

 アデルとネージュは切り裂かれた石床を観察し舌を巻く。砕けた部分もなく、分厚い石の塊が純粋に切られていたのだ。これがあったら先のゴーレムもほぼ造作もなく倒せていただろう。

「それじゃあ、目的達成ってことでいいんですか?」

「ええ。魔石は全て譲りましょう。ゴーレムの残骸も一度に持ち帰れる分は持てるだけ持ち帰って良いわ。その代わり、この遺跡への立ち入りは今後2度と出来ないと思って頂戴。」

「まあ、そうなりますかね。」

 そこで不敵な笑みを浮かべる。それを見て、アデルとネージュが同時に身構える。

「別に反故にしたり、後から襲おうなんて考えないわよ。でもそうね。この遺跡の事は他言無用よ。魔石や素材の出所はこの遺跡であると言わない様に。遺跡の場所も当然秘密よ。」

 表情に反して強烈なプレッシャーをぶちまけながらローザが言う。

「ブラバドさんには?」

「お父様から言ってもらうわ。あなた達も何か聞かれたら、『魔獣とゴーレムがいた』とでも答えておきなさい。」

「…………」

(他に知られたくない感じだな。盗掘防止……ってわけでもないよな。入り口の警備を考えると……) 

 アデルはいろいろ勘繰りたくなるが、藪の中の蛇をつつく趣味はない。こちらとしてもあまり関わりたくないのは事実だ。

「まあその辺はそうしておきましょう。」

 アデルの返事を確認すると、ローザは他のケースも確認する。次のケースに収められていたのは黒い表装のやはり禍々しい本だった。

「これは何かしら。」

 ローザがそれを手に取りぱらぱらとめくる。

「まあ、読めるわけないか……あなた何か判る?」

 そう言いながらカタリナにその本を渡す。

「多分わからないと……」

 そう言いながらカタリナが受け取ると、今度は本から黒い霧が発生し、カタリナを飲み込む。

「え?あ?ああっ!?何これ!?うあ?あ、あああああああ」

 カタリナが絶叫しながらうずくまると、床でのた打ち回り始める。黒い霧は霧から闇のよう濃度を増しカタリナを包み込むと程なくして、先のハルバートと赤い閃光の様に本は闇と共に霧散して消える。

「何かわかったかしら?」

 ローザがそう問いかけると、

「これはちょっとヤバい奴かも……」

 カタリナがそう言いながらニヤりと笑う。

「やっぱり、そういうことなのね。」

 ローザが勝手に納得して嗤う。

「あとは、白い長剣、青いレイピア――フルーレと言うべきかしら。……ね。」

 そう言いながら次に白い長剣を取り出すと、ミシェルに渡そうとする。

「いえ、私になど勿体なく存じます。」

 ミシェルは辞退しようと一歩下がるが、ローザがそれを許さない。

「恐らくだけど、ひとりひとつ……みたいなのよ。せっかくだからあなたがとっておきなさい。」

「でしたら、私めになどではなくお館様に。」

 ミシェルがそう言うと、ローザは急に興が覚めたと云う様な表情で、それを放り投げる。

「ちょっ!?」

 ミシェルが思わず慌ててそれを受け止めようとすると……

「あ、もしかして……あ、いけません。あああああああああああ。熱い!熱い!」

 他の二つと同じ様にその武具が持つ色に光り出す。ひときわ白い輝きが周囲を満たすと、やがてそれがミシェルの右手に収束する。

「あ、あ、恐れ多ございます。」

 ミシェルがそう言うと、

「こんなもの、他の人間に渡せるわけがないでしょう?」

 そう言いながらため息をつく。

「えーっと、全部で4つ?」

 ネージュが少し離れた位置で小さく耳打ちする。

「と、なるとレイピアがティルザ行きだな。よし、ずらかるか。」

 初めて見る魔法の武器に興味はあったが、数も丁度4つ、しかもレイピアなんてどちらも使えないものではどうしようもない。

「あー、それでは部外者はこれで。ゴーレムばらして帰りますわ。」

 アデルがそう言い後ろ足で部屋を出ようとするが……

「お待ちなさい。部外者……ね。それじゃあ、あなた達も私と一緒に来なさい。悪い様にはしないわ。ええ、それが良いわ。そうすれば部外者じゃないでしょ?」

「え?……あー、いえ。うちら名誉とか家名とか興味ないんで。戦争とかやる気ないし……生活落ち付いたらコローナかグランあたりで小さな店でもやろうかと……もう、取引先も考えてあったりして……じゃ。」

 漫画なら「シュタ」っと擬音が付くくらいの勢いで片手をあげ、アデル達が部屋を出ようとすると、

「だめ……よ。」

 ローザが凄まじい殺気を放ったためそれに身構える様に足を止めてしまう。

「せっかくなんだか……ら?」

「「え!?」

 その一瞬を付いてか、カタリナに回り込まれてしまう。

(あんた自称レベル12の神官だよな?)

 気配を全く感じさせない移動にアデルとネージュもあっけにとられてしまう。

「せっかく4つあるんだし、残りは条件通りティルザさんでいいでしょう?レイピアなら騎士の決闘に良く使われる様ですし、ローザさんが教えればそれなりに鍛えられると思いますが……?」

「…………これは素晴しい魔法の武器よ?興味ないの?」

「興味だけなら大いにありますが、使うかどうかは別です。それにティルザさんだけ何もなしではおさまりが悪いでしょう?」

「戦えない奴が持っても仕方ないでしょ?」

「…………」

「……え?」

 全員が黙り込んだところで、意外な行動をとったのはミシェルだった。

 ケースからレイピアを取り出すと、それをティルザの右腕に突き刺す。

「え?嫌!?あああああああああ」

 虚を突かれたティルザが、貫かれた痛みと、溢れる閃光に苦しみだす。

「ちょっと!?あなた何をしているの!?」

 怒鳴ったのはローザだ。

「いえ。彼の言う通りかと。ティルザは私が鍛えましょう。その気のないクズにくれてやった所で宝の持ち腐れ、下手に売るような真似をされてもお困りでしょう?」

 ミシェルの目が据わっている。

 クズ呼ばわりは心外だが、アレを下手に押し付けられるよりはマシか。青い光はやはり程なくしてレイピアと共に霧散する。

 カタリナがティルザの右腕の傷を癒していたが、その目に光はなく、口元が嗤っていた。

(どう見ても呪いの類の品だよなぁ……)

 アデルな何も見なかった体で部屋の外、ゴーレムの元に向かうのだった。




 保管所の探索を終え、再びゴーレムの元へと戻る。

「約束通り、解体して魔石が出てきたらあなたに上げるわ。但し金属素材は魔石と共に一度に持ち帰れる範囲のみよ。」

「充分です。」

「ふふふ。見てなさい。そして少し後悔すればいいのよ。」

「????」

 ローザは不敵に笑いながらそう言うと、先ほどと同じようにハルバードを具現化して見せる。

「はぁっ!」

 ローザが気合一閃でハルバードを振り下ろすと、熱した飴でも切るかの如く容易くゴーレムの腕を切断した。

「ふふふ……ふ。」

 同様にミシェルが長剣を具現化し、振り下ろすとこちらは剣から光の刃が飛び、ゴーレムの胴体部分を真っ二つにする。

(あ、剣は結構よかったかも……)

 口には出さないが、その切れ味を見てついそんなことを思ってしまう。

 程なくして二人によりゴーレムの解体が終わると、人で言えば心臓に近い部分から魔石が転がり落ちてきた。サイズは、ネージュの頭くらいある。かなりのものだ。

「これは……困ったわね……」

 思わず顔を輝かせるアデルとネージュを尻目にローザが渋い顔をする。

「え?ちょぉっ!?」

 ローザの行動にアデルは信じられないという驚きの声を出してしまった。

 ローザはこともあろうか、その魔石を真っ二つにしてしまったのだ。

「……どういうつもりですか?」

「仕方ないでしょ。こんなサイズの魔石どうするつもりだったの?」

「え?」

「売るつもりだった?それとも何か加工するつもりだった?」

「あなたには関係ないですよね?」

 アデルが思わず怒りの声を発してしまうとルーザは涼しい顔で笑う。

「魔石は全部って言ったけど、原形通りなんて一言も行ってないでしょ?」

「はぁ?」

 アデルが怒りをぶつけようとすると、剣を出したままのミシェルが牽制に入る。

「ごめんなさいね。こちらとしても不本意なのだけど……こんなサイズの魔石をどこに持ち込むつもりかしら?魔石を渡す条件は出所は明かさない事よ?」

「…………わかりました。それで良いにします。」

「賢明ね。」

 ローザとしては何としても出所を明かされたくないようだ。アデルとしては金目的ではないので量が確保できれば悪くない話だ。確かに元サイズのまま表に出そうとすれば出所など面倒な詮索をされかねない上に無事にここから帰らせてもらえる保証もなくなる。魔石もすでに割られてしまっているのでもはやどうにもならない。納得は行かないが現状の理解はせざるを得ないのだ。

 結局、ネージュが魔石を、アデルが背負い袋にぎっちりと収まる量の素材を回収して帰途に着くことになった。


 帰り道は誰一人として口を開くことはなかった。

 無言で歩く隊列の最後尾をアデルとネージュは歩く。口ではああいったが、やはり手に入りかけていた頭サイズの魔石を割られたことはショックだったのだろうとネージュは察した。

 ローザはローザでミシェルが初めて自分の思惑以外の行動をとった事に苛立ちを募らせ、ティルザは突然攻撃されたことにショックを受けている。レイピアを自分に渡すためとは分っていても、他にやり方はあっただろう。ミシェルは無表情でローザの後に続き、カタリナは何か悟ったような表情で静かに後ろを歩く。

 アデルとネージュは周囲ではなくパーティに警戒せざるを得ない状況だ。

 時折振り返る、ミシェルとカタリナが、睨むように、吟味する様に振り返ってアデル達を見るため、尚更警戒感が増す。


 遺跡入り口への入口。即ち地上に出た時点で、依頼達成。解散となる。念のためローザに達成証明書を認めてもらい預かると、休憩も食事も取らずに自分たちの馬に跨る。

「くれぐれも……分ってるわね?」

「分ってます。黙っているのも仕事の内でしょうし。」

「そう。それならいいわ。」

 双方、それ以上の事は語らない。アデルは馬の上からだが軽く会釈をして、馬を走らせた。


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