作戦と実戦
直近のあらすじ
貴族様(めんどくさそうな人)が現れた!→いいから旧文明の遺跡いくぞ。
→大丈夫か?このパーティ…… →ネージュ初被弾。傷は浅くはなさそうだが……
→げぇっ!ゴーレム!?→ああ、やっぱり勝てなかったよ……
→策は決まった。あとはやるだけだ。 ←イマココ
「準備はいいかしら?」
30分くらいの休憩を終え、扉の前に合流し事前準備を整える。
アデルがローザとミシェルの長剣、ネージュのミスリルショートソードに“火力付与”を掛ける。自分の分は最初の標的となるために敢えて掛けていない。続いてミシェルの楯を借り受け、ローザが“聖壁”を掛けた。
一同、OKのサインを出したところでアデル・ローザ・ミシェルが扉の前に立ち、ネージュがスイッチを切り替える。
ゴゥンと初回と同様に扉がスライドすると、やはり最初の時と同様にゴーレムは部屋の中央で鉄の山と化していた。うずくまっているだけかもしれないが、恐らく一種の擬態なのだろう。
部屋に入り配置に付いたところでアデルが“火力付与”を発動させるとゴーレムが反応し、むくりと立ち上がった。
ゴーレムの歩みがしっかりと自分に向かっていることを確認してアデルは右に回り込むように移動する。やはりゴーレムはそのように動くようだ。
今回は初撃をローザが入れる。ミシェルが盾を貸している為、急にターゲットが逸れた場合に備えてである。狙いはやはり左膝だ。若干見上げる形になるが届かない位置ではない。痛覚がないのかゴーレムは自分の受けた傷を一切顧みずにアデルへと向かう。そのうちに膝を崩し自重を支えきれない様になれば攻撃もだいぶ封じ込める筈だ。
ガキーンとやはり金属同士の激突音が響く。しかし魔法の掛けられたミスリルソードは確実にゴーレムの膝に前回よりも深い傷を刻んだ。
「いける……!」
ローザが連撃を叩き込む。ミシェルもゴーレムのターゲットが自分に向かっていないことを確認し、上段から両手持ちで飛び上がって武器を叩きつける。どちらの武器にも異常は見られない。ネージュは騎士組とは少し距離を置いてやはり魔法付与されたショートソードを抜いて警戒していた。古代の遺跡の守護者がこんな簡単に倒せるとは思っていない為だ。
自分たちに全く目もくれずに移動する目標に合わせて横移動をしながら攻撃を打ち込む。如何に自分が標的にされてないとはいえ、莫大な質量を持つ金属製ゴーレムの正面に立つことはできなかった。足のあげ方からして踏み潰されることはないだろうが、蹴っ飛ばされでもすれば相当のダメージは避けられない為だ。
一方アデルはゴーレムの位置と部屋内のスペースを考えながら慎重に横移動を行っていた。一歩の歩幅が違う為、その圧力に徐々にではあるが部屋の一角に押さえつけられつつある。地味ではあるが、下手にアデルが攻撃に参加して拳を振り下ろされるなど暴れられるとせっかくのペースが崩れたり、或いは周りが不意に巻き込まれてしまう恐れがあるため楯を構えてじりじりと横へ移動するだけだ。
「きりがないわね。アデル。5秒だけでいいから止まりなさい!」
ローザが焦れたか怒声が飛ぶ。5秒――結構なプレッシャーだが、アデルはその通りに実行した。
「そろ、そろ、崩れろ!」
ゴーレムの進路がまっすぐになったところで、ローザは3秒ほど走ってゴーレムの左膝の正面脇に移動すると、助走と共に最大の渾身と気合いでゴーレムの左膝を攻撃する。
その時だった。
「崩れる!お兄!腕が動いてる、何かくる!」
ネージュの言葉と共にゴーレムが傾く。騎士組は言葉に反応して一気に距離を取ると、ゴーレムは見事に左へ大きく傾いた。と、同時に右手を正面――アデルに向けて広げると、手のひらが発光する。
(あ、これやばい奴かも……)
その動作にアデルは慌てて右へと走るが、手のひらの向きが少し追尾したところで指向性の強い光の筋を放った。熱線か閃光系の魔法だろうか。アデルがとっさにジャンプ+前転、回転レシーブの体で回避すると、周囲から空気中の埃か何かが焦げる匂いがする。
アデルは嫌な汗がじわっと一気に噴き出るのを感じた。今回は何とか避けられたが何度も、或いは薙ぎ払われるように放たれると回避は厳しそうだ。借りた楯で受けるにしろ、一瞬だが見えた限りでは光の束は直径が1メートルくらいありミシェルの楯でも全ては覆いきれない。
するとゴーレムは今度は左手をかざすと、先ほどと同じように徐々に光を帯びていく。
「くそっ!」
アデルは思わず、いや、最初から選択肢の一つではあったが、魔力付与した槍を紐の端を握らず投げつける。槍が見事にゴーレムの顔面部分に当たると、左手の光が数秒霧散した。数秒だけ。つまりは再度発光が始まる。
擱座している現在、安全地帯は左手の可動域外……背後くらいか?ただ、ゴーレムが何をもってこちらを感知しているのかがわからない。魔力?熱?それとも普通に視覚?
どちらへ逃げるか。右?左?前?迷っている暇はなかった。アデルは急いで左に向かって走り出し、光った瞬間にジャンプで一気に座標をずらす。
先ほどと同じ要領で何とか回避する。が、予想されたか補正されたか、足の先端が光に巻き込まれてしまった。
「あっつ!?
右足の脹脛から下が焼かれる。さらに熱で履いていたブーツに引火したか光が収まっても炎の熱が襲ってくる。アデルはゴーレムを見ると今度は無理に立ち上がろうとしている様子だ。掌は光らない。魔力切れ?クールターム?とにかく今のうちにブーツを叩きつけて火を消す。
「今のうちに右膝を!あとは後ろからなるべく急いで壊すしかないかも!」
光の筋に意識を取られていた騎士組がハッと我に返り右膝の破壊に掛かる。大きく移動しない分狙いは付けやすいが、いつ予想外の動きをするかわからない。騎士組は少々慎重に攻撃始める。先ほどのような切り付けではなく、巨大な氷をピックで砕くようにひたすら刺突を繰り返す。
騎士組が解体作業を進めている間に、ネージュはゴーレムの左膝から跳躍とダッシュでゴーレムの首まで一気に上がると、飛び上がって脳天、さらに頭頂部に上がって顔面を思い切り剣で突く。
流石にこれは嫌がるようで、ゴーレムはアデルへの攻撃の手を止め、首筋のネージュを払おうと両手を上げて払おうとするが、ネージュはうまく回避しつつさらに頭頂部へと刺突を繰り返す。
人間が首筋に止まった蚊を叩くような動作でネージュを潰そうとするが、ネージュはジャンプで躱し、そのまま剣で後頭部、首、背中と表面を削るように重力その他を加えて滑り降りる様に着地する。
ゴーレムがネージュへの対応を迫られている間に足元ではローザとミシェルがなんとか右膝を破壊することに成功していた。
「行動……標的の優先順位的に弱点は頭かね?」
「でしょうね。手のひらに気を付けてもう少し時間を稼いで頂戴。背後から頭を狙うわ。」
「頭を狙うと払おうとしてくるようなのでご注意を。」
「そうね……」
アデルとローザが短く次を確認しあう。
(次は右手か?)
アデルは右足に走る激痛に耐えながら、右手の掌がなるべく向かない位置に素早く移動する。
そうこうしている内にネージュが再び頭部に張り付き頭頂部や顔面に刺突を繰り返すと、払いのけようと手を大きく振ったところでバランスを崩しそのまま仰向けに崩れ落ちる。
その後、手の動きに注意しつつ、ローザ・ミシェルそれにネージュが頭部に集中攻撃を行うと、やがてゴーレムは動かなくなった。
ゴーレムが動きを停止して1~2分、動かないことを確認すると扉の外に待機させていた後衛組を呼び寄せ、すぐにアデルの治療を行う。カタリナがアデルの足の状態を確認すると足には無数の、そして大きな水ぶくれができていた。あの光は恐らく熱線だったのだろう。カタリナが手をかざし祈りを捧げると強烈な光と共にアデルの足は元通りに治っていた。
アデルは槍、楯、ブーツと当初の装備品のほとんどを失いつつも、古代の遺跡の守護者を辛くも倒すことが出来たのだ。
「これ、一部で良いのであとで解体して持ち帰ってもいいですか?」
アデルが尋ねるとローザが怪訝そうな表情を向けた。
「槍も楯も壊れちまったんで、これを素材に作り直したいのですが?」
「そうね……探索の後でなら一部は認めましょう。」
「流石に全部持ち帰ろうとしたら何往復掛かるやら……」
「…………」
ローザは何か思案し、慎重に言葉を選ぶようにだが、一応の許可は取り付けられた。あとは奥のスペースに何か良い物があることを祈るのみである。




